第49話
「じっとするのよね~」
パタパタ。
パタパタパタ。
ふわり、ふわり、ふわり。
「あなたはいまから、わたちのパートナーとして相応しい進化を遂げるのよ?」
ぷるぷる……。
ぷるりんっ。
無人の大森林に潜む不老の魔女、ゴールド・ノジャーのアジト。
もとい昨今増築の激しいそこそこ立派なログハウスにて。
なにやら怪しげな実験器具と教本を片手に、相棒の羽スライムを実験台の上にのせてほほ笑むツーピーの姿があった。
羽スライムとしてもこれから何が己に起こるのかを理解しているようで、そのつやつやなボディを震わせてご主人様である銀髪幼女のご機嫌を取ることに必死。
どうやらなるべく完成度の高い状態で実験を終えて、さらなるパワーアップを目指してほしいと願っているらしい。
……というわけでね、はい、どうも。
アカシックレコードの知識と能力によって、ホムンクルス改造し放題なのじゃロリこと、ゴールド・ノジャーです。
現在、ツーピー専用のものとして俺が特別に用意した教本と実験器具を利用し、羽スライムの新たなパワーアップを目指して更なるチャレンジを実行中でございます。
そもそもとして、この状況を説明するにあたり。
あれほど気に入っていた羽スライム相手に、なぜこんなことになったのかという部分から説明しなくてはならないだろう。
ことの起こりは数日前。
勇者ノアとのガチンコ路上バトルに圧倒的な勝利をもたらした、ツーピーあんど羽スライムコンビに弱点が露呈してしまったのが、このホムンクルスコンビに絶大なショックを与えたらしい。
スラスラトレインとか路上パフォーマンスに弱点とはそもそもなんぞやという話ではあるが、まあ、それはさておき。
どうやらツーピー本人が完全なパフォーマンスを終えたあと、その動きに必死でついていっていた羽スライムが突如として倒れてしまったのである。
原因はホムンクルスとしての性能不足。
もっと端的にいえば、羽スライムの体力不足が原因であったのだ。
もともとただのペットとして開発されたホムンクルスであるため、前衛型のツーピーに動きを合わせるだけでも、限界を超えて体力を酷使していたらしいことが発覚した。
故にツーピーと羽スライムはパフォーマーとしての限界を感じ、この課題をどうにかしようと俺に泣きついてきたというのが今回の全容。
まったく、朝起きたら二人でベソをかきわんわん泣いてたものだから、本当に何事かと思ったよ。
いっちゃあなんだが、こんなくだらない理由で困っていて本当に良かった。
世の中、平和が一番だからね。
「うむうむ。存分に羽スライムを改造するのじゃぞツーピー。失敗しそうになったら、儂がちょこっと手助けしてやるゆえ」
「のじゃロリには期待しているのよね~。でも、わたちの発想力についてこれるかしら?」
いや、そこはほどほどにしてくれ。
精神や思考はともかくとして、肉体面の設計では基本的に成長しない人造生物がホムンクルスだ。
そういう事情があるからこそ、ツーピーも肉体が摩耗しない限りは俺と同じ不老になるわけだが、だからこそ仕方なく羽スライムの体力増強計画に力を貸しているのだ。
ホムンクルスに対して修行とかまったく効果がないから、パワーアップのためにはこうするしかないのである。
幸い、羽スライムからはボディ改造の許可を得ているから遠慮することはないし、俺がいる限り失敗もない。
故にある程度はツーピーに任せても問題ないという判断なのだが、だからといって発想力の限界を試すみたいな話になると、どこかで失敗を生むかもしれないから止めてほしいところだ。
このツーピー・ノジャーの精神性には、いったいなにをしでかすか分からない未知の怖さがあるからね。
ともかくそんな事情もあり。
あーでもない、こーでもないと。
時にその辺にころがってる薬草を混ぜたり、毒草を混ぜたり、雑草を混ぜたりと。
……って、テキトーな植物しか混ぜていないような気もするが、努力に努力を重ねたこともあり。
ついにツーピー主導による最高傑作。
羽スライム・バージョンツーが出来上がったのであった。
チャームポイントは頭に触覚のような若葉が根付いていることだろうか。
まあ、見た目はそんなに変わっていない。
だが驚くことに、以前の羽スライムとは性能の差が段違いだったりする。
具体的に何が違うのかというと、主に魔法面。
なんとツーピーが混ぜた薬草が思いのほか良い方向に機能して、簡易的な回復薬を運用できる羽スライムになっていたのだ。
完全にテキトーに混ぜていたはずだが、そこはほら、俺がいい感じに調整してあげた結果でもあるんだよ。
そもそもホムンクルスの体力を増強するのに、いくら雑草を練り込んだところでそう簡単にパワーアップなどできるはずもない。
俺が本気で一から作り直すなら可能かもしれないが、それではツーピーは納得しないだろう。
であれば、ということで。
新たなる境地として、自らの肉体の一部になった薬草の成分を抽出し、自動でポーションを製造できるようにしてやればいいのではないかという、そういう発想に至ったわけだ。
もちろん簡易的なポーション生成しかできないので、傷や体力に対して気持ち楽になった程度の効果しかない。
だがこの機能が実現したおかげで、以前のようにスラスラトレインでへばったくらいであれば、即座に復帰できる継続戦闘能力を身に着けたのであった。
「うむ。完璧じゃな」
「ふぅ~。いまできる限りのことを試した、わたちの最高傑作なのよ。これでしばらく、バージョンスリーにはしなくて済みそうなのよね~」
…………ふぁっ?
いや、いまバージョンスリーといったのかこやつは。
まさかまだ満足しておらず、何かきっかけがあればこの先の展開を見据えて行動に移すつもりでいるのかっ!?
お、恐ろしい幼女型ホムンクルスだよ君は。
完全にブレーキのイカレた、留まるところを知らない暴走機関車だ。
いや、それがツーピーの良いところでもあるんだけどね。
ただ次の機会は、もうちょっと先にしてくれると助かる。
無茶な配合をするツーピーの補助をするのは、こうみえて結構疲れるのだ。
また、そんな感じで今回の羽スライム強化実験も色々と成功に収まり、数日後。
パワーアップした仲間を誰かに見せつけたいツーピーが魔法学院に突撃しては、通りすがりの生徒にスライム自慢をして、謎の幼女が紛れ込んでいると通報を受けた警備員に放り出され。
また次の日には懲りずに変装したツーピーが、絶賛落ち込み中のゼクス・フォースに突撃して「どうかしら、わたちのスライムは?」などと感想を求めたりしていた。
その時のゼクスの反応はそれはもう見ものだったね。
この妙に距離感の近い謎の幼女をどう扱っていいかわからず、何をどう反応すれば幼女が納得するんだといった様子で、取り巻きも含めて大慌てでかなり滑稽だったよ。
たぶん貴族の自分を敬う知能の無さそうな、なんでもありの幼女と接する経験とかなかったんだろう。
はたから見ていて面白かったので、当然そのまま木陰で爆笑させてもらったよ。
あいつも公爵家だのプライドだのと肩肘はらずに、素直になればいいのにと思う今日この頃である。
だけどまあ、今回はこのクソガキの意外な一面と、自慢気なツーピーの笑顔を見れたので良しとしよう。
そんなたわいもない、ある意味で嵐の前の静けさのような数日間であったとさ。
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