第25話 グルメ蜥蜴人ナガ・ハーン

「いやあ、お見事でございましたな」

蜥蜴人リザードマンのナガ・ハーンさんが手を叩いてわたしに称賛の言葉を述べる。


いや~、それほどでも。


誉められてちょっぴり気分の良いわたし。

「ところで、あなたは何でここに?それと、アクアとはどんな関係なの?おしえて?」

わたしは、ナガ・ハーンさんに質問する。

「はい。あの娘の親御と我は旧知の仲でしてな。やんちゃ盛りな娘の目付役を頼まれた次第」

なるほどね。

「見ての通り、言うこと聞かぬ性格でしてな。武技に関して基礎を学ぼうとせずに無茶ばかりしおりましてな。アレの為にも何か手を打たねばと思い、姫のお噂を耳にした次第。お手を煩わせました」

頭を下げるナガ・ハーンさん。

うんうん。

体よくわたしを利用したのね。

まぁ、こうも包み隠さず話されると嫌な気はしないのがわたしの良いところね。

「それから、あなたの本当の目的は?」

でもね、アクアの事がついでなのはお見通しよ!

「はい。姫は料理巧者であらせられると耳にした次第」

ん?確かに料理は得意だけど、そんなに噂になるほどなのかな?

草人グラスランナーの娘から聞きましてな。食材があれば何で旨く調理してしまう魔族ディアボロの姫がおられる、と」


デクストラね。あのおしゃべり!関西弁だからもしや!と思ったけど案の定ぢゃない!


「我ら蜥蜴人リザードマンは食が疎ぅございまして。その中でも、我は他種族の食に興味津々でございましてな」


ん?何か方向がおかしいわね?


「ヒトの作る料理に我は目がなくてですな。こと、姫の料理が絶品!と、耳にすればここは是非とも御相伴に預かりたく参った次第」


んーと、要約すると、美味しいものが食べたくてわたしの所に来たってことね?


「なるほどね~。じゃあ、お近づきの印にこれでも食べてみる?」


わたしはマジックポケットからさっき作って食べきれなかったエビチリとエビマヨを取り出す。


「ほほう、はじめて見るお料理ですな。では、早速…」


いただきます。の様に両手を合わせてお料理に手を出すナガ・ハーンさん。


「ふむ。こちらの赤い方、エビですかな?辛さの中に甘さがあり、フムフム。はじめて食する味わいですぞ」


そう、エビの身の方は食べやすく甘辛く仕上げてるのよね。


「じゃあさ、こっちの白いのも食べてみてよ」


わたしは白い方、エビマヨをすすめる。


「では、姫の言われる様に致しますかな?…フムフムこちらもエビですな。まろやかでやや酸味のある味わい。そのなかに、ほほう、この香りはニンニクですな?先の甘辛いエビとの対比もあり、美味ですぞ」


嬉しそうに食レポしながら食べるナガ・ハーンさん。エビマヨにも大満足みたい。

ナガ・ハーンさんの反応を見るに、やっぱりマヨネーズはこの世界にはなかったみたいね


「では、最後にこちらの、ほほう、エビの頭ですな?珍しい限り、どれどれ…」


エビの頭の麻辣炒めに手を出す。

ウヒヒ、辛いわよ~。


「むお!これは、なんという!カリカリに揚げられたエビの頭にこれでもかという辛い味付け!ただ辛いだけでなく、旨味あり!さらに、この舌を刺激する痺れはなんですかな?これはこれは、クセになりそうですな!」


あら、隠し味の山椒も見抜くなんて、やるわね。

嬉しそうに、エビチリ、エビマヨ、エビ頭を楽しむナガ・ハーンさん。

こうも食べップリが良いと作った方としては爽快ね!


「あ~!オレに内緒で良いもの食ってるな!」

そこに、可愛いメイド服に着替えたアクアが戻ってくる。

「あら♪可愛いじゃない!」

素直に感想を言うわたし。

アクアのメイド服はミニスカにニーハイね!

お尻から覗く尻尾が良い味出してるわね。

「こ、こんな短いスカートなんか穿けねぇよぉ!変えてくれよぅ」

等と懇願してくるけど、ダメね!

だって似合ってるんだもの!

「くそぅ、お前ばっかりズルいぞ!オレも食ってやる!」

アクアは無造作にエビの頭を取って口に運ぶ。

ボリボリと良い音がするわね。うまく揚がってる証拠だわ。


あれ?アクアの顔がみるみる青くなっていくわ。

可笑しいわね?辛いから赤くなるのが普通だけど…


「か、辛い…し、しぬ…」


手を伸ばし、そのままバタンと倒れるアクア。

いや、確かに辛いけど、死ぬほどぢゃないわよ?

「おお、忘れていましたな。こやつは氷竜の血族でしてな、こと熱いもの、辛いものに対する食の抵抗力が著しく低くござる」

みるみる顔が青くなるアクア。

「み、みず…」

「いやいや、水は逆効果だからこのミルクを飲みなさいな」

わたしはアクアにミルクを飲ます。

「ひ、ヒデェ目にあったぜぃ…」

ふらつきながらも起き上がるアクア。

弱々しくナガ・ハーンさんを指差して

「こ、こいつばかり、タダでメシ食ってずるいぞ…」

「何を。これから我も姫から仕事を頂こうとしていたところよ」

「あら、そうなのね。う~ん、どうしようかなぁ…」

ナガ・ハーンさんの申し出を素直に嬉しく思うわたし。でも、急に仕事と言われてもなぁ…

「ふむ。姫さま。ナガ・ハーン殿はかなりの使い手でございます。どうでしょう当家の武術指南などお任せになられてみては?」


へ?そうなの?


「いやいや、ルナ殿もお人が悪い。我などまだまだ」


ん?その「まだまだ」は怪しいわね!実際のところどうなよ~!


「僭越ながら、ウェポンマスターの称号をギルドより賜ってる次第でございまする」


ウェポンマスターとは。

ギルドの定める5つの基本武術、剣術、槍術、斧槌術、体術、弓術の全てを一定のレベル以上で修めたものにのみ与えられる称号である。


なんていう、ナレーションが聞こえたけど、それってすごいことよね!よし!お願いしちゃおう!!


「分かったわ。ナガ・ハーンさん。指南役お願いね。家の兵士さんたち物凄ーーく弱いから、やりがいあるわよ?」


「承知致した。そのかわり…」

「分かった、分かった。美味しいものは保証するわ」


満面の笑みのナガ・ハーンさん。


ウンウン。

ご飯でこんな凄いヒト雇えるなら儲けものだわ♪


話しもうまくまとまったと思っていたところ…


「ひ、姫さま、大変です!!」




新しい問題が舞い込んできたのでした。

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