第18話「縁あって、せっかく同期になったのだから、頑張って欲しいと切に願う」

俺とシャルロットさんは、馬車から食料などの必需品が入った箱を下ろし、

「うんしょうんしょ」と運んで行った。


俺は、クラン『シーニュ』で散々荷物持ちをやっていたから慣れていて楽勝。

掛け声など不要なくらいで、さくさく運び、あっという間に終わってしまう。


だが「うんしょ、うんしょ」と可愛い声はやまない。


俺が声の方を見ると、女子魔法使いらしく、

いかにも華奢きゃしゃなシャルロットさんは、

力仕事に「ひいひい」言って、四苦八苦していた。


バスチアンさんもそうだが、セレスさんも苦戦するシャルロットさんを見守るだけ。

敢えて荷物運びを手伝ったりはしなかった。

ここは新人の仕事ぶりをチェックする、研修の範疇はんちゅうらしい。


どうしようかと迷ったが……俺は、すぐに決めた。


「俺に任せて」とシャルロットさんへ声をかけ、手伝ってあげた。

まあ、いたわるべき女子だというのは勿論、同期の絆という事もある。

今後の人間関係を円滑にして行きたいし。


するとシャルロットさんからは、感謝のうるうる目で、

「嬉しい! ありがと!」と礼を言われた上、

先ほどのゴブリンとの戦いに関しても、いろいろ尋ねられた。


ちょっと考え、ここは『控えめ』に答えておく。


バスチアンさん、セレスさんらランクAたるレジェンド達の前だから、

ゴブリンを倒したくらいで、偉そうに自慢するのもいかがなものかと思うし。


プラチナブロンドでダークブルーの瞳を持つセレスさんとは全く違うタイプの美人だが……

ストロベリーブロンドで碧眼のシャルロットさんは可愛いし、すらりとしてスタイルもなかなか良い。


シャルロットさんは、相変わらず感謝のうるうる目をして、

「凄いね! 力持ちだね! 優しいし! 強いし! 素敵♡」

などと、おおげさに俺をおだてて来る。


こんな甘い声でささやかれたら、すぐに攻略されそうだ。


でも俺は、『綺麗なバラにはとげがある!』を、

『シーニュ』のクランリーダーで銀髪女魔法使い、

冷血女、ミランダ・ベルグニウーで十二分に経験している。


あいつは、俺をクラン『シーニュ』を誘う時、


「うふふふ、君は貴族家の出身だし、強くて身体は頑丈、凄く見込みがあるわ♡」

「お姉さんが優しくする♡」

「私は君を実の弟みたいに思ってる。ううん、素敵だから、恋愛対象になりそう♡」


「じっくり大事に育てるから信じてね♡」

「絶対見捨てないからあ♡」

「一生、このクランに居てね♡ 約束よ♡」


という甘ったるいセリフが、ウルトラ言行不一致。

単なる美辞麗句であった事がすぐに判明した。


何故なら……


とかげの尻尾切りみたいな捨て駒まがいの盾役。

毒、麻痺、爆発、呪い等々、ヤバイ宝箱の罠の実験台。

迷宮での置き去り等々がさく裂!!!


でも俺は課せられた仕事を全てにおいてなんとかやりとげた。


しかし!!!


これらのとんでもない虐待ぎゃくたいを経て……たった1か月後。


「エルヴェ・アルノー! あんたバカあ? 騎士爵家の息子だから、もう少し使えると思ったけどさ、とんだ見込み違いだわ! 今日でクビ! 代わりの新人を入れるから! どこにでも行きなさい!  あんたはね、『最底辺』『能無し』『無駄飯食い』『役立たず』『ゴミ』よ。騎士になるなんて到底無理だし、どこのクランも拾わないし、さっさと冒険者もやめたらあ?」


と、聞くにたえない悪口、罵詈雑言の嵐でごみ捨てポイのリリース。


ミランダはとんでもない性悪の冷血女だった……


シャルロットさんは、こんな性悪の冷血女とは思えないが、

悪意のない『やる気にさせる男子の転がし方』を

ばっちり習得しているかもしれないし。


なので、俺は油断はしない。

「凄いね! 力持ちだね! 優しいし! 強いし! 素敵♡」と言われても、

浮かれて単純には舞い上がらない。


表向き笑顔だけ絶やさず、心は気張らず、通常運転のままである。


……ふと、俺はあの性悪の冷血女ミランダのせいで

「16歳にして早くもすれてしまったのか」

「純真な少年の心を失くしてしまったのか」

と思い、ひどく悲しいが。


……という葛藤にさいなまれながら……女子棟の入り口前へ荷物を運んだ。


まあ、さすがに、荷物を持ち、女子棟の室内には入らない。

荷物を下ろしたと同時に、遠回しに言ったら、

俺が気をつかった事に、シャルロットさんは、すぐ気づいてくれたようだ。


そんなこんなで、女子棟前へ荷物を運び終わり……


「ありがと! ほんと助かったよ!」


乙女顔のシャルロットさんから再び礼を言われ、さすがに少しだけいい気分になり、

「どういたしまして」と笑顔で答えながら……

フェルナンさんはどうしたか?とチラ見する。


すると……

案の定というか、俺の視線の先、フェルナンさんはようやくハーネスを外し、

馬車から自由になった馬を厩舎へ入れようとするところだった。


やはりというか、普段やり慣れていない分、モタモタしているようだ。


このままスルーし、後で「君は女子ばっかり手伝って優遇する」と言われたくないので、俺はフェルナンさんの仕事も手伝う事にした。


たたたた! と、急ぎフェルナンさんのもとへ駆け寄り、

「手伝います」と声をかけると、「頼む! 助かる!」と言われたので、

俺は馬の飼い葉を、厩舎備え付けの餌箱に入れ、同じく水飲み桶へ水を入れたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


馬に飼い葉と水をやり、最後に……フェルナンさんと一緒に馬の身体へブラシがけ。


……ようやく馬の世話を終えて、男子棟へ戻ると、到着時の仕事がやっと終わった。


各自、自身の荷物の片づけをする。


片づけが終わると、バスチアンさんからの指示で、空き棟の棟へ行く事に。

この空き棟を『作戦室』とし、全員で打ち合せをするそうだ。

その際、新たな指示が出るのだろう。


「まだ休めないのか」とフェルナンさんは、ため息。

緊張と馬の世話で、もうくたびれているようだが、俺は全然平気。


シャルロットさんもそうだが、ふたりとも仮所属の時は、

やはり『お客様扱い』されていたようだ。


この調子で、これから同期の連携プレーが上手くいくのだろうか?


大いに不安だが、俺も自分の事で精一杯。

縁あって、せっかく同期になったのだから、頑張って欲しいと切に願う。


そんなこんなで約10分の短い休憩が終わり……

バスチアンさんに連れられ、フェルナンさんと俺は空き棟へ。


空き棟は、俺達が泊るロッジと全く同じ構造。


女子ふたりは、まだ来ていない。


「休める時に休んでおけ」とバスチアンさんから言われ、しばし休憩。


フェルナンさんは、分かりやすいくらい、大きくため息を吐き、リラックスしていた。


それから10分ほど経ち、セレスさん、シャルロットさんが到着。


『打合せ』が始まったのである。

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