じつは実話です。

あじみうお

じつは実話です。その1 黒い人影のひそむ家


就学前に住んでいた小金井市の家には黒い人影がすんでいた。


休日の早朝に早起きをして、ダイニングテーブルでテレビを見ていると出てくる。


左手の流しからぬーっとでてきて、ダイニングテーブルの周りをまわり、右手の食器棚に消えていく。


その決まったコースを、次から次へと流しから湧き出たたくさんの黒い人影が、列をなして進む。

小さく前ならえをして、両足を揃えて、そのままスススススと進んでいく。


私はそれを眺めながら、「この黒い人影におぶさっていけば、自分も食器棚にスっと入って行けたりするんじゃないだろうか?」とか「食器棚の中の世界はどうなっているんだろう」とか、「食器棚を通過してそのまま外に出た場合、裸足じゃまずいよな」とか、そんなことを考えていた。


結局、私は黒い影におぶさることなく、したがって食器棚に吸い込まれることもなく、ようやく母が起きだしてきて部屋の入口まで来たあたりで、最後の一体がすっと食器棚に消えるのを見届けた。


この体験談に関しては、幼稚園生の頃の話なので自分でも半信半疑だったのだが、成長してからこの話を母にしたところ、確かにあの家には黒い人影がいたという。

母も見ていたのである。


母の場合は、流しに立つと、常に足元に膝を抱えてうずくまる黒い人影がいたらしく、気味が悪かったと話していた。


父もその話に交じりたかったのか、「俺はあの家で冷蔵庫の上に座るばあさんを見たぞ」と言っていたが、たぶんそれは嘘である。百歩譲ってばあさんを見たとして、泥酔して帰ってきた時にあらわれたであろう幻影である。


そんな変わった思い出の家のあたりに、先日たまたま行く機会があった。

実に40年ぶりである。

いちおう東京都内の住宅街である。当時住んでいた時点でも新しいとはいいがたかった平屋である。

取り壊されてアパートだのマンションだのになっていそうなものなのに、その家はまだ当時のまま建っていた。

同じようなつくりの家が周りに何軒かあったはずだが、その家と隣の家の2軒だけが残っていた。

現在も居住者がいるようで、外壁や屋根は塗り替えられ、生け垣の一部は取り壊され、庭だった部分は駐車スペースになっていた。


あまりにも驚いたので、小綺麗に住まれた、よその誰かの家の前で、つい記念写真を撮ってしまった。


もしかしたら、あの黒い影が、いまだに家を守り続けているのかもしれないと、ふと思った。

お化けのいる家は長持ちするのだとしたら、ちょっと気味が悪くて煩わしいけれど、そう悪くもないのかもしれない。


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ちなみに、この体験談をモチーフにした原稿がいくつかあるので、追々アップさせていただきます。その際は、もしよかったら、読んでみていただけたら、嬉しいです。


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