第31話 王様に謁見


 ミレイの屋敷から帰って、俺は一息つく。まったく、生きた心地がしないぜ。

 美女にこんだけいいよられているのに、俺は破滅フラグが怖くって、全然うれしくない。

 ひと段落ついたのもつかの間、今度はクレアから呼び出しを受けた。

 なんか、魔王討伐に関して、いろいろ進めておくとかなんだとかって言ってたっけ。

 すると、クレアはとんでもないことを言い出した。


「エルド様、これからエルド様には、国王に謁見をしてもらいますわ」

「は……? こ、こここ国王に謁見……!?」


 まさか、俺が国王に謁見だなんて。娘をたぶらかした罪で処刑されたりするのだろうか。

 それか、これって御父様に会ってください的なアレなのだろうか?

 どっちにしろ、嫌な予感しかしないのだが……。


「エルド様がレベル9999であるという話を、父にしたところ、ぜひ会いたいとのことで。魔王討伐についてのお願いなんかもしたいそうです。それと、私を助けてくださったお礼も。ぜひ会ってくれませんか?」

「も、もちろんいいよ……」


 俺は震えた声で返事した。まあ、王からの謁見なんか、断れるはずもない。



 ◆



 俺はクレアに連れられて、王城へやってきた。

 王様はゴリゴリのマッチョ系で、いかついオッサンだった。

 王も自分で鍛えている設定だったな、確か。

 王は俺のことを一目見ると、大歓迎してくれた。


「おお! 君が娘の友達のエルドくんか! 娘を助けてくれたそうだな。それについて心から礼をいう。あとで褒美もとらせよう。とりあえず楽にしてくれ」


 意外とフランクな感じなんだな。


「娘が君のレベル9999というのを疑って、決闘までさせたそうじゃないか。その節は、ほんとうにすまなかったな。私からもお詫びしよう。娘が粗相を働いた。迷惑をかけてすまなかった」

「はぁ、それはどうも」


 王はそういい、深々と頭を下げた。

 すると、臣下たちがざわつき始めた。


「みろよ……あの頑固な王が奴隷商人なんかに頭を下げたぞ……」

「あいつがレベル9999? 本当なのか……?」

「でも王が頭を下げるくらいだしな……」


 まあたしかに、王ともあろう人がこんなふうに頭を下げることがあるなんてな。ちょっと恐縮してしまう。

 臣下からしたら、俺なんかめちゃくちゃ怪しいんだろうな。姫様が学校で知り合って連れてきたどこの馬の骨とも知れぬ奴隷商人なんか。

 王は話をつづけた。


「すまない。うちの臣下たちの中にも、君のレベルを疑うものは多くてな。まあ、レベル9999なんて人類前人未到。きいたことのないはなしだ。疑うのも無理はない話だと理解してほしい。そこでだ。ぜひ、この場で君の力を見せてくれないか?」

「はい……?」


 これはまた……おかしなことになってまいりました。


「いやな、ぜひ私も君の力を見たいのだ。君の力を見れば、臣下たちも納得するだろう。騎士団長、こちらへ参れ」

「はい」


 王に呼ばれて、騎士団長の男が俺の前に現れる。その顔は、どこか見覚えがあった。

 たしかこいつは、ゼルオルン・シューマン。ゲームにも出てきたキャラだ。

 主人公側の師匠みたいな扱いの人物で、ルート分岐によってはパーティメンバーにもできたはず。

 たしかレベルはこの時点では600くらいか。


「エルドくんぜひこの場で、このゼルオルンと対決してみてくれ。それで、君のレベルを証明してくれ」

「わ、わかりました……」


 王の頼みなんか、断れるわけがない。俺は破滅だけはしたくないからな。

 ま、適当にやるか。

 俺は剣を渡され、ゼルオルンと対峙する。


「それでは、いくぞ!」

「はい!」


 しかし、ここは王の御前。反撃してもいいのだろうか?

 もし王に怪我でもさせてしまったらシャレにならん。ここはなんとかうまく切り抜けよう。

 ゼルオルンは体に力を入れ、特技を繰り出す。


「喰らえ! 神龍式剣術――弐ノ型・羅刹心象!」


 俺はそれを、反撃するでもなく、ただ受け止める。

 なんだ? 大仰な名前の割に、痛くも痒くもない。


「っく……この一撃をただの剣先だけで受け止めるとは……恐れ入った。たしかにエルド殿がレベル9999というのは、間違いないようだ」


 なんか知らんが、認めてもらえたみたいだ。

 周りで疑いの目を向けていた臣下たちも、ざわざわと俺を認める言葉をつぶやきだす。


「なんだあいつやべぇ……」

「レベル9999てマジだったのかよ……」

「ゼルオルン様の攻撃が……」

 

 すると王が拍手をして大喜びしだした。


「ふわっはっはっは! 見事だ! エルドくん、君は素晴らしい! これほどまでの強さとは! ゼルオルンの今の一撃を涼しい顔して食い止めたものなど、今までにみたことないぞ!」

「それは、どうも」


 王は興味深そうに、身を乗り出して俺に尋ねてくる。


「いったいどうやって、それほどまでの強さを身に着けたのだ?」

「どうやってと言われましても……俺はただ(破滅フラグを回避したくて)回復魔法を鍛えてただけです」

「奴隷商人が回復魔法とは珍しい。よほど才能があったのだろうな。素晴らしい――。そこでだ、君の強さを見込んで、ぜひ頼みたいことがあるのだ」


 来た。あれか、魔王討伐してくれとかってんだろう。わかってるわかってる。

 もうこうなりゃ、仕方ないから魔王でもなんでも討伐してやるよ。

 アルトが覚醒しなかった以上、誰かが魔王討伐しないと、人類滅びるからな。

 人類が滅びたら、破滅フラグどころじゃなくなる。

 アルトをモブにしてしまった責任をとって、俺が討伐しますよ。


 

 だが、続く王の言葉は違っていた――。


 


「――ぜひ、娘のクレアと結婚してくれ」


「はい…………?」


 あ、これ詰んだわ。

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