第18話 一度ならず、二度までも…

 ココの闘士に火が付き、クイの表情が凍り付き、ダレヤネンの気持ちが沈んでいた頃、騎士団長トマ、川で洗い物をしていた。

「カレーを洗うのは大変ですねん」

 タワシを握る手に力が籠る。

 トマの人並の聴覚がココの叫びを捉えた‼

「ココ殿‼ 鍋を洗ったら駆け付けますよって‼」

 鍋を優先したトマであった。


 ………

「ダ~ックス‼ 替えのビキニを用意しなさい‼ 紳士たるものアッウトドッアで紳士を晒すことなどあってはなりません‼」

「かしこまりまして伯爵さま~」

 狼男の名は『ダックス』であるらしい。

 どうりで足が短い。

 毛深い懐からスチャツと小さな小さな蛍光イエローのビキニパンツを取り出し伯爵に恭しく手渡す狼男ダックス。

「あー‼ ダ~ックス…晒すべき…アテクシの紳士がありませ~ん‼」

 ヌラッチョ伯爵の目に涙が溢れる。

「あぁぁ…おいたわしや…伯爵さま~」

「アッ…アテクシの紳士は何処へ?」

「伯爵さま~…アソコはアソコでございます」

 ダックスが焚火で燃える紳士を指さす。

「あぁ…あっ…あぁぁ…燃えている…アテクシの紳士が…燃えているー‼」

 ミチッと肉を鳴らして自らの身体を満月に晒すヌラッチョ伯爵。

「香ばしい香りのお嬢さん、その剣…ただの剣ではありませんね~?」

「当たり前じゃない‼ こんな妖しい形の剣、武器屋に売ってるわけないしゃない‼」

 クイが思わず怒鳴る。

「妖艶とでも言ってくれ…せめて」

「魔剣ソウルイーターを操る美少女剣士ココ推参‼」

 ココがビシッとポーズを決める。

「ソウル・イ~タ~? どうりで…なかなか再生しないわけですね~紳士が~」

 血走った目のヴァンパイアあいてにクイがビシッと言い放つ。

「二度と再生しなくてよし‼」

 クイの期待と裏腹にヌラッチョ伯爵の紳士はムクムクと再生していく。

「やっぱり変態だー‼」

満月むわんげっつの夜はムキムキ、ムクムク何度でも大きくなりますよ~‼」

「うわぁああー‼ もう嫌だー‼ 謎の美形剣士と戦って、良い感じになって、最後は…最後はー、あんなことや、こんなことしたいー‼」

 ココ、半狂乱で魔剣ダレヤネンを振り回す。

「ちょっと…イヤ危ないって…うわっ‼」

 さっきより心なしか大きく再生した伯爵の紳士を再びスパッと斬り落とすココ。

「もう…テンション下がるわ~」

 ボヤくダレヤネン。

「あっ…あっぁぁ…また斬られたー‼ 私の紳士を、紳士ばかりをイジメるなー‼クソッ…クソッ…」

 ハァーッ…ハァーッと荒い息を整えるヌラッチョ伯爵。

「許しませんよ‼ こんがり香ばしい娘…あんなこと、こんなこと妄想するイケない娘…おしおきです‼ その前にダ~ックス‼ 替えのビキニを」

 コワンッ……

 間の抜けた音が狼男の足元で鳴った。

「お待たせしましてん‼」

 トマが投げた鍋の音であった。

(剣士が2人…イケる‼)

 クイが、すかさず詠唱へ入る。

「サ~バ・サ~バ・ケイノ・オ・ンナ・モ~テ・ソー・デ・ソ・レホド・モーテ・ナイ‼」

 焚火の火が杖の先端に集まり火球となり狼男ダックスへ放たれる。

 ボフンッ‼

「ズ熱っちゃー‼」

 狼男ダックス、胸で弾けた火球が全身の毛が瞬時に焼き尽くされた。

「ダーックス‼ 紳士がアウトドッアお外でフルフロンタル丸裸とは恥をしりなさい‼」

 ヌラッチョ伯爵、地肌が露出した狼男ダックスを怒鳴る。

「変態が2人になったー‼」


 騒ぐココではあるが、自分より香ばしい香りを放つ丸裸の犬系に優越感を覚えていた。

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