8.もう!!耐えられない!!
結婚をして、一人前の公爵夫人になりました。ガブリエラ・アクエリアスでございます。
「はいはい、奥様はさっさと支度してくださいね~」
「最近は本当に容赦ないわね、アール」
結婚してもアールは私についてきました。
婚約破棄されたのも半分私のせいだったし、本人も――
――もう男はいいです。それよりもあなたが心配すぎてほっとけないので連れていってください!!
そう懇願してきたので最後まで責任をもって連れていくことにした。
ただ、最後まで責任を取る。と言うのは簡単でも、その言葉を守り切るのは難しい。
さて、中世で貴族が死ぬ一番の理由とは何だろう?
飢餓や貧困?戦争?市民の反乱?
まぁ、死ぬ理由はいくつもあるが、一番。そう上げるのであれば明確。
病気だ。
医療技術は未熟。その未熟な医療すら受けられない者。全く効果のない民間治療だったり詐欺師じみた呪い師のたぐい。そして何より……。
臭い。
うん、臭いんだ。
つまりは汚い。
中世において最も病気で死ぬ理由。衛生環境が最悪であり、病気になりやすい環境が整っているからだ。
「すごいよねー。一家に一台のトイレがないのはまぁ仕方ないけど、排せつで出たものを適切に処理せずに道に投げ捨ててるんだもの。臭い、汚い、不衛生の極みで病気にならないわけがないでしょ!!」
家の中でいわゆるおまるのようなもので用を足し、窓から投げ捨てているのが中世だ。王城でも同じようなものだし、きらびやかなイメージのお城や屋敷にある中庭で貴婦人方が笑顔で立ちながらドレスの下で用を足す……なんてこともある。やたら花や木々で豪華なのも、足元のモノを隠す意味合いもあったりするのだ。お花を摘んでまいりますは、結構ドストレートな言葉だったりする。
「この世界には魔法がある。浄化魔法も。それでもすべての都市の通り、王城屋敷を浄化するなんてできっこない」
それに魔法というのも完璧じゃないことを嫌というほど知った。
「回復魔法は傷をあくまでも癒すもの。病気という状態異常は治せない。回復魔法の使い手は少ないけど、状態異常の快癒魔法の使い手はもっと少ない」
結論。
重い流行病にかかったら治す手段はない。
「そして、だからこそこの領地をもらったのよ」
手元には簡易な地図。
地図の北方には山があり、そこから流れる大河が逆くの字が描かれている。
「既存の都市を改造するのではなく、新しい、衛生的な都市を造る。そのためにねっ!!」
既存の都市再開発に最も手間取るのは、一度壊すという無駄につきる。
実際、都市の再開発をします、だから立ち退いてください。そう言われてはいそうですかとはいかないだろう。私も嫌だしね。
暴論かつ極論で言えば、民こそが最も公共事業の邪魔をしているとすら言える。
だからこそ、一から造れるというのはいい。
そういった邪魔は入りずらいし、土地の利権でいうならばそもそもこっちは領主だ。文句言わせないわよっ!!権力最高!!
これまでと違い、長い時間のかかる事業になるだろ。
人や金、物資のすべての消費がこれまでとは比べ物にならないだろう。自分が今まで得た利益、そして公爵としてのお金すべてをつぎ込んでも足りないかもしれない。
それでもやろう。
「やってみせましょうとも!!ついでに軟水販売事業も都市開発にちゃっかり組み込むけどね」
前世日本でやっていた、硬水をわざわざミネラルウォーターとして販売していたことの逆をやる。今まで軟水もどきの調整水を大々的に発表しなかったのはこのためだったのだから!!なに、都市開発の中に趣味のものが一つくらい混じっていても不利益でなければ問題あるまい?くっくっくっくっ。
趣味と実益は――他者の利益と組み合わせることで叶うのである。あーる。
なお、ガブリエラが新しい都市開発するのを考えた理由の一つは、臭い匂いをさらに強い匂いの香水を振りかけてごまかそうとする。それによってどこへいっても臭い環境に耐えられなかったからだったりする。あれだけたいそうなことを言ったにもかかわらず、その本音はどこまでも自分本位なのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます