第23話 説明すれば長くなる…じゃあいいや

「ふ~ん?」

ビキニから大きくはみ出していた紳士が、すっかり委縮した吸血鬼マック、立ちふさがるトマを見て妙にノスタルジックな気分になっていた。

先ほど、うっとしいハエを払うようにあしらった紳士が興味を示さない人間風情だった弱い騎士トマ。

再び目の前で一丁前に剣など携え自身の前に立っている…いや、それだけでも驚きなのだが、そのトマに対し、なぜか懐かしいような感覚を感じている自身に戸惑っているのだ。


そしてトマ…紳士に怯え半狂乱で逃げ惑うクイの前に立ちふさがったはいいが、先ほど瞬殺された相手を目の前に怯えるでも気負うでもなし、剣を構えることもせずに立ち尽くしていた。

(なんだろう…この感じ…)


マックとトマ、しばし互いを見定めること数分。

ザンッ‼………ボトンッ…

「………?」

マックの視界からトマが消えた。

「縮んだ紳士は斬りにくいから首を斬ったった」

「いい判断だったなココ 俺も紳士を斬るより首の方がいい」

そ~っとマックの背後に回り込んだココ、横なぎ一閃でマックの首を斬り飛ばしたのだ。

「これはこれはお嬢さん…アテクシの首を斬り飛ばすとは…なんたるハレンチ‼」

トマの背後からヒョコッと顔を出したクイ。

「ヒンニ・ユウ・ブライ・ラズ・トカ・ソンナワ・ケ・ネーダーロー‼」

クイの指先から業火が放たれ、残された棒立ちのマックの身体を消し炭に変えた。

ニターッと笑うクイ。

「アテクシのボディ…ボデイがーっ‼ なんとことしやがんだ、乳なし‼」

首だけのマックがクイに向かって怒鳴る。

ゴリッ‼

転がった首を足で踏みつけるクイ。

「散々、やってくれたわね~」

マックの耳の穴にひとさし指をピトッと当てたクイ。

「ヒンニ・ユウ・ブライ・ラズ・トカ・ソンナワ・ケ・ネーダーロー‼」

「あんぎゃぁぁぁぁー‼」

断末魔のお手本のような叫び声を残し吸血鬼マック満月の夜に消し飛んだ。

「終わったわ…」

クイが満月を眺め呟く。

「あっイヌだ」

ココは木の陰から様子を伺っていた狼男ダックスに気づき、スイッと軽い足取りで距離を詰めた。

「せーの‼」

ザンッ…

「ギャンッ‼」

狼男ダックス上半身と下半身を綺麗に分離させられてしばし悶えた後に絶命した。

「腹も膨れたし…寝るか」

「そだネ」

ココと魔剣ダレヤネン焚火の前でゴロンと横になる。

「アタシも寝よ…」

クイも毛布に包まった。


満月の夜。

残されたトマが原っぱで泣いていた。

「俺は…俺は何のために死んで…蘇ったんだーーー‼」


翌朝…。

「トマの顔から火が出たーーー‼」

それは珍しく早起きしたココの第一声で始まった。

寝袋で寝ていたトマが朝日が差し込むと共にジリジリ…ボワッ‼と発火したのだ。

慌てて水を掛けるココ。

事態の把握には数分を要したのである。

木の陰で顔まで覆った寝袋に包まれたまま転がされたトマにクイが尋ねる。

「なんで吸血鬼なんかになったの? いつの間に?」

クイの質問攻めに寝袋の中からモゴモゴと答えるトマ。

「それが…なんか顔がヒリヒリするな~と思ったら火を噴くなんて…」

「アッハッハ、もっかいやって、ウケる」

ココがジッパーを下げようとする。

「やめとけ…洒落にならん」


ヴァンパイア化したトマの今後に幸あれ。

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