第29話

 気づいたら俺はフレッドの店にいた。


「また死んだぁぁぁっ!!」


 叫びながら天を仰ぐ。

ルリアの道標看破メティス・ロゴスで作られた精神世界での修業は既に一月を越えていた。


 今回の目的は詰め所の牢に閉じ込められているソフィーの救出である。そのため、事前に捕まったことのあるムスタグに詰め所の構造を教えてもらったのだ。それで貸し借りは無しとなった。

 そして、ムスタグから聞いた詰め所及び牢屋の構造を元に、ルリアが道標看破メティス・ロゴスの世界にグリムワの街を作ったというわけだ。


 ルリアがいる牢屋までの道中、冒険適性値レベル換算で言うところの300から400ほどの騎士を様々な位置に配置し、そいつらが俺に襲いかかってくるというルールのもと、修行が始まった。


「勝てるわけねぇだろうが!!」


 思わず叫んだ。既に百回くらい死んでいるし、もう死にたくない。怖い。

 この店から出たくない。だって、出たら、頭のおかしい騎士たちが全力マックスフルパワーで俺を殺しに来るんだもん!!


『物事を単純に考えすぎですわね。ゾンビの時と違って、人間には個性というものがありますわよ?』


「だからって毎回違う攻撃してくるのはひどくない!? 俺の心は既に折れてるよっ!!」


 マジで対策の立てようがないのだ。


 魔術の対策を立てたら剣で斬られるし、剣の対策を考えていけば、今度は槍、弓、魔術、天慶スキル……などなど。

 いや、でも、だからって、どうしてここまで勝てないんだ?


「おかしくない? 俺だって冒険適性値レベル400あるんだよ? あいつらだって同じくらいだろ?」

『何度も言いますけど、冒険適性値レベルはダンジョン攻略用の指標であって、対人戦は別ですわ。冒険適性値レベルは同じでも殺しのプロとアマチュアでは戦い方が違うでしょう?』

「どうしたらいいんだよ!?」

『何度も言いますけど、それを考えるのも含めての修行ですわ』

「お前、俺が聖水ぶっかけたりしたのを根に持ってるだろ? だから、こんな理不尽なことしてるんだろ?」

『そんなの当然ですわ』


 にっこりと微笑まれた。


『偉そうにわたくしを脅したくせに、無様に何度も殺される姿はざまぁないですわー! 草が生えますわー!! プークスクスですわー!!』


 どこから出したかわからない扇子を持ちながら高飛車な感じで笑っていやがった。

 生まれて初めて、心の底から人を殺したいと思った。思ってしまった。


「お前、覚えてろよ……表に出たら、絶対、復讐してやっからな……」

『わたくしは覚えてますけど、あなたは忘れますわよ♪ 今、どんな気持ちですか? わたくしにざまぁされて、今、どんな気持ちか教えてくださります~? プークスクスですわぁ♪』

「死ね、おるぁぁぁぁっ!!」


 全力で斬りかかったら、『ひっ!』とビビられながらも扇子で受け止められた。

 何度も殺気を込めて斬りかかるが、扇子が勝手にルリアを守りやがる。


『こ、この世界では、わたくしイズナンバーワンですわよ? ナチュラルに俺TUEE空間ですから、わたくしに逆らうだけ無駄ですわ。ご自分の実力というものを、鑑みてはいかがかしら?』

「わけわかんねぇことばかり言って煽りやがってよぉ!! お前だけは俺がぶっ殺してやるぁぁ!!」

『そ、そんな風にすごんでも怯みませんわよっ!! カモン!! 騎士団!!』


 ルリアがパチンと指を弾いた瞬間、安全地帯のはずである店の中に三人の騎士が現れる。いきなり斬りかかられたので、どうにか逃げて躱した。


「クソぉぉぉぉっ! もう死にたくなぁぁぁぁい!! だずげでぇぇぇっ!!」

『わたくしに喧嘩売るからそうなるんですわ! ざまぁねぇぇですわーーーーー!!』

「覚えてろよ、てめぇぇっ!! 絶対ぇにぶっ殺してやっぎゃあああああ!!」


 騎士に剣で刺された。死ぬほど痛い。この怒りを視線に乗せてルリアを睨む。俺の殺気におじけづいたのか、ルリアが慌てだした。


『……え? あの、本当に忘れますわよね?』

「忘れねぇ……絶対ぇに……忘れ……ねぇ……から……ぎゃああああ!!」


 背後からトドメの一撃をくらい、俺は叫びながら倒れる。


『え? 怖っ! ちょっと、そんな風に恨まれるのは、ちょっと怖いんですけど!? 忘れますわよね? 忘れてくれますわよね!?』


 三人の騎士にズタズタに斬り裂かれながらも、俺はルリアの足首に手を伸ばす。


「お前……だけ……は……」

『自分が復讐するのはいいですけど、わたくしは復讐されたくありませんわ! 忘れますわよね!? 忘れてくださいまし!!』


 意識を失うまで俺は殺気のこもった目でルリアを睨み続けた。

 再び生き返ったら、今度はこちらのご機嫌をうかがうような感じだったが、無視して店を飛び出した。


 俺は強くならねばならない。


 ソフィーを助けるために――


 それ以上に、悪霊をマジでブチ祓うために――


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