最終章

第40話 再会

 召喚士の手配はローズに依頼した。シルバを召喚したあのよれよれ召喚士でいい。


 ところが、彼は今やグレースの妖精を召喚したことで有名になっており、予約で満杯だという。


「寝たり食べたりする時間はあるのでしょう? そこに予約を入れるように先生に言ってきて頂戴」


 グレースはマリアンヌに命じた。


 マリアンヌは不思議に思っていた。どういうわけか、シルバをここ最近見かけていない。そして、グレースは妖精の召喚士の手配をしている。もしも、グレースに妖精がいなければ、排除できる大チャンスなのだが、わざわざマリアンヌに妖精がいないことを知らせるだろうか? 何だか罠のような気もする。


 それに、マリアンヌはグレースに仕えているうちにグレースへの情が出来てしまった。グレースは敵には容赦ないが、味方にはとても優しい。マリアンヌにもまれに優しくしてくれる。なんといってもグレースは綺麗で素敵だ。教皇からは隙あらば排除せよとの指令を受けているが、マリアンヌはグレースを殺したくはなかった。


(シルバがいないと完全に確認ができてからでも遅くないわ。何だっけ? 「咲いてはことを染み込ませる」だっけ)


「急いてはことを仕損じる」とグレースが言っていたことをマリアンヌは思い出していた。


***


 よれよれ召喚士が例のさびれた神殿で今夜22時から召還を行うと言ってきた。先約を優先するという方針で、権力にこびへつらうことなく、誠実な対応を心掛けているのだという。大恩人であるグレースであっても、方針は曲げられなくて申し訳ないと謝っていたとローズから聞いていた。


 なるほど、立派な心掛けだと感心していたのだが、久しぶりに会ってみて驚いた。清潔で爽やかな青年にすっかり変わってしまっていた。


「聖女様、ご無沙汰しております。本日はご依頼ありがとうございます」


「無理を言ってすいません。よろしくお願いします」


 グレースは懐かしい神殿を見渡し、妖精陣の中央まで進み、16歳の時と同じように、跪いて目を閉じた。


 参列者は前回とは異なり、ローズではなく、マリアンヌだった。マリアンヌは知らないが、マリアンヌの妖精7匹はシルバのいない間、マリアンヌはもとより、グレースを守るように妖精王から直々の依頼を受けていたのである。


「では、召喚の呪文を唱えます」


 前回とは打って変わった正確でテンポのいい召喚呪文が発せられた。妖精陣が輝きだす。ただ、色がなんだかおかしい。通常は白色、モフドラの場合は金色だったが、今回はピンク色で、寝殿全体がちょっとエッチな感じの妖しい雰囲気になってきた。


(なんでこのお嬢様の召喚はいつも変なんだ!?)


と召喚士もうろたえている。


「あ~ん」という艶めかしい声が響いたかと思うと、ピンクの光が一瞬にして消え、ピンク色のふくろうがグレースの肩にとまっていた。いや、よく見ると浮いていた。


「こ、これは妖精王様!?」


 召喚士が叫んで、すぐに跪いて敬礼した。


 マリアンヌは目を見開いて驚いていた。また可視できる動物型の妖精の登場だ。「妖精王」だって? 何でこのグレースという人は、いつも規格外の妖精を召喚してしまうのだろうか。


『あなたがグレースちゃんね、よろしくね。私は妖精王よ。名前はないからあなたがつけてね』


(よ、よろしくお願いします。シルバは知り合いなのですか?)


『ええ、それはよーく知っているわよ』


 この先、この妖精が何かしでかすのではと、グレースは少し心配になってきた。


 そのとき、寝殿のドアが開いて、一人の若い青年が入ってきた。


 妖精界の人型の容姿とは若干異なっているが、非常に美しい青年だった。グレースは一目でシルバだとわかった。


「シルバ!」


「グレース!」


 シルバからすると20年ぶりのグレースだった。二人はお互いに駆け寄って、抱き合い、そして、熱いキスを交わした。


 召喚士、妖精王、マリアンヌ、マリアンヌの7人の妖精たちは、ただただ見せつけられているだけだった。

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