第29話 疑問

貢献は、消えていなかった。

実くんの術の威力は完璧だったのに消えなかった。


ならば理由は━━貢献は術を跳ね飛ばせるほど強かったか、実くんに術がブレるほどの気の迷いがあったかのどちらかだろう。


前者は考えにくい。ならば後者?


「実くぅ〜ん。俺を倒せるとでも思ったのォ〜!?」


話し方とは裏腹に貢献が嫌になるほど冷たい眼差しで実くんを刺すように見つめている。

その目の中にある二つの黄緑色の瞳には、よどみがかかっている。


「生田目ちゃんも割と頼りにならないねぇ」


貢献が私を馬鹿にしたようにいう。

だけど、なんの感情も湧かなかった。



本当に。本当にどうでもいい。


私はいつでもなんでもどうでもいい。


昔はこうなんじゃなかったのにな。


━━こんなきもちになったのはいつからだっけな。


抑強扶弱 よくきょうふじゃく


唐突に発されたその声を聞くや否や私は前へと身体ごと倒れ込んでいた。


       ◻︎▪︎◻︎


「……ここは?」


私は自然とつぶやいた。


それもそのはず。


私は真っ暗な空間へと迷い込んでいたのだ。


どうしたら出られるのだろう。


脱出法を考えていると、突然目の前に二人の男女が現れた。

男の方はがたいがよく、色が黒かった。そして女の方は私に少し似ていた。

そして二人とも三十代後半くらいに見える。


「この人殺し!」

「愛、お前のせいで俺たちは死んだ!」


私は戸惑った。

死んでないのになんで死んだとかいっているのからという理由も充分にあるが、この二人に見覚えがあるからだ。


……でも普段の私なら見覚えがあろうがなかろうが、罵られようが、罵られまいが本当にどうでもいいことなのだ。


いや、最近はそうでもないか?


というか、この人たちは忘れてはいけない人たちな気がする。


「この人殺し!!役立たず!!」


そんなことを考えていると、今度は、後ろから完全に聞き覚えのある声がした。


振り返ると、愛しの弁才天様がそこにいた。


「……弁才天さま?」

「アンタは本当にゴミだね」


愛しの人に突如暴言を吐かれて私は戸惑った。


だけど、嫌悪感は全くしなかった。


むしろそれさえ愛おしい。


けれど━━


「アンタなんて拾わなきゃよかった。妾のことを好き好きいってるのもはっきりいって気色悪いから」


私は面食らった。


弁才天様がこの言葉を発したことについてではなく、この言葉そのものに。


なんで、私はこのひとを愛しているんだ?


確かに、身寄りのない私を拾ってくれたことには感謝している。


だけど━━


普通こんなんなる?


まず、私だし。


「どうしてお前は━━」


どうして私は━━


このひとを愛しているのだろう。

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