黒と白

更科灰音

第1話:プロローグ

「蹂躙せよ!」

その掛け声とともに一つの村が人類の歴史から消え去った。

いや、正確にはすでに消え去っていたのかもしれない。

村にはそもそも人の気配がなかった。いわゆる廃村だ。

「ここにあれがあるはずだから・・・」

少女は何かを探している。

その何かを探すためには村が邪魔だった。

だから壊した。バラバラに。

がれきの山が残っているだけ。


十代半ばほどに見える少女。

その腰のあたりまで延ばされた髪は雪のように白い。

髪だけではない、肌も病的なほど白い。

その白い身体の中で唯一瞳だけが赤い。

その姿はまるで白兎のようにも見える。

周りには誰も居ない。少女が一人でたたずんでいる。


「くははっ、ふははっ、はーはっはっはっはー!!!」

少女が高らかに笑う。とても悪い顔で・・・

「全ての枷から解き放たれし我が力」

少女は腕を振り上げて振り下ろす。

ただそれだけの動作で村を構成していた建造物が消滅した。

破壊されたのではない。文字通り消滅した。


少女が歩くだけで地面に空中にいたるところに魔方陣が展開されていく。

全ての建物がなくなり更地となった「元、村」であった土地。

その敷地を何かを探すように歩き回る。

でたらめに歩いているようで、時には立ち止まり辺りをキョロキョロ見回し、再び歩き始める。

「地下なのか?」

地表には目的のものが無いとわかり、地面に巨大な魔方陣を展開する。

魔方陣に反応のあった個所を目指して歩き始める。

何か所かで立ち止まり、首を振って歩き始める。

ついにひときわ強い反応を見つける。


反応のあった場所を目指して少女が走る。

やがて、立ち止まると辺り一面を爆風で吹き飛ばす。

地面が少女の背丈ほどえぐれている。

少女は地面に転がっている棒を拾い上げる。

「見つけた・・・」

長い間探していたもの。

少女の半身ともいえるもの。

朽ち果てた棒のように見えるもの。

それは剣のようだった。

少女が剣を抜き放つ。

錆びた反りのある片刃の剣。いや、剣ではなく刀と呼ぶべきだろう。

「目覚めよ」

少女の呼びかけに応じた刀が本来の姿を取り戻していく。

先ほどまでは濁ったような錆びついたような刀が、光を纏う。

刀身から錆が剥がれ落ちていく。

現れたのは虹色の光を放つ透き通った刀身。


再び少女の周りに無数の魔方陣が展開される。

「属性反転、白は黒に、黒は白に!」

少女が唱えると、ガラスのように透き通った刀身が黒く染まっていく。

黒曜石のような黒と透き通った黒がマーブル模様を描き始める。

「色は変わったけど、問題ない・・・」

刀身のマーブル模様がうごめく。まるで生きているように・・・

少女は刀を天に掲げる。

すると、少女の姿も変わっていく。

雪のように白かった髪は烏の濡れ羽色に、肌は褐色に、そして瞳は漆黒に。


「歌え、歓喜の歌!」

少女が振りかざした刀が黒く虹色に輝く。

あたりには静寂だけが残った。

「さあ、物語の始まりなんだよ!」

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