第25話 ゾンビ、第二の事件の真相を知る
俺は首をかしげた。第3の事件の謎は解けたけど。
「木村さんは優花さんに恋愛感情のもつれで殺された。それが第3の事件。でも、それじゃ、手越先生は誰がなんで殺したんだ?」
カラは降参というように両腕をあげた。
「それが、わかんないとこなんだよねー。最初っから、テゴッチの事件だけは完全わけわかめ。密室殺人作るとか、イミフだもん」
俺も頭を抱えた。
第1の事件と第3の事件は無関係だから、第2の事件と関係しているかはわからない。
手越先生を殺す動機がありそうな人も、特にいない。
彩さんは多少の恨みはあるだろうけど、立花さんや木村さんほど憎んでいないだろうから、手越先生を殺す理由にはならない。
第2の事件に関しては、まったく手がかりがない……。
そこまで考えたところで、俺は何かが引っかかることに気が付いた。
俺は何か大事な手がかりを見落としている気がする。
何か、俺は、重大なことを……。
俺が考えている横でカラは言った。
「とりあえず、もう一度現場に行ってみよーか。テゴッチの部屋は4階だから、下に降りよ」
俺とカラは4階に降りるために、優花さんが使っていた部屋を出て、中央の階段にむかおうとした。
ところが、俺の前を歩いていたカラが一足早く階段の踊り場の前に差し掛かろうとした時、突然、唸り声が聞こえた。
俺は反射的に叫んだ。
「後ろに下がれ!」
俺は急いでカラを追い抜き、階段の入り口に飛びこんだ。
階段を上がった所で、赤青紫の斑紋が浮かんだ人間が両手をあげて、こっちにむかって襲いかかってくる。
「避けろ! ゾンビだ!」
俺はとっさに、片手でカラを後ろに押すようにしながら、もう一方の手で襲いかかってくるゾンビの体を止めた。
顔面がひどく腫れあがった血まみれのゾンビは、背は高いけど痩せていて力は強くない。
「テゴッチ!?」
後ろに下がりながら、カラが叫んだのを聞いて、俺はそのゾンビが手越先生だということに気が付いた。
俺は前進してくる手越先生ゾンビを押さえながら、カラに叫んだ。
「カラはとりあえず、逃げろ!」
カラは廊下を走り、部屋のドアを開け、中に逃げ込んだ。
金属のドアが閉まるのを見て、俺は手越先生ゾンビから離れた。
首からひもを垂らした手越先生ゾンビは、カラのいる部屋のドアへゆっくりと進んでいった。
たぶんあのひもは首吊りに使ったロープだろう。
手越先生ゾンビに素通りされた俺は、落ち着いてカラに電話をかけた。
「カラ、無事? ドアは絶対あけるなよ。そこに手越先生ゾンビがいるから」
「わかってる。ドアの向こうからバリ唸り声響いてるもん。フミピョンは? だいじょぶそ?」
俺はビデオをオンにして、自撮り風に後ろに手越先生ゾンビをうつしてピースをしてみた。
「こんな感じ」
「余裕こきすぎ! マジでゾンビに襲われないんだね。フミピョン。完全にシカトされてるじゃん」
「そうなんだよ。無視されすぎでたまに寂しくなるくらいだよ。それはそうと、謎が解けた気がするんだ。俺、ちょっと、下の階に行って確認してくるから、カラはそこで待ってて」
「待ってるも何も、ゾンビのテゴッチがいるから、この部屋から出られないんですけど!」
俺はスマホを通話状態にしたまま階段を降りて、木村さんの死体が置かれているエレベーターホール前の部屋へと向かった。
ドアを開けると、一見、部屋の中には誰もいなかった。寝かされていたはずの木村さんの遺体が消えている。
俺は、机の下を覗き込んだ。
ちゃんと、いた。
そこには、ノートパソコンを頭にかぶって丸まっている木村さんがいた。
「ううううー」
怯えた様子でなんか言ってるけど、何を言ってるかはわからない。
「やっぱり、ゾンビだった」
俺は木村さんのゾンビ姿をスマホで映してカラに見せた。カラは驚愕の声を上げた。
「ええ!? キムキムが生きかえって……ゾンビ!?」
「うん。ゾンビ。F棟に向かった木村さんがここに戻ってきたのは、ゾンビウイルスに感染したからだったんだ。感染を拡大させるためだったんだよ」
ゾンビウイルスに感染した人間は、しばらくすると感染拡大欲求に突き動かされ始める。
感染初期は、一見、まともな外見でまともな言動を取っているように見えるけど、色んな方法で非感染者に感染させようとするから、症状が進行した完全なゾンビより危険だ。
カラは信じられないという口調で言った。
「でも、何時間も首を吊られてたのに?」
たしかに、俺も、何時間も首を吊られて生きているとは思わなかった。
しかもゾンビの見た目は死体そっくりだから、俺は木村さんの「遺体」を見た時、疑いもしなかった。
だから、脈も息も確認していない。
手袋をつけているから、体温もわからない。
全く気が付かなかった。
俺はカラに言った。
「ゾンビの生命力は半端ないんだよ。普通は死んでる怪我でも余裕で生きてる。俺もゾンビが首を吊るとどうなるかは知らなかったんだけど。一時的に行動不能になるだけで、死なないっぽいな」
「見りゃわかるって」
こういうゾンビ情報は中林先生が喜ぶので、俺はメモ帳を取り出して、ゾンビと首吊りについてメモしておいた。
俺がメモを書いている間も、青紫色の顔の木村さんゾンビは、まるで怒り狂う亡霊に襲われているかのように「ううううー。ううううー」と、か細い声をあげながら机の下で震えていた。
俺、あんまりゾンビが怯えている姿って見たことがないんだけど。
一体どうしたんだろう。
カラはため息をついて推理をはじめた。
「ってことはさ。たぶん、こういうことでしょ? メグミに会いに行ったキムキムは外でゾンビウイルスに感染した。そして、あたし達にも感染させるために、ここに戻ってきた。だよね? 超迷惑な話だけど!」
「うん。俺はすっかり見落としてたんだけどさ。カラの言ってた脱出用装甲って、銀色の大きなロッカーみたいな奴だろ?」
「そうそう、そんなの」
「それ、F棟の入り口にあるんだよ。今はゾンビが入ってびっくり箱にしちゃってるけど」
「びっくり箱?」
木村さんはF棟の入り口まで脱出用装甲で移動したけど、たぶん、その辺りで感染して、脱出用装甲を放置してきたんだろう。
俺は推理の続きを言った。
「そして、たぶん、戻ってきた木村さんは最初に4階の手越先生の部屋に向かった。あの部屋が入ってきた時に一番近い位置にあるから」
その先は俺の代わりにカラが言った。
「テゴッチは電気をつけて、応対しようとしたけど、その時、キムキムが感染していることに気が付いて、応戦しようとした。だけど、テゴッチがキムキムに敵うわけないから、殴り殺されかかった上に感染させられた。たぶん、テゴッチはそこで一度気絶したんだと思う。ドア付近に血だまりがあったから。意識が戻って自分が感染したことを悟ったテゴッチは、理性を失う前に部屋にドアストッパーをかけた上で、自殺しようとした。これが、密室殺人の真相」
「うん。手越先生は自殺だったんだ。結局、ゾンビウイルスに増強された生命力が強すぎて自殺未遂になったわけだけど。そして、第3の事件も、見てのとおり殺人未遂。優花さんは木村さんを殺したつもりだったけど、木村さんもゾンビウイルス感染後の仮死状態で死んだように見えていただけだった」
ゾンビウイルスの感染初期には意識を失ったり仮死状態になることがある。
あるいは、ゾンビは首を閉められたら一時的にそうなるのかもしれない。
どっちにしろ、今は木村さんも手越先生も、元気にゾンビだ。
カラは深いため息をついて言った。
「偶然だけど、ユーカリンのおかげで、あたし達は感染せずに済んだのかも。ユーカリンが何もしなかったら、キムキムに全員感染させられてたかもしれないもんね……。ちょっと待って! だとしたら、ユーカリンは!?」
カラの叫び声で、はっと気が付き、俺は叫び返した。
「木村さんに接触してるから、感染してるかも!」
「早く連絡しなきゃ!」
カラはみんなに連絡するため、俺との通話を切った。
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