第29話 隣の席のアイスメイデンとパソコン部 【前】

「さて……これで主要メンバーはひとまず集まったわね。ではこれより、集まってくれた理由をスクリーンに表示します。という訳で、このスクリーンを見て頂戴」


 姉さんは言い終わると同時に、パソコンをタイピング。

 どうやらスクリーンへの投影に使われてる投射機とパソコンはネットワークで繋がっているらしい。

 スクリーンに文章が映し出された。


「部活対抗……リレー?姉さん、これって……」


「読んで字の如くよ。みんな、体育祭の目玉に部活動対抗リレーがあるのは知っているわね」


 その言葉に全員が頷く。

 去年もやったんだ、知らない筈がない。

 部活に入っている亜伽里以外は出場した経験は無いが。


「当たり前だろ、知ってる。で、それがこの集まりとなんの関係が?」


「……なるほど、これが愛原の件を片付ける手段か。手法としては悪くはないな」


 伊沢くん、一人だけ納得しないで教えて。

 俺達まだ何も……。


「そういう事か。確かにこの方法ならプライドが高い彼女らへの良い牽制となるね。体育祭は多くの人が一堂に会す。もしも僕達みたいな素人集団が、愛原さんと共に陸上部に勝ちでもすれば」


「否が応でも愛原の実力は生徒親共々認めざるを得ない、って訳ね?イジメを無くすのは難しいでしょうけど、抑止力には確実になるわね。うん、良いんじゃないかしら。流石は葉月姉ね」


 あれ……?

 もしかしてわかってないの、俺だけ?

 これだから地頭の良い連中は。


「なあ当真。俺まったく分かんないんだけど、お前わかるか?」


 ナカーマ。

 よかった、一人じゃなかった。 

 けど一季と一緒か…………それはそれでしんどいな。


「いや、俺も全然……」


「だよなぁ」


「貴方達ね……」


 なるべくみんなに聞こえないよう小声で話していたのに姉さんには地獄耳で拾われてしまったらしい。

 姉さんが可哀想な目で俺達を見てきている。


「まあ最初から説明する予定だったから構わないけど。……ではこれより説明を始めるわ。ちゃんと聞いて理解するように。特にそこの二人は耳をかっぽじって聞いていなさい」


 別に俺らが悪い訳じゃないのに、なんだろう、この疎外感。

 






 姉さんが立てた計画は、要約するとこんな感じ。


 一、現在集まっているメンバー全員及び愛原がパソコン部に入部。


 二、パソコン部として部活対抗リレーに出場。

 うち、メンバーは陸上部のエースだった愛原。

 陸上部に負けないほどの身体能力を有している亜伽里。

 中学の頃、陸上部だったという夏日。

 陸上経験は無いものの、どんな競技も敵無しの秋乃さん。

 以上、この四人は固定。

 残る一人の選出は、俺か伊沢、一季の誰か。


 三、アンカーは愛原。

 アンカーにする理由は三つ。

 三人組に愛原の方が、実力が上だと理解させる為。

 有終の美を飾らせる為。

 そして単純に速いからである。


 四、三人組全員の出場、及びリーダー格の女を愛原と直接対決させる。

 これに関しては教師陣の仕事。

 主に姉さんと顧問。

 なんとかして三人を組み込むらしい。


 五、勝利後の対策、事前準備。

 勝てたとしてもイジメを止める事はない可能性を考慮して、なんらかの対策を講じる必要がある。

 主にイジメの現場の動画、撮影など。

 

「以上が計画の大まかな段取りよ。なにか質問はあるかしら」


 みんな特に異論は無いようで手を上げようとしない。

 俺以外は。


「姉さん、一つ質問があるんだけど」


「なに?」


「いや、大した質問じゃないんだけどさ。愛原と亜伽里って運動部に籍があるよな?なのにパソコン部に入部出来るのかと思って」


「それについては問題ないわ。運動部と文化部の掛け持ちなら元々許可されているから、後は二人がこの入部届けにサインをすれば参加可能よ。夏日、これを」


 夏日は姉さんから人数分の入部届けを受け取ると、全員に渡していく。


「はい、亜伽里ちゃん」


「あ、ああああありがとぉ……」   


 紙一枚貰うだけでどんだけ照れるんだ、あいつ。

 顔が真っ赤どころか湯気が立ち昇ってるぞ。

 おもしろ。


「当真くんも、はい」


「ああ、ありがとう。……って、なんでわざわざ隣に座るんだよ。元の席に戻れよ」


「はは、良いじゃないか、空いているんだし。良いよね、秋乃さん。彼の右側は貰っても」


「死ねば」


 火花を散らさないでほしい。

 なんでうちの学校の二大双璧による謎のハーレムを形成しなければならんのだ。

 

「当真……コロス」


 幼馴染みにそれは酷くないですか、亜伽里さん。

 と、亜伽里の視線から隠れるよう入部届けにサインをしていた最中。

 秋乃さんもサインしている所を見て、ふとこんな疑問が湧いた。


「秋乃さん、今更なんだけど……どうして協力してくれるんだ?流れ的に仕方なく?それとも愛原の事を少しは……」


「勘違いしないで、冬月くん。わたしはあの一年がどうなろうと、どうでも良い。自分で自分の問題を解決しようともしない、ただ助けられるだけの女に同情する気はないわ。助けを期待するだけで自分では何もしないあの女が、わたしは嫌いなの」


「じゃあなんで……」


「わかるでしょう……貴方よ」 


 そこまで言って、秋乃さんは俺の目をジッと見つめてきた。

 なんて力強い目なのだろう。

 その刺すような瞳に、だがどこか脆さを感じさせる瞳に、俺は言葉を失ってしまう。


「貴方が関わるからわたしはやると決めたの。あの女の為じゃない。そこだけははき違えないでちょうだい」


 秋乃さんの俺を想う気持ちのこもった言葉に、俺はただ一言「わかった」としか言えなかった。

 それだけ言葉に重みがあったのだと思う。

 


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