繁盛するお店経営を妬まれて、何度も追放され、チート魔物も襲ってくるけど、前世の寿命が残ってる姉妹は『寿命スキル』で乗り切ります。

いそゆき

第1話 砂糖と営業許可の取り消し






「いつもありがとうございます」




馴染みのお客様に《シュークリーム》と《マカロン》が入った袋を渡す。




私はこのお店『スウィーツのマルティナ』を運営しているミミ・スタット。


年齢は10歳だが、とある方の計らいで見た目は実年齢より3〜5歳ほど上に見えている(はずだ)。







「お礼を言う」




私に続いて馴染みのお客様に独特な言葉遣いで感謝を伝えているのは、もう1人の運営者で妹のリリ・スタットだ。


リリも9歳だが、私に映るその容姿は12歳以上に見えている。





「それにしても、ミミちゃんとリリちゃんがここでお店を始めて2年だっけ?」



「はい。お陰様で今日が開店2周年となります」



「そうかい、そうかい。今じゃ、毎日他所の街から人が買いに来る人気店だもんね。この行列だし」




馴染みのお客様が店の外まで続く行列を見ながら言う。




「だからこそ、心配だよ。あんた達、2年前と変わってないんだもの。忙しくても、ちゃんとご飯を食べるんだよ」




馴染みのお客様はそう言い残し、店を後にする。


私がリリの方を見ると、表情が少し曇っていた。

どうやら、同じことを考えていたらしい。






そろそろ、この街を離れるべきなのかもしれない、と。






馴染みのお客様が言った『2年前から変わらない』という言葉。




それは、そのままの意味であり、私とリリは2年前から成長していない。



容姿も変化していない。







なぜなら、私達は前世でのある出来事によって、141歳分の寿命を消費しなければ本来の時間が動き出さず、加齢しないからだ。









営業時間である午後12時から14時までの間、約1,000人のお客様を捌き、今日の営業を終了した。





「ミミ、そろそろ砂糖が切れる」



「分かったわ。なら、今から砂糖を取りに行きましょうか」



「それがいい」





私とリリはその場で目を閉じると、砂糖がある北の山脈を思い浮かべる。

体が淡く光り出すと、瞬時に景色が切り替わり、険しい山脈の麓が現れた。




私とリリが使える『転移』スキルだ。





「リリ、今日でサブスクの効果が切れちゃうから、更新しないとね」



「1番、重要。今すぐやるのがいい」




リリは自身のステータス画面の操作を始めたので、私もステータス画面を開いた。








◇◇◇ミミ◇◇◇




《サブスク有効期限:残り1日》



『スキル』

・寿命消費

・寿命退行

・寿命延伸

・亜空間収納

・千里眼

・特定剣技

・攻撃魔法全種類

・回復魔法全種類

・転移

・稼働ハウス



▪️各スキル使用時、1回につき寿命1日消費。ただし、サブスクを契約することで、1年間継続使用可能(連続使用は制限あり)。






今日でお店の開店2周年ということは、ちょうどサブスクの有効期限が切れるタイミングだったのだ。


私はステータス画面を操作し、サブスクの更新を行なった。








《サブスク有効期限:残り366日》


《前世寿命:66年4ヶ月》







サブスクの更新と共に表示された《前世寿命》



これが私とリリが加齢しない理由。







前世において、私とリリは時空を超えた魔物のような存在に寿命を吸われ、最後は殺された。


本来であれば、私とリリは80歳まで生きる予定だったのだが、10歳と9歳で死んだ。




この出来事は神界で自然災害扱いとされ、神様より偉い悪神様の厚意により、失われた寿命が今世で与えられた。





私は70歳分、リリは71歳分。






この《前世寿命》を使い切った時から、私達の加齢が始まる。






因みに、勘の良い方ならお気づきだろうが、私とリリは其々10歳と9歳のままこの世界に転生している。


そのため、この世界に親はいない。



それでも、2人でこの2年間、生き抜いてきた。





更に、もっと勘の良い方ならお気づきだろうが、この世界に来て2年間サブスクを利用し、今、3年目の更新を行なった。


普通に考えれば、前世寿命が67年になるはずだが、ステータス画面には《前世寿命:66年4ヶ月》と表示されている。




差分の8ヶ月分に関しては、昼のスウィーツ業ではなく、夜の特殊家業で使用したものだ。









「ミミ、ボサっとしてる」



「ごめんね。つい説明し始めちゃって」



「??。気にしないことにする」




リリが話しかけてきたことで、ここがある高ランクモンスターの縄張りである北の山脈の麓であることを思い出す。



何度も来ている場所だが、緊張感を持つことに越したことはない。





私とリリは、転移した場所から細い脇道に入り、5分程岩肌に沿って歩く。


すると、いつものようにあるモンスターが石造りの台座に横たわっているのが見えてきた。






『来たのか?例のものは?』




私達より遥かに大きいそのモンスターは、目を輝かせ、口から涎を垂らしながら聞いてくる。




「持ってきたよ。リリ、出してあげて」



「了解と告げる」




リリはスキルである『亜空間収納』からシュークリームを200個取り出すと、台座の前に置いた。





『今日はシュークリームか。このドラゴンを虜にしてならない魅惑のシュークリーム』




ドラゴンである赤竜は、威厳をなんとか保ちながら言うが、既に台座は涎まみれになっている。






「じゃあ、砂糖を貰っていくね」



『持っていくがいい。可及的速やかにな』



「人前で人化するのは恥ずかしいと推測する」



『う、うるさいぞ!!』






赤竜の赤い体が心なしか更に赤くなった気がした。

ドラゴンのままの体では、シュークリーム200個は一口で終わってしまうため、人化してから食べているらしい。


ただ、人化した姿を見せるのは恥ずかしいらしく、いつも私達が帰ってからこっそり食べているのだ。





私達は、そんなかわいらしい赤竜が横たわる台座の後ろ側に回り、天井の低い洞窟の中に入る。


洞窟は直ぐに終わり、開けたその場所には1本の大樹があった。


大樹の幹からは白く輝く砂糖が流れているため、私とリリは『亜空間収納』から容器を取り出し、砂糖を補充した。




前世での砂糖がどうやって作られていたかは分からないが、こちらの世界では、砂糖は大樹から生成される貴重品であり、ドラゴンの宝となっている。


本来であれば、人間が砂糖を手に入れるのは不可能なのだ。







容器がいっぱいになると、『亜空間収納』に仕舞い、赤竜に別れを告げてお店まで戻った。




すると、お店の前にこの国、マルヴィン王国の紋章入りの鎧を纏った騎士が10名程立っていた。






「この店の主人だな?」



「そうですが」




この店の主人だと確認が取れると、先頭にいた騎士が紙を広げ、こう告げてきた。





「スウィーツのマルティナ、この店の営業許可を本日付けで取り消す。早急に立ち去るように」







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