第58話 収穫祭

――休憩を挟んだ後、リン達は遂にニノの街へ到着した。中に入る前に城門の兵士に団長は話を通し、捕まえた盗賊達を引き渡す。兵士達は盗賊の顔を見て驚き、特にリンが捕まえた男はこの地方では有名な賞金首だという。



「ま、まさかあのエンを捕まえるなんて……いったいどうやったのですか!?」

「エン?有名なのか?」

「有名もなにもこいつはこの街に訪れる商団を頻繁に襲う最悪の盗賊団なんです!!だからここへ来る商団も減って大変なんですよ」

「へえ、そうだったのか……お前、賞金首だったんだな」

「ちっ……殺すならさっさと殺せ!!」



縄で縛られた盗賊の頭は悪態を吐くが、いくら凄もうと捕まった状態では怖くはない。団長はエンのせいで部下を全員失ってしまったため、生意気な態度を取る彼に容赦はしない。



「立場を弁えろよ。お前が生きていられるのは俺の慈悲だって忘れるなよ?」

「ふん!!死ぬのが怖くて盗賊などやってられるか!!」

「威勢がいいな。だが、すぐに死ぬような真似はしねえ……殺された俺の部下の無念を晴らすまで痛めつけてやろうか!?」

「ぐうっ!?」

「お、落ち着いて下さい!!」



団長はエンの顔面を掴んで壁に叩き付け、彼としてはこれまで一緒に過ごしてきた部下を何人も殺されている。本音を言えばここでエンを殺したい所だが、賞金首だと判明した以上は殺すのは止めて兵士に引き渡さなければならない。



「ちっ……賞金首を死なせた場合は報奨金が減らされるからな。だから殺すのは勘弁してやる」

「ぐはっ!?」

「は、早く連れて行け!!他の奴等もだ!!」



兵士は団長の気が変わる前にエンとその部下を連行し、それを見送る団長は苛立ちを隠せない様子だった。彼の傭兵団は今回の一件で解散を余儀なくされ、しばらくの間は一人で行動しなければならない。


盗賊に襲われた際に逃げ出した部下が戻ってくる可能性はなく、仮に戻って来たとしても盗賊に恐れて逃げる様な人間を再び迎え入れるつもりもない。団長はため息を吐きながらとりあえずは自分の職務に専念する事にした。



「坊ちゃん、お嬢様。待たせて悪かった……あれ?何処へ行った?」



兵士に盗賊を引き渡す際にエンはリンとハルカには馬車に待機させていたはずだが、いつの間にか二人の姿が見えない事を思い出す。二人だけではなく、ウルの姿も消えている事に気付いて慌てて周囲を探す。



「ちょっと!?二人とも何処へ行ったんだ!?まさか誘拐……」

「あ、もしかしてお子さんを探してますか?」

「いや、俺のガキじゃないんだが……あんた、知ってんのか?」



慌てた様子でリン達を探す団長を見て通りすがりの兵士が話しかけ、彼は団長が盗賊を引き渡している間にリン達が何処に行ったのかを伝える。



「馬車に乗っていた子供達なら先に街に入りましたよ。今日は街では年に一度の収穫祭が行われてますからね、嬉しそうな様子で向かいました」

「な、なんだって〜!?」



リン達は先に街に入っている事を知って団長は大声を上げた――






――ニノの街では豊作の年にだけ収穫祭と呼ばれる祭りが行われ、この祭りは名前の通りに作物が無事に収穫できた事を祝って行われる。他の街でも同様の祭りは行われているが時期が異なり、今の季節で収穫祭が行われているのはニノだけである。


収穫祭の時は普段以上に街に観光客が集まり、大勢の人間で賑わっていた。リンはハルカと共に先に街に入ったが、勝手に団長から離れて良いのかと不安を抱く。



「ハルカ……やっぱり、団長さんから離れるのはまずいんじゃないかな」

「え〜?少しぐらい平気だよ。それにこの街には私もよく来るから道に迷う心配もないし、それに収穫祭は今日で終わっちゃうんだよ?それなら早く遊びに行かないと損しちゃうよ!!」

「そ、そうなんだ……」



ハルカはこの日を心待ちにしていたらしく、彼女がニノに訪れたのは父親と会うためだけではなく、この収穫祭を楽しみにしていたらしい。収穫祭では様々な屋台が並んでおり、普段は滅多に手に入れる事ができない他の街の商品なども売り出されていた。



「そこの御二人さん!!良かったらうちのお守りを買って行かないかい?恋人同士の仲を深める御利益があるお守りだよ!!」

「えっ?」

「こ、こ、恋人!?私達、恋人に見えるの!?」

「ん?違うのかい?仲良さそうに手を握って歩いているからてっきり恋人だと思ったんだけど……」



お守りを売っている露天商にリン達は呼び止められ、ハルカは自分とリンが恋人と見間違われた事に嬉しくも恥ずかしそうな表情を浮かべる。リンの方は露天商に並んでいるお守りを確認し、その中で気になったのはハートの形をした水晶のペンダントだた。



「このペンダントは……」

「おお、お兄さんお目が高い!!そいつはうちの商品の中で一番売れているお守りだよ!!」

「クゥ〜ンッ」



この手の装飾品はリンは身に着けた事はなく、傍を歩いていたウルも興味深そうに覗き込む。ここでリンはウルが先日に首輪を失くした事を思い出し、ペンダントを買って首輪代わりになるかと思って購入を決意した。



「これを一つ下さい」

「おっ、毎度!!それじゃあ彼女さんの首に付けてやりなよ。そうすると御利益が高まるよ」

「え?いや、これは……」

「リ、リン君……私に付けてくれるの?」



露天商はリンから代金を受け取るとペンダントを手渡し、彼はハルカの首に付ける様に促す。リンはウルのためにペンダントを購入したのだが、ハルカは期待した眼差しでリンを見つめる。


リンは困った表情を浮かべながらもこの状況でハルカの首にペンダントを付けないと変に思われ、ウルには別のペンダントを買う事に決めてハルカにペンダントを付ける。



「えっと……似合ってるよ」

「う、うん……ありがとう」

「ふふふ……毎度有り」

「ウォンッ?」



照れくさそうな表情を浮かべるハルカとリンに露天商の女性はにやにやとした表情を浮かべ、傍に居たウルは首を傾げる。何だか変な雰囲気になったのでリンはハルカの手を掴んで離れる事にした。



「い、行こうか……」

「うん!!」

「ウォンッ!!」



ウルへのペンダントを買うつもりだったが思いがけずにリンはハルカにプレゼントを渡し、女性に贈り物をするのは彼も初めての経験だった――






※作者「爆発しろ!!(# ゚Д゚)」

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