無垢な悪意

 あーあ、あたしも算数ができるようになりたいなー。


 ……え、あんた誰だ、って?

 ふふん、それはヒミツ。

 あたしはあたしだよ。


 体育はだーいすき!だけど、算数がニガテなんだよね。

 それがあたし。

 あたしは、走るはやさも、とび箱でとべる数も、ボールを投げて届く長さも、なわとびの4重とびだって、ぜーんぶ一番なんだ!


 でも、そんなあたしをバカにしてくるヤツがいる。

 おんなじクラスの●●ってヤツ。

 ほんっとに●●ってだいっきらい!

 だって、あたしが一番になると、

「あー!またアイツが一番かよ。いばっちゃってさ。だっせぇのー。」

とか言ってくるんだよ?

 そのせいで、だいすきな体育の時間がイライラに変わっちゃう。

 いっつも一番のあたしが一番になって、なにがわるいの?

 あームカつく。


 でもね、あたしはおとなだから、ツンとすまし顔してシカトしてやるの。

 そうしたら●●は、

「なんなんだよ……チクショー。」

 なーんてブツクサ言いながらすわりこむんだ。ふふん、ざまーみろ。


 ●●は体育ができない。

 足はクラス一遅いし、とび箱はとべないし、ボールは4メートルしかとどかないし、なわとびなんか引っかかってばっかり。

 だからアイツは、体育ができるあたしがうらやましいんだ。

 あたしはそれを知ってるから、いっつも心の中でわらってる。


 けど、あたしがホントにムカつくのは算数の時間。

 ●●は算数の時だけ、一番になるんだ。

 大きな数のたしざんやひきざんのスピードはクラス一。

 かけざんやわりざんだってできる。

 どんな計算もまちがえなくって、この前なんかほーてーしき?がどうとか言ってたっけ。

 でもあたしはそれがゆるせない。

 だって、あたしが一番じゃないんだもん!

 アイツは算数の時間になると毎回エラソーにこう言ってくるんだ。

 「あれれ〜?そぉんな問題もできないの〜?おっかしいの〜。オレが教えてぁ〜?」

 ほんっと、サイテー!


 でもね、やっぱりあたしはおとなだから、ツンとすまし顔してシカトしてやるの。

 そうしたら●●は、

 「クッソー!」

なーんてまっかになって、えんぴつを歯でガシガシきずつけるんだ。ふふん、ざまーみろ。


 あたしは●●なんかより、ずぅっとおとな。

 でもね、やっぱりイライラしちゃう時だってあるの。

 くやしいな、あたしも算数ができたらいいのにな。

 そう思っても、あたしはできないまんまなんだ。





 そうだ、いいこと思いついた!

 あしたからアイツをずぅっとシカトしてやるの。

 それも、クラスみんなでね!

 アイツはいっつもエラソーだから、みんなもホントはアイツがだいっきらいなんだ。

 みんなでシカトして、シカトして、シカトしつづけたら、アイツもちょっとはおとなしくなるよね。

 そうしたら、あたしはツンとすまし顔して言ってやるんだ。

 「あたしを一番にするために、あたしに算数を教えさせて。やらないならシカトだよ。」

 アイツのくやしそうな顔、かんがえるだけでおもしろいなぁ。ふふッ、アハハッ、アハハハハ!






 ……え、そんなんじゃあダメだって?

 アイツにはきかないって?

 う〜ん……。


 あっ、じゃあ、アイツの持ち物を一日一コこわしていくってのはどう?

 机に、教科書、メガネに水筒!モチロン、先生にはバレないように、ね。

 ●●のみぎうでをにして、えんぴつが持てないようにして、計算がエラソーにできなくなっちゃうのもいいかも!

 これはアイツがエラソーにしてきたばつだよ。

 みんなでアイツをこわしたら、きっといい子になるよね!


 あしたから、たのしみだなー。

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