第18話 私を必要としてくれる人(途中からベル視点)

「……はぁ? お前は何を言っている? 貴様も人間だろう?」

「いや人間が人間嫌いで何が悪い」

  

 普通に誰だって嫌いな人いるだろ。

 それの全人類バージョンなだけだよ。


「無駄な話は後でするとして……取り敢えず歯食いしばれ」


 俺はそれと同時に男とベルの後ろに移動し、男を店の入口に向けて吹き飛ばす。

 勿論その間にベルは解放して店長に預ける。


「店長さん。後で魔王宛に店の請求書出しといてくれ。全額弁償するから」

「え、いや、ちょ、ちょっと待っ——」


 俺は店長の言葉を無視して店の外に出る。

 外では向かいの露店に二人共激突しており、何故か露店の店主が大喜びしている。


「や、やったああああ!! これで俺はこの露店をやらなくて済む!! これからは帰って畑仕事をするぞーー!!」


 そう言って自身の持ち物と思われるバッグを担いで何処かに消えてしまった。

 不思議な奴だったが、露店が無くなってくれたお陰で安心してボコれるな。


「「や、やめ―――あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッッ!?」」

「誰が止めるかアホ共。お前達はもう終わってんだよ」


 俺は二人の人間を露店の瓦礫の中から引き上げて、取り敢えず空中に飛ばして落ちて来るまでに死なない程度の力で何百回と殴りまくる。

 勿論たとえ骨が折れようが舌を噛もうと内臓が破裂しようがアソコが潰れようが落ちてくるまで永遠と殴っていく。

 どうせ俺は回復魔法も使えるので死にそうになれば治せばいいだけなので遠慮なくな。

 

 しかし本当は今すぐにでも心臓ぶち抜いて殺してやりたいのだが、それは俺達にとって・・・・・・不利な状況になってしまう。

 何故なら……


「おい、お前ら……王国の人間だな?」

「「なッ!?」」


 二人の顔が露骨に変化し、俺に殴られていた時以上の恐怖が浮かび上がっていた。

 それに体はいきなりブルブルと震えだしたし、体に力が入らないのか立ち上がる気配もない。


 はい、と言う分かりやすい反応ありがとう。

 これで確定だな。

 あの腐った愚王が治める国は本気で魔界に侵略に来る気のようだ。

 だが向こうがその気なら……此方も容赦しない。


「どうせ魔族を攻める前に弱点でも暴きたかったんだろ? まぁお前ら程度の人間に詳細を教えているわけではなさそうだが……取り敢えず記憶を見せてもらうぞ――【記憶の回廊コリドーオブメモリー】」


 俺は二人の記憶の中に入った。





***





 ―――記憶の回廊コリドーオブメモリー―――


 神眼の一つの能力で、対象の目を見ていると発動できる。

 神のスキルのため、あらゆる抵抗スキルをも貫通して対象の記憶の追憶可能となる回廊に侵入するスキルだ。

 この回廊は対象者ですら忘れている記憶をも管理されており、所謂全ての記憶が保管されている人間の中で一番重要な場所と言っても過言ではない。

 記憶は本のように廊下の壁の本棚で管理されている。

 まぁこれは俺が想像したものなのだが、どうやらこの能力は使用者によって回廊の姿は変化するんだとか。

 ここで俺が暴れ回れば、頭がショートして死んでしまうだろうが、今回はそんな事しない。


「さて、依頼された瞬間の記憶は……あったあった」


 俺は一つの本を取り出す。

 その本は鎖が巻かれており、大方記憶を封印されているのだろうが、神眼の前では無意味だ。

 あっという間に鎖は砕け散り、閲覧可能となる。

 

 俺は本を開き読み始める。


――――――――――――――――――

スミスは神聖王国の諜報員だ。

 五歳の時に現れた騎士の恰好をした賊に村を滅ぼされ、路頭に迷っていた所を当時諜報員長であった◯◯◯◯◯様に出会い、諜報員として生きることとなった。

 他国のスパイ、要人の護衛や殺害、時には何年も潜入して情報を得る。

 全ては王国のために――。


「スミスよ――我が国のために頼むぞ」

「はっ――!! 必ずや持ち帰ってみせます!」


 教皇様自らスミスへ仕事の内容説明をされた。

 何と光栄なことか。

 この出来事は生涯忘れないだろう。


 今回のスミスの仕事は魔界へ行き、適当な魔族を何体か《奴隷の首輪》を付けて王国に持ち帰ることだ。

 どうやら王国はもうすぐで魔界に反撃をするらしい。

 何でも秘密裏にここ何十年間かに渡って魔族の攻撃を受けていたんだとか。

 そのため勇者を呼び、勇者が楽に勝てるように、こうして魔族の体で実験をして弱点を見つけ出そうとしていると教皇様が言っていた。

 スミスは必ずこの任務を成功させて見せる。


 邪悪な魔族に鉄槌を―――ッッ!!

――――――――――――――――――


「…………胸糞悪い話だ」


 この人間――スミスは騎士の姿をした賊と言っていたが、十中八九王国の騎士だろう。

 何故かは分からないが村を滅ぼしているついでに諜報員の才能を持ったコイツだけ生残され、あたかも命の恩人かのように仕向けて諜報員にならせたと俺は考える。

 あの屑たちなら十分に実行するだろうからな。


 しかしコイツ……思った以上に立場が上の人間だったんだな。

 理由まで知っていたし、封印すらされていたからこの情報は間違いないだろう。

 よし―――コイツらにもう用はない。


 俺は記憶の回廊から抜け出し現実世界に戻ってくる。

 俺が記憶を見ていた方の男――スミスは白目を剥いていて意識がなさそうだ。

 そんなスミスを見て大柄な男が恐怖に顔を引き攣らせている。

 俺はそんな二人を見ながら立ち上がり冷たい目を向け、

 

「――じゃあな」


 ザンッッ!!


 小刀に魔力を込めて刃を伸ばし、一刀にして二人の首を跳ねる。

 情報をくれたお礼として一瞬で殺してやった。

 俺が小刀の刃に付いた血を拭っていると、先程の少女――ベルが近づいてきた。

 

「そ、その人達、殺したのですか……?」

「ああ。どうやらこの魔界に来たスパイだったらしいからな」

「へ、へぇー……あっ! そ、その……ありがとうございましたっ!!」


 そう言って頭を下げるベル。

 俺はそんなベルの頭を上げさせ、おでこに弱めにデコピンを食らわす。


「あいたっ!? ど、どうして……」

「当たり前だ。元はと言えばお前が悪いんだぞ。お前がうっかり叫ばなければあんなトラブルにもならなかったしコイツラが死ぬこともなかっただろうしな。次からはもっとちゃんとしろ」

「うっ……す、すいません……」

「まぁだが――」


 俺はしゅんとしているベルの頭を撫でる。

 いきなりのことで驚いているベルに笑いかける。


「お前のお陰でスパイを見つけられた。お手柄だったな――ベル」

「えっ、どうして私の名前を――」

「ベル……お前には二つの選択肢がある」


 俺はベルの言葉を無視して話を続ける。


「まず一つは、このまま此処でバイトをする。まぁまた雇ってくれるかは知らないがな」

「うぅぅ流石に厳しいですよね……」

「二つ目」


 俺は落ち込むベルに見えるように指を二本立てる。


「俺――魔王軍総大将で元勇者の浅井優斗の直属の部下になるかだ」

「「「「「「「「「「「「「―――え?」」」」」」」」」」」」」」


 俺の言葉に本日何度目になるか分からない沈黙が辺りに広がる。


 まぁ正体を明かせばこうなるだろうとは思っていた。

 俺が総大将になってから魔界中に既に知らせは行っているからな。

 更にはちゃんと五〇〇年前に悪の大魔王を倒した勇者って言うことも書かれている。

 なので俺を見たことない人が殆でも噂は広まっていた。

 そんな民衆に一度も姿を見せなかった謎の男が目の前にいるのだ。

 皆思考停止してしまうのもしょうがない事だろう。


「どうだベル? 魔界最初の直属部下になってみないか? 給料も弾むし――君の呪いも解いてやるぞ?」

「!?」


 ベルがビクッと震えると共に俺の顔を見上げてきた。

 後ひと押しだ。


「ベル―――俺と一緒に来ないか?」


 始めは信じられないと言った表情で驚いていたが、途端に顔を赤くして、


「わ、私は……貴方様の専属部下になります……よ、よろしくおねがいします……」


 そう小さな声で言ってくれた。

 





***





 私――ベルは呪われた子らしい。

 そう教えてもらったのは一〇歳の頃。


 その時自分は他の子達に比べて明らかに身体能力が低かった。

 そのためこの黒と白と言う不思議な髪と目のこともあって、皆から避けられて何時も一人ぼっち。

 私はある時お父さんとお母さんに聞いてみた。


 どうして私は皆と違うの―――と。


 するとお母さんたちは私にあることを教えてくれた。


「ベル……私達は皆と違って完全な魔族ではないのよ……」

「俺達はその昔……神と悪魔の間に生まれ神にも悪魔にも恐れられて呪いをかけられた禁忌の一族――神魔族の末裔なんだ」 


 私は初お母さんたちが何を言っているのか分からなかった。


 皆と違う? 呪いをかけられた? 禁忌の一族?

 なにそれ……私知らない……学校でもそんなの教わってない……。


 でも私はその後で自覚するようになる。

 皆がレベルが上って強くなっていくのに私は殆ど強くならない。

 だからレベルも殆ど上がらないし体は弱いまま。


 でもつい最近になってお母さんたちが体調が悪くなって私が働かないといけなくなってしまった。

 私は戦えないから、取り敢えず苦手だけどとある店の接客をバイトとして始めた。

 でも――


「ご、ご注文は何でしょうか……―――って人間の方!?」


 私は初めて見た人間に驚いて声を出してしまい、


「おいガキ! 何勝手に言いふらしてんだよ!」

「そんなに許してほしいなら俺達の言うことに従え――取り敢えず外に行こうか?」


 二人の人間を怒らせてしまった。

 私は強い力で腕を掴まれて外へと引っ張られる。

 抵抗しようとしてもちっとも変わらない。

 助けてもらおうと周りを見ても誰も動いてくれそうにない。


 しかし私と目があった人が居た。

 その人もフードを被っているが、この二人とは違って何故かふと安心するような感じがした。

 その御蔭で少し声が出せるようになったので、聞こえないと分かっていてもつい溢してしまった。


「だ、誰か……助けて――――ッ!!」


 そう言葉にした時……気付いたらさっきのフードを被った人が入り口に立っており、大柄な人間を一瞬にして外へと吹き飛ばしていた。

 私を掴んでいる人間の問いに、彼はフードを取って顔を露わにした。


 黒目黒髪にそこそこ整った顔立ちをした人間だったが、その黒く澄んだ瞳には怒りが灯っている。

 そして吐き出すように言う。


 通りすがりの――ただの人間だよ――と。

 

 そしてまた気付けば目の前に彼の姿はなく、いつの間にか私は彼の腕に抱かれていた。

 私は彼の腕の中で彼の顔を見る。

 その顔は未だ無表情で静かな怒りを宿していたが、ちらっと私の顔を見た時だけその瞳に心配の感情が浮かんでいた。


 不覚にもキュンと来てしまった。

 まるで昔呼んでいた小説に出てくるような王子様のようだったからだ。

 彼は私を店長に預けると店を出ていってしまった。


 私は店長や優しくしてくれていた先輩たちに心配そうに声を掛けられていたが、全て聞こえない。

 私は彼の姿をぼんやりと眺める。


 彼は物凄く強くて私が何をしても効かなかった人間たちをボコボコにしていた。

 そして最後に人間たちの首を斬る。


 私はその凄惨な光景を見て意識が体に戻ってくる。

 

「お、お礼を言わないと……!」


 私は彼の下へ走る。

 彼は私の存在に気づいたのか此方を向いた。

 私はドキドキと高鳴る心臓の鼓動を無視して頭を下げる。


「あ、ありがとうございましたっ!」


 彼は私の顔を上げさせると、私の額にデコピンしてきた。

 私は鈍い痛みにおでこを押さえる。


「あいたっ!? ど、どうして……」

「当たり前だ。元はと言えばお前が悪いんだぞ。お前がうっかり叫ばなければあんなトラブルにもならなかったしコイツラが死ぬこともなかっただろうしな。次からはもっとちゃんとしろ」

「うっ……す、すいません……」


 そう言って怒られるが、何も言い返せない。

 全部事実だから。

 

 私が落ち込んでいると、彼が言葉を発する。


「まぁだが――」

 

 その言葉と共に彼は顔を綻ばせると頭に手を置いて撫でてくれた。

 その瞬間に少し収まろうとしていた心臓の鼓動が再び激しく脈打ちだす。

 顔が熱くなり、彼が見れなくなる。

 

 何なの……何なのこれ……私……


「お前のお陰でスパイを見つけられた。お手柄だったな――ベル」

「ど、どうして私の名前を――」

「ベル……お前には二つの選択肢がある」


 私の言葉は彼のそんな言葉に遮られてしまった。

 彼は私の目を見ながら真剣に話を続ける。

 その中で彼がとんでもないことを口にした。


「俺――魔王軍総大将で元勇者の浅井優斗の直属の部下になるかだ」


 総大将……? あの噂の?

 う、嘘……この眼の前にいる私に優しい目を向けてくる彼が……?

 でも確かに物凄く強かったしお伽噺にあるようにかっこよかったし……。

 そんな彼が私に部下になれって……。


 私の頭は余りの情報量にショートし言葉が出ない。

 そんな私に、彼は迷っていると思ったのか、私の呪いも解いてやると言ってくれるではないか。

 そして彼は最後に私にとどめを刺してきた。


「ベル―――俺と一緒に来ないか?」


 私に淡い笑みを浮かべて手を差し伸べてくる。


 あっ―――もうダメ……


 私は考えるよりも先に声が出ていた。


「わ、私は……貴方様の専属部下になります……よ、よろしくおねがいします……」


 もう何も考えられない……考えなくてもいい。

 私を人生で初めて必要としてくれる人が目の前にいる……それだけでいい。



 私は彼の――優斗様の手を握り返した。



 この出来事を私はたとえ死んだとしても忘れないと思う。




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 取り敢えず10万字程書いた時点で、人気であれば続けます。

 なので、☆☆☆とフォローをよろしくお願いします。

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