友人キャラの俺らは主人公とヒロインを引っつけたいから恋人のふりをする。

雄牧

第1話 安達直人の日常

 二学期も中盤に差し掛かり、少し肌寒い空気がクラスの窓の隙間から抜けて秋も真っ只中であることを告げる。


「今日もお前ん家集合でいい?」


 放課後、帰る準備をしている安達あだち直人なおとの肩をポンッと叩いてそう言ったのは、直人の小学校からの幼馴染で親友の篠崎しのざきようだ。陽の眩いほどの陽キャオーラが直人の前長い前髪を透過して差し込んでくる。


「毎度毎度いきなりだな·····まぁいいけど」

「お前のそういうとこ好き」

「はいはい」


 陽は容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能でコミュ力も高い。学年クラス問わず人気者で女子からの人気も高い。名は体を表すとでも言うのだろうか。小学校からの幼馴染でなければ、クラス内で根暗で大人しいヤツと評される直人が関りを持つことはできないほど彼は眩しく、その光で直人の陰が色濃くなるような気さえする。


「じゃあ千智ちさと夏希なつきにも連絡しとくなー」

「はいよ。先行くぞー」

「おいちょっとくらい待てよ!」


 ──1時間後


「ちょっと千智!バナナそんなとこ投げないでよ!!」

「ボーッとしてるのが悪いんだよーん。お先ー」

「抜かさないでよ千智!絶対この甲羅当てる!」


 この仲睦まじくしている2人の美少女のうち現在進行形でいじめられているのが瀬良せら夏希なつき。その夏希を小馬鹿にして満面の笑みを浮かべているのが中村なかむら千智ちさとである。

 夏希は学校内でファンクラブができるほどの美女で彼女に胸をときめかせる男子は数しれず、アメリカ人の祖母から譲り受けたという綺麗で光沢のある金髪を靡かせ、日々誰かを意図せず魅了している。先程は暴言を吐いたが他の人と話す際は品を感じる佇まいをしていが、親友の千智の前だとそうもいかない。

 一方千智はファンクラブはできないものの美女と言って差し支えない容姿をしている。青のインナーカラーの入った黒髪は光に照らされ青みがかっている。さらにコミュ力も高く、生徒の中には彼女の方が好みだという生徒も一定数いる。しかし、夏希には容姿の点では劣ってしまうだろう。

 2人は小学校からの友達らしく、学校内での2人のやり取りや気兼ねなく暴言を吐き小突きあっている現状を見ていれば納得である。


「はいー俺の勝ちっ!」

「篠崎漁夫の利ずるいー。安達なんか飲み物ー。コーラー」

「はいはい。瀬良さんはいつも通りオレンジ?」

「いいですよ自分で準備しますから」

「毎度言うけど一応お客さんなんだからじっとしてて」

「そうだよ瀬良さん。ここは直人の優しさに免じて。ね?」

「陽は醤油でいいんだよな?」

「ごめんなさい。俺もコーラが···いてっ!!」


 陽の脳天に軽くチョップを入れ、飲み物を準備をしにキッチンに向かう。

 ふと3人の方を見るとあの空間だけまるで恋愛ドラマの撮影風景のように華があり輝いて見える。

 4人で遊ぶようになってから約半年が経つ。周りからの嫉妬と憎悪の目にはだいぶ慣れてきたが、このグループの中に性格の直人が入っている状況に直人自身アウェー感を感じているのは確かだ。


「はい持ってきたよ。ついでにクッキーも」

「サンキュー直人」

「安達さんありがとうございます」

「よーし続きやるぞ足立。はやくコントローラーもてもて!」

「わざわざ持ってきてもらってそんな態度なら中村はコーラはお預けだな」

「ごめんってば。誠に感謝します。このとおり」


 そう言って千智は顔の前で掌を合わせるが顔は1ミリも傾かない。それを見兼ねて夏希が千智に軽くチョップする。「いって」と大袈裟にリアクションを取る。心の中でナイスと呟き取り上げていたコーラを渡す。

 こんな感じでこの4人でいる際は陽と直人がムードメーカーとして場を盛り上げることが多く、たまに暴走する2人を止める役割として直人と夏希がいる。初めてこの4人で集まったのは一学期での定期試験の勉強会としてだが、その時にも既にこの構図が出来上がっていた。


「そろそろいい時間だし帰りますか」

「えーあともう1戦だけ」

「帰りますよー」


 いつまでも居座ろうとする千智の襟を夏希が掴んで立たせる。


「「「おじゃましましたー」」」


 玄関で3人を見送り片付けをしているとポケットの中のスマホが鳴る。誰かからメッセージが届いたようでとりあえず片付けを済ませてリビングのソファーに腰掛けメッセージを見る。

 差出人の名前には『千智』の文字。千智とのトークを開くと今までの直人を小馬鹿にして楽しんでいるメッセージや忘れ物がどうたらの会話一番下に1つ異彩を放つメッセージがあった。


『明日放課後話あるから安達の家集合ね。』


 少しドキリとしたがまさかそんな訳はないので瞬時に落ち着いてメッセージを送る。


『陽と瀬良さんは呼んじゃダメ?』

『ダメ。足立と私だけ』


 落ち着いた心を追撃するかのようなメッセージに狼狽える。再び心を落ち着けようとしたところ後ろに気配を感じて振り返ると買い物から丁度帰ってきたところであろう母の春乃はるのが「あらまあ」とイタズラな笑みを浮かべ口に手を当ててスマホを覗き込んでいる。

 スマホを隠して顔を真っ赤にして部屋に逃げ込む。春乃がいつもより黄色い声で何かを言っていたが無視をした。

 とりあえず千智には了承のメッセージを送り、心を落ち着けるためにベットに寝っ転がりゲームを始めた。

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