第51話
ほうほうほう。
なるほどなるほど。
「うむ。あのアンネローゼ・クライベルとかいう令嬢、なかなかえぐい手をつかいおるわ」
アカシックレコードを使い、昨日までの面白そうな出来事をテキトーに閲覧していた俺ことゴールド・ノジャーなわけだが、勇者一行に焦点を当てたときまたもや不穏な空気を察知した。
なんとこの外道令嬢、俺が起こした聖国での事故をマルクス君の罪に仕立て上げ、勇者の力で政敵を潰すと同時にレオン少年を自陣営に引き込もうとしていたのだ。
本当になんてヤツなのだろうか、親の顔が見てみたいものである。
いくら平民のユーナちゃんを嫌い、ついでに実家の政敵でもあり平民に味方する目障りな男だと認識していても、普通ここまでやるだろうか。
いや、やらない。
少しでも良識のある人間だったら、普通はここまでしない。
このアンネローゼ・クライベルとかいう公爵令嬢、かなり本格的に頭のネジがぶっ飛んでいる人間だったわ。
ただしその直後、あまりにもえげつない令嬢の目論見は一発でレオン少年に看破され、そのまま丁寧に諭されることで事なきを得たのだけどもね。
これもレオン少年に一目惚れし、そのイケメン力に夢中になってしまった者の弱みというやつだろうか。
我が一番弟子に嫌われることを避けたかったようで、一瞬で前言撤回し「オホホホホホホ、冗談ですのよ? さあさあ、余興はこの辺にしてお茶でも……」なんて切り替えていたよ。
この目にもとまらぬ手のひら返しといい、危機を察知し撤退する判断の速さといい、ユーナちゃんも色々な意味で手ごわい相手を敵にまわしたものである。
この徹底した外道ぶりにはある意味で芯が通っているように見えるので、同じく芯の通ったユーナちゃんにも学ぶところがあるかもしれないね。
とはいえ、隙あらば罪をマルクス君に擦り付けようとするその姿は、絶対に真似してほしくない。
俺が言いたかったのは、あくまで反面教師としてだ。
心優しいユーナちゃんとはまた違った強さを持つ、彼女とは正反対の位置にいる強者の手口を学習しろという話である。
「へぇ~。このアンネローゼっていうケバい女、そんなにヤバいヤツなのかしら? 結局レオンに一刀両断されていたから、てっきりまたアホの子が出てきたのかと思ったのよ」
なるほど、そういう考え方もできる。
というかレオン君に負けず劣らず、ツーピーもバッサリと一刀両断するね。
俺としても誰に遠慮することもないその姿勢を、ちょっとだけ見習いたいくらいである。
なおこのツーピー、最近は体力不足が解消された羽スライムと共に、日夜スラスラトレインの改良にいそしんでいるようだ。
よりうまくトレインを表現できるようにとのことらしいが、正直俺には違いがよくわからない。
もうここまできたら本人たちにしか分からない領域なのだろう。
また、ツーピーにアホの子呼ばわりされたアンネローゼだが……。
最近はよくレオン少年がこの王都に滞在しているためか、以前のように目立った悪さをしないよう心がいているようだ。
どうやら一度優しく諭されたのが効いているらしく、突然現れた王子様との恋にときめく美少女モードといった感じで、めっきりとユーナちゃんをいじめることが無くなっていた。
いつまでこの猫かぶりが続くかは分からないし、そう長くはもたないと思うんだけどもね。
ただ動きがないならないで別に困ることはないので、しばらく放置して様子を見ようと思っている今日この頃だ。
ぜひこのままレオン少年のファンを続けて、憧れの推しを追いかける良い子ちゃんに生まれ変わってほしいものである。
そんな感じで弟子たちの学院生活を眺めつつしばらく月日が流れ、一か月ほどの平和が続くのであった。
◇
ある日ある朝、今日も今日とてアカシックレコード日和な本日。
事件は唐突に起きた。
「のじゃぁぁああああっ!? えっ!? なぜじゃっ!? のじゃぁああああ!?」
「うわ。なんなのよ、この騒がしい迷惑なのじゃロリは。わたちはまだ眠いのよ?」
ええええ……。
こんなに切羽詰まった叫び声をあげているのに、なんて辛辣なのこの幼女型ホムンクルスは。
ああ、でも。
まだ朝早くて眠いのに、起こしちゃってごめんねという気持ちはある。
よしよし、まだ眠いならこの腕の中でお休みツーピー。
子供はよく寝て育つものだ。
……って、おおっと。
こんなことをして脱線している場合じゃなかった。
とにかく大変だ大変だ、超大変なのだ。
なんと俺の処遇を巡ってもめにもめたアルバン・オーラ侯爵と次男のエレン君が喧嘩して、最終的にエレン君が聖国へ追い出されることに決定してしまったらしい。
いやほんと、なにがどうなってそうなったという感じのビッグニュースだよ。
そもそもの発端として。
アルバン侯爵はどこからか俺が魔族だという変な噂を掴んでいたらしく、とても警戒していたみたいなのだ。
エレン君がそれに異を唱える形で、ノジャー先生は危険な存在ではありませんなんて直談判するものだから、色々とややこしい事態を巻き起こしてしまったというのが今回の
いやいや、あのロールプレイが巡り巡ってこんなことになるとは、さすがの俺とて夢にも思わなかったよ。
この世界の人たち、魔族に厳しすぎ。
俺としては別に魔族のロールプレイそのものに拘りとかはないので、そのうち正体を明かそうとか、どういうタイミングだといいかなとか、そんなことを考えていたんだけどね。
でもいまさらアルバン侯爵が気を許してくれるとは思えないし、完全にやっちまった感がある。
ついついゴールド・ノジャーの威厳を重視しすぎて、正体を明かすタイミングを見失っていた。
でもって、ただエレン君が聖国に追い出されるだけなら良かったんだけど、さきほどややこしい事態だと言った通り、この件はかなりねじ曲がった方向に話が爆走してしまっている。
なんと、俺が何も知らず一か月ほどログハウスで長閑な日々を満喫し、平和を享受している間に事態は進み。
聖国に届けられたエレン君が教会の十二使徒第三席ミルファとかいう女傑と対立して、いまにも殺されそうなところまで追いつめられていたのである。
え、なんで、本当にどうしてこうなったという展開だが、内容を読み解くとこれまた俺が関係していた。
アカシックレコードで読み解いた内容を簡単に説明すると……。
まずエレン君が聖国に送られ、国交のある大国で侯爵をやっている父アルバンの伝手で、教会の最高戦力である十二使徒第三席、蒼天のミルファと合流。
その後ミルファなる女傑から。
「お前のことはアルバンから聞いている。あの神の使徒を名乗るクソ魔族からは、私が必ず守ってやるから安心しろ」
と言われ。
それに反論したエレン君が。
「もしかして、貴女はよほどの馬鹿なのでしょうか……。守るもなにも、ノジャー先生は人類の味方ですよ。間違いなくね」
と柄にもなく熱く反応してしまったからさあ大変。
いつもの彼ならばここまで熱くなることもなかっただろうに、俺のことを「兄上の恩人」というカテゴリーに入れてしまったが為、その政治的バランス感覚を無視して発言してしまったのである。
で、結論からいうと。
現在エレン君が教会の教えに反する異端者として絶賛大ピンチ。
こちらも勘違いとはいえ魔族と認識されているため、むやみやたらに手出しできないのが痛い。
いや、これ詰んでない?
こりゃあ大変なことになったぞと、そういうことになるのであった。
ああ、それと。
エレン君の件とは別件で、いますぐに手を下すことはできないが。
アンネローゼ・クライベルには近いうちにお灸をすえるつもりである。
さすがにこの外道令嬢はいろいろと手を出し過ぎたからね。
ゼクスみたいな未遂ってレベルじゃないし、多少落ち込んだくらいで逃げられると思うなよ、というやつである。
ちょっとこう、それなりのトラウマを植え付けてやるつもりだ。
弟子のユーナちゃんが怒らないならば、このゴールド・ノジャーが怒る。
これ、ノジャー流ね。
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