06.肌の次は髪をみがこう!



 前回からの続き。今回は髪のケアだ。


 

 髪が痛むのが水質のせいであるということは前述のとおり。

 しかし髪というのは戻そうと思って簡単に戻せるものでもない。



 髪は爪などと同じように、肌から押し出された死んだ細胞の塊だからだ。必然として、髪自体に再生能力はほぼ存在せず、美しい髪が欲しいのであれば痛んだ髪を思い切りよく切って新しく伸ばす。新しく伸ばしはじめた髪をきっちりと手入れをする。伸ばすことよりも切ることこそが美しくなるための手段だというのだから皮肉である。



 だが貴族の女性にそれは簡単ではない。

 平安時代の女性貴族ほどではないが女性は髪はある程度長いほうがいいし、髪の質もその貴族家の富の象徴たり得るのだから。あ、この世界はウィッグは使わない世界です。バッハさんみたいに何段ものくるくるまかれたウィッグは存在しない、いいね?



「だからこそ、水だけじゃなくシャンプーとリンス。あとは髪型のセットの仕方?でもそこまでやると道具がなぁ……」



 当たり前だけど!私に適正な熱を使って髪をまけるコテの作り方など知らないわよ!ドライヤーだってそうよ!


 

 現在、髪を巻こうとすると熱した石などを入れた筒に巻き付けるとなるので、髪の痛みは言うまでもない。最悪の場合は髪が燃える。まじで。かといって高度な電子制御をされた現代美容グッズなんて物は作れない。



「用意できないならそれは存在しないのと一緒よ!!」



「お嬢様!大声を出さない!」



「……はい」



 最近、アールが怖いです。

 私の奇行に付き合っていた結果。気が付いたら婚約破棄されたとかなんとか。あは、あははははは……。スミマセン。



 み、未来を見て進みましょう!

 


 さて、まずはシャンプーだ。

 この世界の髪を洗う時、使われるのは石鹸とほぼ同じものなので汚れは落ちるけどこれ自体が髪に悪いというもの。加えて使っている水も硬水なので……うーん。痛みまくりね。



 とりあえず、自然由来で手に入るもので作れる髪に優しいシャンプーを考える。

 材料としては水かココナッツミルクに準じたもの。精油にはちみつなど。細かな調整をするならもっといろいろ用意が必要だし、今並べたココナッツミルクとはちみつは十分に貴重品だ。

 貿易と養蜂でどちらも手に入るけどコストで考えれば関しては目も当てられない。



 なので一番簡単なシャンプーを作る。より正確には汚れを落とすことだけを目的とした小麦粉を溶かしただけの調整水だ。しかし、これで汚れは十分落とせるしコスト的にも手軽。食料分がなくなる危険もあるが、飢饉に対する備えと称して小麦の栽培拡大をお願いすれば確保できるはず……。その辺りの試算は専門家にお任せよ!



 次はリンスだ!

 リンスにも色々あるけれど、その本質は髪の保護。そして保湿。

 


 そしてこちらに関して製造コストがかかるのは……うん、どうしようもないかも。

 必要なのはオリーブオイル・アーモンドオイル・はちみつの三つ。混ぜ方や混ぜる順番とかを気にすることのないので作るのは簡単。ただ必要量のオイルを生産するのに必要な収穫量を考えるとマインズフィール侯爵家の領地でもさすがに無理。すでに色々やってもらってるしね。なのでお父様に相談して友好的な領地と交渉しまくって最初期の必要最低限数の確保に成功!

 


 需要が高まればいろいろと解決する……はずよっ!


 

 生産・製造は先立つものがなければできないし、求められていないものを作ればただ赤字。そのあたりの調整は侯爵家であっても一介の令嬢の手にはさすがにあまる。もっとも、世間にガブリエラ・マインズフィールはただの侯爵令嬢などと認知されてはいないだが。

 


「うーん、結局問題が多く残った気がする」



 満足かつ安定的とは程遠い状態だ。

 あくまでも洗髪用の洗剤を整えただけだし、様々な面で一般普及は夢のまた夢。かといって無償奉仕なんてできるわけもない。自身も両親に言われたが、利益なくして奉仕はできない・続かないのだから。



「万能チートなんてふざけたもの持ってるわけでもない私にはこの辺りが限界かな?ぶっちゃけ、そこまでやる気もないしね!」



 そうしてガブリエラは髪に関する革命の手を止めた。

 肌だけでなく髪質まで良くなったお母様を広告塔にシャンプーとリンスも瞬く間に広がり、生産体制は即座にパンク気味になった。こちらの収益も一部が私個人に入るようになっているようで、ますますお金が増えていく。



 使い道は……ある!



「まだまだやりたいことはあるんだからね。ふっふっふっふっ」



「お嬢様?」



「……スイマセン」



 余談。



 ガブリエラが書き残した一枚のメモ紙。

 それには彼女の頭の中にだけある前世のヘアーアイロンやドライヤーのことが書かれており、それを見たアイリス・マインズフィール侯爵夫人は人知れず侯爵家子飼いの技術者たちに持ち込んだ。

 魔法による、異世界式ヘアーアイロン・ドライヤーが生まれる日も……近い?

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

 どうも、大熊猫小パンダです。

 ツイッターにも書きましたが、昨日は風邪で倒れていて更新どころか宣伝すらさぼってしましまた。

 あ、コロナではないです。

 PV数も100を超えていましたし感謝感激でございます。読んでくださっている皆様も体調にはお気を付けください。


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