第6話「鉄を求めし者」

 草原と廃都市を舞台とした、第一層のダンジョン。

 道や建物は雑草が生い茂っており、かつて多くの者達が生活をしていた名残が道端や建物の中に残っている。


 一体何があって、こんな大きな都市が滅んだのか。

 考察大好きな者達が発見した資料によると、予言者が告げた災厄を退けるために強大なモンスターを召喚しようとして失敗。

 逆に街中にモンスターが大発生して、自分達を亡ぼしてしまったらしい。


 強大なモンスターとはダンジョンの中心地、ゼロエリアでプレイヤーを待つボスの事。

 厄災を退けるために行動して逆に都市を亡ぼしてしまう。

 よくある話だと思いながらボクは、剣と銃の機構を複合した奇抜な武器──〈ヴァリアブル・ガンソード〉を手に前を向く。


「はてさて初回のランダムスタートはどこか。……お、今回はノースエリアか。これは中々に運が良いね」


 天まで突き抜けた果ての見えない塔、その結界に守られた安全エリアの一つにボクとメタちゃんは出現した。

 ノースエリアの近場には、自分に今最も必要な採掘場のドームがある。


 他のエリアにもあるのだが、ここは歩いて5分も掛からない。往復に時間を取られないのが大きな利点だ。


「他だとイーストエリアが早くて、10分くらいだったかな」


 周囲にはドワーフやエルフや小人などの、ファンタジーではド定番の亜人達が歩いていた。

 本当に生きているかのように生活している彼等を見ると、異世界に来たような高揚感を得られる。


 ここでも感動する初心者プレイヤー達を尻目に、ボクは迷わず初期の全財産5000エルを握り締めて道具屋に向かった。


 ショップは看板に、武器屋、防具屋、装飾屋、といくつか分かりやすく書かれている。

 その中の一つ、冒険をサポートしてくれるアイテムを取り扱う店に入った。


 普通のプレイヤーならば、HPを回復するポーションを買うところなのだが自分は違う。

 採掘用のアイテム、木材と鉄で作られた〈ツルハシ〉を発見。

 それを手にレジに座っている強面で威圧的な雰囲気を纏っている店主、20代前半くらいの女性ドワーフのところに向かった。


「ああん? お姫様みたいな冒険者が何を持ってきたかと思えば、ツルハシだと。オマケに腰に下げてるそれは、まさかガンソードか。職業が〈ガンブレイダー〉とは、中々にマニアックな趣味をしてるじゃねぇか」


「はい、鉄片が沢山いるんでこれ下さい」


 ツルハシは一つ5000エル。

 購入画面が出たので、嬉々として了承しようとしたら、


「嬢ちゃん冒険者か、なんだその……悪いことは言わねぇ、ガンブレ道だけはやめとけ」


「え?」


「良いか、もう一度だけ忠告するぞ。職業を変更しろと言ったんだ。〈ガンブレイダー〉の初期ステータスは後衛寄り、オマケに〈セラフ・ブレット〉が無ければまともに運用もできない職業なんざ、そこら辺にいる雑魚モンスターですら苦戦するはずだ。

 お嬢ちゃんみたいな華奢な身体にはハードルが高すぎる。大人しくサポートの〈僧侶〉とか後衛火力担当の〈魔術師〉。チマチマ物作りがしたいなら〈錬金術師〉にでも変更するんだな」


 おー、これは驚いた。まさかNPCから職業の変更を勧められるとは。


 ベータテストの時からAI技術力には目を見張るものがあったけど、このようにプレイヤーの体格とかを気にしてアドバイスをしてくるのは初めてだった。

 軽く感動しながらも、変更する気は無いのでボクは首を横に振った。


「気にかけてくれて、ありがとうございます。でも大丈夫です、こう見えてガンブレ道は誰にも負けない自信がありますから!」


 現代のゲーマーみたいな言葉のチョイスをするドワーフ美女に、笑みを浮かべてポップアップされた購入画面で処理を済ませる。

 チャリーンとサウンドエフェクトが鳴った後、ツルハシを手に店を出ようと背を向けた。


「……ちょっと待て」


「なんですか?」


「まったく、バカみたいに真っ直ぐな目をしやがって。……ガンブレ道を歩むんだろ、俺の知り合いが挫折ざせつして押し付けてきた〈セラフのペン〉が十本あるんだが〈ガンブレイダー〉なんて基本いないし売れなくて邪魔なんだ。嬢ちゃんが良かったら、こいつをタダで貰ってくれないか?」


「え、良いんですか!?」


 てっきり何か小言を言われるのかと思ったら、斜め上の展開に驚愕した。

 店主が口にした〈セラフのペン〉とは、発掘作業で稼いでから買おうと思っていた〈ガンブレイダー〉必須アイテム。


 使用回数が二十回のくせに一本5000エルもする中々に高価な代物、それを無料で十本も貰えるなんて幸運なんてもんじゃない。

 差し出された天使のシンボルが刻まれたペンを前にして、自分は目を輝かせた。


「どうせもらいもんだ。嬢ちゃんにやったところで店には何のデメリットもねぇし、むしろ処分に困っていた。こいつも倉庫の肥やしになるくらいなら、使い潰される方が本望だろうしな」


「そ、そういうことなら、有り難く使わせてもらいます」


「なーに、良いってことよ。ガンブレ道、折れずに頑張れよ」


「ありがとうございます、ドワーフ店主さん!」


 ツルハシだけを入手するつもりが、店主の厚意で思いがけないアイテムを入手できた。

 登校時間も迫っているので、ボクは店を出たらさっそく採掘場に向かった。







 採掘場は安全圏を出たら目と鼻の先にある。

 長く整備されていない道を移動する途中、〈スライム〉や〈ゴブリン〉と戦っている初心者達を何人か見かけた。


 和気あいあいとした彼等は、初めての戦闘に四苦八苦している様子だった。

 自分も最初はあんな感じだったな、と途中で遭遇する〈スライム〉に基本移動系スキル〈ソニックダッシュ〉の加速で接近。

 そのまま手にしたガンソードで切り倒して、大きなドーム場の建物に足を踏み入れる。


 中はコンサート会場みたいな広さ、内装は荒れ果てた状態でモンスターが徘徊はいかいしているのが確認できる。

 目的のものは、会場内に点在する高さ2メートルくらいの石塊。


 パッと見渡したところ、この場にいるのは自分とメタちゃんだけ。ならば全て独り占めする事ができると判断した。

 ツルハシを手にしたボクは、気合を入れてそれら全てを片っ端から叩き割り始めた。


「後1時間、全力で行くよメタちゃん!」


「メタタ〜!」


 肩から降りたパートナーは、自身の手をツルハシに変形させて、高速で転がりながら叩き割る。

 大体三発くらいで砕け散る石塊からは、『石ころ』と『鉄片』が一つずつ。うーん、正式版でも変わらずショボイ。


 五つ割ると、大体一つだけ『金砂』がドロップする。

 これは一つ100エルで売れるので、先程のドワーフ店主に持っていこう。


 そんなペースで石塊を砕く作業をひたすら繰り返す。

 大体一分くらいしたら復活するので、他に人がいなければ半永久的に繰り返すことが可能だが。


「モンスターでついでにレベリングだよ!」


『ギャシャアアアアアアア』


 気づいて向かってくる敵性〈スライム〉や〈ゴブリン〉を、突進スキルを利用して的確に胸の黒光りするコアを叩き切る。

 自分が手にしている90センチの銃剣、〈ヴァリアブル・ガンソード〉は本来なら第三層の素材で作れる武器だ。


 強化値はリセットされてしまったが、それでも第一層のザコ敵が相手なら一撃で倒す事が可能である。

 装備条件はINTを200も要求されるけど、ベータプレイヤーは引き継ぎの特典で主武器に関しては必要値が免除されている(装備から外すと無効になってしまうが)。

 軽く振り心地を試しながら、頼りになる愛剣に頬を緩めた。


「最初のガンソードは六回くらい攻撃しないと倒せなかったなぁ……」


「メタメタ!」


「おっとごめん、感慨深くて手が止まっちゃった。他に人は来ないみたいだし、ギリギリまで素材を集めようか」


 午前6時30分になるまで、モンスターと戦いながらレベルを5まで上げる。

 更にボク達は、合計100個の鉄片を集める事に成功した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る