第19話 迫る豚人の大軍!神器って凄いのねぇ…

 森に緊張が走る。

 わたしが相手をしていたのはいわば尖兵。小手調べというところね。

 この、見るからに豊かな森なら、食べるものにも困らないし、獣人ビーストの集落もあるし、わたしの住むお城もあるし、街道も近いから繁殖用の女の子を手に入れることも容易い。

 拠点としては申し分ないわね。


「でも、今になって、何で豚人オークが?」

 森の獣人ビースト、白狼の部族の長になったフェルが呟く。

「ああ、おそらくだが、この界隈をナワバリにしていた2大2つネームドが姿を消したからだろう」

 

 うん?


 それって…


「ね、ねえ。フウガさま。それってもしかして、紅兜クリムゾンヘルムとか小鬼大英雄グランドチャンピオンゴブモンドとか言わないよね?」


 イヤな予感がするので一応確認する、わたし…


「ほう。よく知っているな。その通りだ」



 あ、あ~ん、やっぱりぃぃぃ!



 こ、この、事態招いたの




 わ、わたし!?



「まあ♪その紅兜クリムゾンヘルムとゴブモンドでしたら此方のルクスリア姫さまがで討伐なさいましたよ。お陰様でわたくしも救い出されましたわ」


 嗚呼!無垢な感謝の念がちょっぴり痛いわ(汗)



「そ、それは本当たい?」


 こ、今度は何?


 この、おっきいおねいさんが純粋な子供の様に、目をキラキラさせてるんですけど!?


「私の目に狂いはなかったい!おはん、やっぱり強かったけんね!」


 何か、嬉しそうなのは、わかる(汗)


「ルクスリアどん!豚人オークども蹴散らしたら、勝負たいね!」


 は?



 ど、どういう、思考なのよおおおおおおう!


「止めておけ。此方の姫君は万全ではない。今、勝負してもお前が勝つさ」



 を!



 さすが!


 ナイスフォローですよ!フウガさま!


「むむむ…そういうことなら仕方なか」


 ふ、ふぅ…諦めてくれたのね?


「じゃっどん、ルクスリアどんが元気になるまで待つたいね!」



 お、おう…

 綺麗なお顔なのに、何て、脳筋なのかしら…

 

 で、でも、よく見たら体つきもスゴイのね…

 フィットネスビキニの選手みたいな肉体だわ♥️

 わたし、男の人も女の人もマッシブな方が好きなのよね。

 それでいて、胸は形を残しているとかね。

 きっと、鬼人オーガの種族特性みたいなものなのね。


「皆様。わたくしは今、生涯で一番の憤りを感じています」


 静かに、切り出したのは森人エルフのエルス。

わたくしの大恩人であるルクスリア姫さまをこの様な目に合わすなど…」

 エルスはわなわなと震えている。

 きっと、小鬼ゴブリンに囚われ続けていた自分の姿とわたしの今の姿を重ねているのね。


「ほう。なかなかの気迫たい。どげんすると?」

 エルスの秘めた気迫を感じ取ったギンカさんが問う。

「これ程の豊かな森…存分に力を発揮できますわ。森で森人エルフに戦いを挑んだこと、後悔させてあげましょう」

 

 静かな怒気。

 こういうのが一番怖いのよね。


「フェルとギンカさんは援護をお願いします」


 頷く、2人。


「おれは?」


「おはんは手出し無用たい」

 フウガさまが口を開くとギンカさんが止めた。

「そうか、ならば。こちらの麗しの姫君をお守りしよう」

 フウガさまがわたしの頭をわしわし撫でてくるので、わたしはしれっとフウガさまの腕に抱きつく♥️

 これでもかと言うくらい、胸をフウガさまの腕に当てちゃう。

「よ、よろしくお願いします。フウガさま」

「ああ、よろしく」

「ところで、何でフウガさまは手出し無用なの?」

「ああ、おれが強すぎてすぐに戦いが終わってしまうからだな。御当主殿にとって、それではおもしろくないのさ」


 よくわからないけど、なるほどね。

 きっと鬼人オーガは戦闘民族なのね。

 そして、さらっと「おれは強い」と言い放つフウガさま。


 素敵…♥️


「フン!ところで、森人エルフどん。どぎゃん手をつかうたいね?」

 ギンカさん、ちょっぴり焼き餅を焼いたのかしら?

 そこは、少し可愛らしいわね。

「はい。これだけ潤沢な魔力マナが溢れる森です。精霊達の力も強い」

 エルスはマジックポケットから立派な杖を取り出す。

 そして、静かに言い放つ。

「大魔法を使います」


 大魔法?


 その場にいた全員が口を揃える。

「はい。この森の秘める精霊達の力、2,000年を生きるこのわたくし森人エルフの魔力。同様に1,000年以上に渡りわたくし自身の魔力を注ぎ込み育ててきたこの『トネリコの杖』の魔力。そのすべての力を解放するものです」

 

 なんか、凄そう…


「恐らく、森に侵入してきた豚人オーク駆逐できますわ」


 それを聞き、目を輝かせるギンカさん。

「それは、すごかね!」

「はい。ですが、魔力集中の詠唱に時間がかかります。お二方、時間稼ぎをよろしくお願い致します」

「よかよ!ばってん、豚人英雄オークチャンピオンは私の獲物たい!モフモフの、手出し無用たい!」


 も、モフモフのって…

 もしかしてって、もしかしなくてもフェルのことよね?

 ギンカさん、ヒトの名前覚えるの苦手なのね。

「分かりました。この森での戦いには私に一日の長があります。エルス、頑張ってください!」

「はい!ギンカさん、豚人英雄オークチャンピオンが間もなく先陣を切ってきますわ」


 エルスが指示を出す。

 あれ?

 何でエルスには敵が来るタイミングが分かるんだろう??


「あの子が森を翔んでいますわ。あの子の見るものはわたくしの見るものです」


 わたしが疑問に思ったことをサクッと答えるエルス。なるほどね、ミミズクと視覚を共有しているから出来る芸当ね。


 そうしていると、一際大きい豚人オークが舞台を率いて現れる。

 

 で、でかい…

 うん、体重200kg級のお相撲さんみたいだわ。間違いなく、大関クラスね!


「来たとね。ようやく歯応えのある相手が出てきたと!」


 ギンカさんはゆっくりと進み、刀、雷切を抜き放ち切っ先を天にかざす。

「先ずは、小手調べたい!吼えろ!雷切!!」

 ギンカさんの掛け声と共に刀の切っ先から雷が放たれ、豚人オーク達を焼く。

 でも、その凄い雷の直撃をもらっても、首をポキポキ鳴らすだけでものともしない豚人英雄オークチャンピオン

 これは、これで凄いわね(汗)

 でも、当のギンカさんは嬉しそうなんですけど…

「よかよか!この程度はものともしなかね!行くたいね!唸れ!雷切!!」

 今度は雷切に雷を纏わせるギンカさん。

 うん。

 魔法剣みたいね!

 そして、そのまま、勢いよく豚人英雄オークチャンピオンに斬りかかる。

 雷を纏う刀身は振るわれる度に周囲に稲妻を放ち、生き残っていた取り巻きの豚人オーク豚人英雄オークチャンピオンを攻撃する。


「あの、雷切って、凄い武器…」

 ぽそりと呟くわたし。

「それはそうさ。おれ達の一族の三つの神器アーティファクトの1つだからな」


 神器アーティファクト

 また、聞きなれない単語ね。

神器アーティファクトとは、文字通り神の力を宿した武器だ。雷切は雷神の力を宿している」

 説明してくれるフウガさま。

「そして、おれも雷切と同じクラスの二刀一対の神器アーティファクト風凰剣を持つ」

 なるほど、フウガさまの背中の刀はそれなのね。

「そして、最後の1つは、おれ達の宿敵が持っているのさ」

 ふうん。何か事情があるのね。

 でも、あれだけ凄いのがもう2つもあるのね。

 鬼人オーガの一族って凄いのね。

「ふふ。ルクスリア公女。神器アーティファクトなら私も所持しています。お見せします!この白狼双月を!」

 そう言い、フェルも駆け出す。

「フェル。豚人オーク達はわたくし達を挟み撃ちにしようとしています」

「わかったわ!」

 フェルは曲刀の柄と柄を合わせる。

「白狼双月はこうすると、弓になるのです。矢は私の闘志が尽きない限り無限に生成されます」

 フェルは右手で弓?を引くとそこには光輝く矢が無数に生成されていく。そして、その矢を上に向かい放つ。

「白狼双月の矢は悪意、敵意を感じとります。1度放てば逃げ道はありません!」

 放たれた光の矢は森の木々の合間を縫って迫り来る豚人オークを射抜いていく。

 それでも仕留めきれていない豚人オーク達が迫ると、フェルは弓形態を解除して2本の曲刀を投擲する。

 投げちゃうんだ…

「白狼双月は投擲武器でもあります。私の手から放たれた白狼双月は必ず私の手に戻ります!」

 矢で仕留め損なっている豚人オークの首を的確に切り裂き、その度にフェルの手元に戻る、曲刀、白狼双月。

「遠距離の弓矢、中距離の投擲、そして!」

 フェルは双剣の構えで、木々の合間を跳び、豚人オーク達を斬り倒す。1匹倒したら、バック宙しながら投擲、間合いを取り、体勢を整え、豚人オークにダッシュ!走りながら曲刀をキャッチし、華麗に跳び上がり回転しながら豚人オークを切り裂いていく。


 アクロバティックでカッコいいじゃない!


 ギンカさんの『雷切』といい、フェルの『白狼双月』といい、神器アーティファクトって凄いのね!


「よし、いきますわよ…」

 ゆっくりと深呼吸をするエルス。

「集中します。あなたも、よろしくね」

 自らの足になってくれている白狼の首をモフモフと、撫でてから杖を構えて、魔力の集中力を始めるエルス。




 大魔法かぁ…



 一体、どれくらい凄いのかな?

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