第2話 ガーネットはおてんば令嬢


「え?

 闘技場って、何の関係が」

「お答えください」

「え、えっとぉ……」


 ガーネットはなかなか答えられない。

 王子の花嫁たる者、平民の娯楽である闘技場に通うことは禁止こそされていないが、本来ならば疎まれる行為である。しかも観戦だけならともかく、試合に直接参加するなど。

 だが、ガーネットはそうではなかった。何しろ――


「毎日です、オニキス様。

 しかも一日一度きりでは物足りないという理由で、10試合ほど連続で参加されたことさえ」

「ちょっとマリン!!」


 ガーネットの代わりとばかりに答えたのは、彼女の隣から進み出た侍女のマリンだった。

 水色の長い髪をかきあげながら、わざとらしく大きくため息をつくマリン。


「……私は止めたのですがね」

「で、でも!」


 それでもガーネットは王子を振り返り、反論する。


「それは、ディアだって認めてくれたでしょう?

 私の術の修行にもなるし!」


 だが、ディアマントは黙ってふんぞりかえったまま。

 オニキスが代わりに返答する。


「ガーネット様の強烈な火術により、負傷者が出たとの報告も多数あります。

 修行とはいえ、やりすぎだったのでは?」


 追いつめられながらも、必死で抗弁するガーネット。


「それはちゃんと治療したし、謝ったわよ!

 死者が出ないように火力は絞ったし!!」

「治療したのは私です、ガーネット様」

「あんたどっちの味方よマリン!?」


 喧嘩になりかかるガーネットとマリン。

 そんな二人に、突き放すようにディアマントは告げた。


「それに――

 施設を破壊してもいいとまでは言っていない」


 そう言われると、ガーネットは何も反論出来ない。

 何しろ昨日の試合で彼女は膨大な火術を放ち、その劫火は試合場の床殆どをえぐったうえ、観客席の一部までも崩壊させたのだから。

 幸い死者は出ず、負傷者は全員マリンが治療したものの、闘技場はしばらく使用不能になってしまった。


「いや、だってあの時は、あんなヤバイサイクロップス召喚してくる相手も悪いし……」


 さすがにすっかり消沈して、小声でつぶやくガーネット。

 そんな彼女を見かねたのか。マリンが少し首をかしげ、王子に尋ねた。


「ディアマント様。

 ガーネット様の闘技場通いは、確かに度が過ぎた面もございます。グルナディエ家でも、お嬢様の奔放な性格はたびたび問題になりました。

 ですが、それを承知で殿下もお嬢様を迎えられたはず。しかも殿下はお嬢様の実力を認め、積極的に修行を奨励なさっていたはずでしょう?」

「…………」


 マリンの冷静な問いにも、王子は視線を外したまま答えない。

 ガーネットが叫ぶ。


「そうよ。私の術がもっと強くなれば、自分と触れ合っても大丈夫になるかもしれないって……

 いつもそう言ってくれてたじゃない。ねぇ、ディア!」


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