第14話 画策-6



 アカデミーの所属に限らず幼い子供を連れた者たちが続々と、その保護の下へ集まりだしたある日、それと入れ替わるようにクラヴィスたちはアカデミーを出た。

 サルトスを出た三人は、まずルーメンの南部に位置するオレアを目指す。リデルの出身地であるそこには、秋を司る女神の神殿がある。まだ冬になり切らない今の時期ならば、秋の女神の統治下へ向かうのが一番安全だと考えた。その後、東のメディウムで春の女神と北のゲンティアナで夏の女神を回り、最後に国祖王と陽光の女神の神殿のあるサンクティオだ。

 とはいえ、各地の神殿に女神が今でも座している訳ではない。遠い昔、神子たちが生まれた頃には居たのだという伝承は残っている。まだ幼い神子たちを支える為だったのか、国祖王の願いだったのかは定かではないが、女神たちは確かにそれぞれの神殿で祈りを捧げ、ルーメンに加護を与えていたのだと。


「ねぇ、クラヴィス、暁の神殿にはいかないの? 」


「あっ、俺もそれ思ってた」


 クラヴィスと同じ馬に乗り、前を見たままで問うフォルテに、添う様に自分の駆る馬を並べたウェルスがクラヴィスを見た。今回、自分たちの行き先を全て決めたのはクラヴィスだった。なるべく危険の少ないようにと考えられたものだと伝えられたが、訪れる先々で神殿を訪ねていくのに、暁の神子の神殿がその中にはなかった。


「そっか、今回の目的の事、話してなかったね」


 出発まで、何だかんだと忙しかったし、居残り組の補佐もしていた三人は、ここへ来てようやくゆっくりと話が出来る状態になった。そもそもの発端は、冬の間、自国へ戻るというフォルテのお供であったはずのクラヴィスにとっての外出は、冬石の問題を経て別の目的へと変わっていた。


「冬石に亀裂が入ったというなら、季節を巡る事に何かがあったと考えるべきだろう? もしかしたら、季節の神殿に何か手掛かりがあるかも知れない。だから、まずは季節の女神たちの神殿を回る。で、最後に冬石のある陽光の神殿。暁の神殿もいければとは思うけど、必須ではないかな」


「神子たちも健在だし? 」


「そういうこと」


 森深いサルトスの道を抜けていく間、三人は出発前の約束通り、色々な事を話していた。自分たちがアカデミーに入るまでどんな生活をしていたのかということから、何が好きだ嫌いだと、そんな些細なことまで。


「ウェルスはさ、本当にサルトスを出るのは初めて? 他国の行事とか呼ばれなかったの? 」


「うん、そうだね。俺は王子って言っても神子じゃないし、継承権はシルファにある。だから外交の付き添いはシルファだった。そもそも、双子が王家に生まれた事すら初めての事らしいし……多分、俺の扱いは中々難しかったんだろうね」


「……ウェルス」


「あぁ、そんな顔しないでフォルテ。俺はちゃんと愛されているし、大事にされてきた。双子は初めてってだけで、兄弟として神子じゃない王子がいたこともあるから」


「じゃぁ、なんで……」


 外に出なかったのかという言葉をフォルテは飲み込んだ。そんな彼の様子に少しだけ苦笑いを返したウェルスは、馬の歩みを止めて、もう木々で見えなくなったアカデミーを振り返った。数歩先で馬を止めたクラヴィスも、フォルテと共にウェルスの視線の先を追う。


「ティエラが居たから」


 ウェルスの脳裏に幼い頃の出来事が浮かぶ。


 

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