3章 ゾンビとギャルは謎を解く

第18話 ゾンビ、探偵になりたがる

 俺はバリケードを通過しながら、カラにたずねた。


「殺人事件の謎を解く? 犯人を見つけるってこと?」


「うん。だってさ、誰だって、殺されて放置されてそのままなんて、悲しいじゃん。あたしはあの3人のことそんなに好きじゃないけど。可哀そうじゃん。せめて何が起こったのか明らかにしてあげないと」


「けど、もうみんな出発しちゃったよ?」


 容疑者はもうここにいない。

 だから、今更犯人を見つけても、「犯人はお前だ!」的なことはできない。

 カラが犯人じゃない限り。


「それでOK。ニッシーには時間がないんだもん。謎なんて解いてないで、早く病院に行ってもらわなきゃ」


 カラはそこで一呼吸おいて言った。


「それに、あたし、みんなの前で犯人を見つけるのは、怖かったんだ。だってさ、あたしはみんなが好きだから。誰が犯人でも……。それでも、やっぱ、真実は知りたい。だからさ、フミピョン、事件の解決に協力して。この事件の謎を解いたら、研究所に手伝いに行ったげるから」


 俺はOKすることにした。

 殺人事件が起こるのは嫌だけど、殺人事件の謎を解くのはちょっとおもしろそうだ。

 子どもの頃、俺は名探偵に憧れてたんだよな。

 まさか、名探偵ゾンビになる日がくるとは。


「了解。でも、謎を解き終わったら、まず、俺に勉強教えてくれない? 中林先生に指定された本、読もうとしたんだけど、難しすぎて意味不明なんだよ」


「いーよ。教えたげる。まかせとき」


 俺はカラにたずねた。


「じゃ、謎解きのために、ここにいた人達のことを説明してくれる? 俺、ここにいた人達のことを何も知らないから」


 カラは俺に工学部の人達の説明をざっとしてくれて、俺は初めてここにいた人達全員の名前を知った。

 カラは説明を終えると俺にたずねた。


「じゃ、次はフミピョン。外で発見したことを教えて。まずは、さっき言ってたビニールひもについて教えてよ」


「ああ、うん。実は、ビニールひもはすでにゾンビが拾っちゃってて今はないんだけど……」


 俺はそこで思いだして、ポケットからスマホを取り出した。


「代わりにさっき外でスマホを拾ったんだ。これ何か関係があるかな?」


 カラはスマホを見るとすぐに言った。


「これ、キムキムのかもよ? こんなスマホだった気がする」


「やっぱり? ひょっとしたら、窓からつるされた時にスマホが落ちたのかもって思ったんだ。でも、このスマホ、ロックがかかってるんだよ。ロックを解除しないと何もわからな……あ、そうか。木村さんのだったら解除できるかも。木村さんの遺体ってどこにある?」


「そこ」

 

 カラはエレベーターの正面にある部屋を指さした。


「ちょっと、試してくる」


 俺はその部屋に向かった。

 窓の傍に木村さんの死体が寝かされていた。皮膚がすっかり気色悪い色に変色している。

 俺は木村さんの指を取り、スマホの指紋認証の部分にくっつけた。

 驚くほどあっさり指紋が認証された。


 俺はスマホを持って、エレベーターホールに戻った。


「やっぱり木村さんのだった。ちゃんとロックを解除できた」


 俺が部屋を出ながら報告すると、カラは喜んで言った。


「フミピョン、できる助手! 見せて見せて!」


 できる……助手? 

 助手なのか……!?

 俺は名探偵ゾンビになったつもりが、いつのまにか助手にされていたことを発見した!


「いいけど……」


 俺は探偵じゃなくて助手にされたことに異議を申し立てようかと思ったけど、こんな時に言うことじゃないので言葉を飲みこんで、代わりに必要な話をした。


「除菌か何かした方がいいかも。このスマホ、ゾンビが持ってたから」


「じゃ、院生室に行こ」


 長い廊下を歩きながら、俺はさっき言いかけて、でも大人げないから言わなかったことを、やっぱり言うことにした。


「あのさ……俺、助手より探偵がいいんだけど。探偵ゾンビ」


 カラはあっさり言った。


「おけおけ。じゃ、あたし達、ふたりとも探偵ね。あたしはギャル探偵」


 なんか、探偵ごっこをしてるちっちゃな子どもの会話みたいになってしまった……。

 でも、俺は晴れて探偵ゾンビ(自称)になった!


 さて、カラについて長い廊下を歩いて行くと、今朝最初に来た時に通された部屋についた。


「ここはあたし達の院生ルーム。はい、除菌シート」


 カラは除菌シートを何枚か取り出して俺に渡してくれた。

 俺は木村さんのスマホを除菌シートで念入りに拭いた後、カラに渡した。

 カラはスマホの画面を操作し、何かを確認し、つぶやいた。


「そっか。そういうことか」


「何かわかった?」


「うん。3つ目の事件は。他は……相変わらず、わけわかめ。とりま、最初の事件現場に行こ」


(わけ、わかめ? 海藻? トリマ?)


 あいかわらず、カラはちょくちょく意味不明な言葉をさしはさんでくるけど、俺はスルーした。

 俺とカラは廊下に出て、別の部屋に向かった。

 廊下を挟んで向かい側の部屋に入りながら、カラは言った。


「ここは手越研と西浦研で共同開発中のロボットがある部屋。ここは防音室になってる。ドアを閉めると音はほとんど外に聞こえないから、たぶん、派手に殺し合いが起きてても、気づかないんだよねー」


 部屋に入ると、中には人型ロボットが置いてあった。平均的な成人男性よりちょっと大きいくらいのサイズのロボットだ。

 カラはそのロボットを指さして言った。


「このロボットはTGS1。危険な工事現場や警備の仕事で人間の代わりに働ける自律型ロボットの試作機。基本的な運動に関するシステムは手越研で、高度な思考や的確な状況判断を行うためのAIをニッシーが担当。あたしとザワチンも手伝ってるけど」


 人型ロボットの見た目は、いかつい。工事現場とかで働くためのロボットだけあって、力が強そうで、ちょっと怖い。

 俺はつぶやいた。


「人型ロボットって、ペッポー君しか知らなかったけど。このロボットは見た目からして強そうで、全然違うなぁ」


 ペッポー君は色んなお店で見かける接客用ロボットで、見た目は子どもみたいでかわいい。


「ペッポー君は会話したり踊ったりするのが仕事だもん。ペッポー君に力仕事なんて誰もさせないでしょ」


 俺は中林先生が操作していたペッポー君を思い出しながら言った。


「力仕事っていうか、戦闘? させる人はいたけど。意外と、ペッポー君って強いんだよ」


 何はさておき、俺は事件の謎を解くため、話を戻した。


「このロボットは誰でも動かせるの?」


「ううん。今は、開発に携わってる人だけ。TGS1はスペック高すぎで、悪用されるとガチでヤバいロボだから。最初にパスコードをいれないと動かせないよ。だから、起動できるのは、今生きてる人だと、ニッシーとあたしとザワチンだけ」


「危険なの? このロボ」


「だいじょぶ。安心して。TGS1が人を攻撃することはないから。そういうプログラムはいれてないもん。書き換えれば、軍事利用可能になっちゃうけど」


(中林先生がこのロボを改造したら、ガチでヤバいことになりそう……)


 そんなことを思いながら俺がロボットを見ていると、カラは窓の方へ歩いて行って、つぶやいた。


「昨日、立花さんはこの窓から落ちた。たぶん、落とされたんだよね。殺された後で」


 俺はふと思った。


「そういえば、カラって、みんなのことをあだ名で呼ぶのに、立花さんはそのままなんだ」


「知らない人と嫌いな人にはあだ名はつけないよ。立花さんとは、しゃべったことないもん。アヤヤンに警告されてたからってのもあるけど」


 俺には会って速攻あだ名をつけてた気がするけど。

 それはおいといて、俺は聞き返した。


「警告? 三上彩さんから?」


「うん。「立花さんにはあまり近づかない方がいいよ」って。そうじゃなくても、この人無理って思ったけどね」


「へぇ。立花さんって恨みを買うようなタイプだったのかな」


 カラは少し考えながら俺に説明した。


「恨みを買うかはわかんないけど。一言で言うと、頭悪そーなタイプ? 考えないで行動するバカっていうか。何も考えずに流されて誰よりも先に突っこんでいくタイプ?」


 カラの人物評って、けっこう辛辣だな……。

 俺もどう思われてるんだか。「名探偵ごっこしたがるおこちゃまゾンビ」とか思われてたりして……。

 俺はカラにたずねた。


「そういえば、なんで、みんな立花さんは自殺だと思ったんだっけ?」


「遺書みたいな紙があったから。黄ばんだ紙で、「桜の樹の下にはゾンビが眠っている。死んでも受けた仕打ちは忘れない」って書いてあった。立花さんはテゴッチにパワハラを受けてたから、そのせいだって、みんなは思ったけど……。たぶん、あれ、だいぶ前のものだよ。だいぶ前に書かれたものを、誰かが大事に保管していたんだと思う」


 俺はうなずいた。


「なるほど。自殺に偽装するために殺人犯が置いたのかも」


 でも、カラは首をかしげた。


「偽装にしては、分かりづらい書き方じゃん? 偽装するなら、はっきり、「手越先生にパワハラを受けたので死にます」って書きそーだよね。それに……。あれ、あたしが偶然みつけたけど、たしか、目立たない場所にあったんだ。見つけてほしいって感じじゃなかったと思う。誰かが落としてなくしちゃっただけなのかも」


「実はただの落とし物? じゃ、立花さんの死とは関係ない?」


「でも、テゴッチはあれ見て、けっこうガチにショック受けてたよ。他の人は無反応だったけど」


「手越先生が……」


 手越先生にとっては意味があるものだったってことか。

 俺はそこで思い出した。

 さっき西浦先生に渡されたものがあることを。


「そういえば。西浦先生がこれをカラに渡すようにって」


 俺はポケットから渡されたものを取り出した。

 取り出してみると、それはICレコーダーのようだった。

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