第21話 隣の席のアイスメイデンはとっても不機嫌 【後】
あれから数日後のある日。
姉さん主動による、イジメ防止月間なるものが発足された。
これは文字通りイジメを撲滅、発生させないようにしようという施策だ。
やる事は簡単。
教師は普段目につかない場所の見回りを追加し、生徒はもし見つけたら報告するだけ。
一見するとそう大した対策でないように思うが、イジメっ子にとってイジメの現場を見られるのが一番避けたいはず。
よって効果としてはかなり期待できる方法だ。
これで少しは愛原も安心して学校生活を送れるようになるだろう。
代わりに放課後の勉強会は地獄の様相へと成り果てつつあるが。
「ねぇ、そろそろ本来の部活に戻ってくれないかしら。 わたしと冬月くんの邪魔だから」
「うぅぅ……ごめんなさい……。 今戻ったらまた選手に戻されちゃうので、大会後まではどうか……」
愛原の判断は正しいと思う。
奴らにとって一番気にくわないのは、愛原が選手に戻る事だ。
見つかるリスクを負ってまでイジメをするとは考えにくいが、念には念を押して損はない。
「チッ」
「ひぃぃん……」
舌打ちしないで、愛原涙目になってるから。
「秋乃さん、もう少し仲良くやろうよ。こうして一緒に勉強する仲なんだしさ。なんだったらこの際友達にでも……」
「お断りするわ。わたしには冬月くんさえ居ればいいの」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、それだと社会に出た時大変だからね?ずっと一緒に居られる訳じゃないし」
「大丈夫。わたし、専業主婦になるから」
なにが大丈夫なの、秋乃さん。
誰の奥さんになるの、秋乃さん。
結婚はまだ早いよ、秋乃さん。
「ああ、そう……」
「なるわ」
彼女の中では俺の嫁になるのは確定事項らしい。
頑なな意思を感じる。
俺はそんな秋乃さんから逃れるよう、課題に取り組む愛原のある部分に視線を動かす。
そのある部分とは、衣服だ。
「────?先輩どうしました?さっきからチラチラこっちを見てますけど」
「いや、なんでここ数日ずっとジャージなのかと思ってさ。部活もお休みしてるのに」
「そ、それは……」
訊いてはいけなかったのだろうか。
愛原の目が泳いでいる。
若干顔色も青いような。
「えっと……その…………毎日放課後は体操着を着てたので、習慣で……あはは」
習慣……か。
やっぱり愛原は陸上に未練がありそうな気がする。
愛原がどれだけ陸上に熱意を込めていたかは判らないが、一年生で選手に選ばれるなんて並大抵の努力じゃまず無理だ。
どれだけ才能があったとしても。
きっと血の滲む努力をした筈だ。
なら尚更なんとかしてやりたい。
そんな簡単な話ではないのは百も承知の上で。
「あるある、習慣って怖いよな。俺も休みなのに平日と同じ時間に起きちゃうから、すごい共感できるよ」
「ですよね……はは。……あの、先輩。明日からは制服で来た方が良いですか?勉強するんですから、制服じゃないとおかしい……ですよね」
「ん……まあそこは愛原の好きで良いんじゃないか?無理して俺らに合わせる必要なんかないからさ。愛原が服装合わせたいなら止めはしないけど」
「冬月先輩……。わかりました、じゃあ明日から出来るだけ制服を着てきますね。ありがとうございます」
愛原は宣言した通り、翌日は制服を着用してきた。
しかし、その翌日の金曜日にはまた……。
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