第28話 モフドラ

「モフドラ」はもふもふした猫に似た妖精だった。姿はペルシャ猫の子猫に近い。毛は真っ白で、目は薄い銀色だ。


 はっきり言って、かわいい。


 俺はかわいくなってしまったにゃあ。


 にゃあ、なんて語尾につける必要はないし、そんな話し方はしない。わざと言っただけだ。


 猫と違うところは、妖精だけあって、飛べることだ。羽はないのだが、重力を操ることで飛べるのだ。


 そんなことが簡単にできてしまう「モフドラ」は、数百万匹いる妖精の中での格付けは最上位だ。数は非常に少なく、妖精界で「モフドラ」は同時に10匹以上は発生しないようになっているようだ。


 最上位ということは日々実感できる。俺が妖精界を歩いていると、ほかの妖精は立ち止まって俺に頭を下げる。妖精王ですら俺に頭を下げるのだ。


 俺が転生した世界は、人の世界と妖精の世界が重なっているところがいくつかあり、人の世界の未婚の女性は、結婚するまでは妖精の庇護を受ける習わしとなっていた。


 妖精はこの妖精界で「発生」し、人から召喚されるまで、女性を守るための能力を磨く修行を行う。そして、召喚されると人界に降り、召喚した女性が結婚するまで女性を守る。結婚と同時に妖精界に戻るのだが、戻った後は、女性が死亡するまで妖精界から女性を見守る。


 この見守っている間に一時的に召喚されることもあるが、ほとんどないと言っていい。そして、女性の死亡と同時に「消滅」するのだ。


***


 女神の罰なのだろうか。あるいはメグミを守るには相当な力が必要なのか。俺の修行期間は、もうかれこれ300年にもなる。300年も修行をした例は過去にない。これまでの最長は100年だったので、最長記録を大幅に更新中だ。


 修行中にメグミの顔を何度も何度も思い出しているが、だんだん俺の頭の中でのメグミのイメージが、変わって行ってしまっているように思う。


 確かメグミの髪の毛の色は黒だったはずが、今思い出すめぐみの髪の毛の色はピンクブロンドだ。性格も芯は強いがおとなしめの感じだったはずが、活発で強気な感じになっていて、それが顔の表情に現れている。瞳の色も黒だったはずだが、今思い出すと俺と同じ薄い銀色だ。


 召喚されるまでどんな女性を守るのかは妖精にはわからないはずなので、今世のメグミの姿を女神が俺に刷り込ませているに違いない。


 ただ、頭の中のメグミのイメージは、前世で心中したときの20歳ぐらいの年齢だ。俺が庇護を開始するのは、子供のメグミのはずだ。20歳になったら、こんなに美しく成長するということなのか。


 ああ、他の男に嫁がせるのは本当にもったいない。


 俺は前世を深く反省し、妖精界での地位におごることなく、今世のメグミの役に立つように、300年間、一日たりとも怠けることなく、ずっと努力をしてきた。


 待っていろ、メグミ、今度こそ、お前には幸せになってもらう


 といっても、メグミが幸せな結婚をするために頑張るってのは、正直かなり悲しい。


 でも、俺のことなんかよりも、まずはメグミだ


 おっ、召喚士の声が聞こえてきた。しかし、この召喚士の呪文はでたらめだ。おかしいな、メグミは高貴なお嬢様だと聞いていたが、こんなインチキ召喚士しか呼べなかったのか?


 何だか想像していたのとかなり違うが、300年間待ちに待った瞬間に、俺はワクワクを止められない。


 足元に妖精陣が浮かび上がって来た。しばらくして、妖精陣が完全な形になり、陣に書かれた文字が浮き上がり、らせん状に回転し始めた。この回転に巻き込まれる形で人界に降下するのだ。


 俺は回転のなかに飛び込んだ。

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