第29話 スクールデイズ


 クレアとミレイから解放されて、俺はようやく屋敷に戻る。


「はぁ……なんか大変な一日だったな……」


 一日の疲れが、どっと押し寄せてくる。

 まさか俺が光の勇者としてクレアから指名されるとは……。

 この先、俺はどうなるんだろうか。

 クレアはいろいろと進めておくとか言ってたけど……。


 でもまあ、これはこれでいいのだろうか。

 とりあえず、アルトに破滅させられることはなさそうだ。

 このまま光の勇者としてクレアに恩を売っておけば、クレアに断罪されるようなこともあるまい。

 色々考えながら、俺はベッドに沈み込む。


 すると、俺の横にアーデがやってきて座った。


「ご主人様、今日はお疲れ様でした。その……マッサージ、させていただきますね?」

「ああ、うん? 頼む」


 なんだか今日のアーデはやけに積極的だ。

 奴隷購入を任せたりして、いろいろと最近会えてなかったからかな。

 ちなみに今はアーデの代わりの奴隷に業務を委託している。

 アーデは俺の専属奴隷として、学園についてきてもらわなきゃだからな。


「ご主人様。あのお姫様たちに鼻の下のばしちゃって……私、なんだか嫉妬してしまいます」


 アーデは俺をマッサージしながら、口をとがらせてそう言った。

 アーデがこんなふうに自分の意見をいうのは、珍しい。


「いや俺は別に……。そういうつもりはないんだけどな……」

「本当ですか? 私、ご主人様がとられてしまうような気がして……」

「アーデ……」


 アーデは奴隷でありながら、姫様に嫉妬しているのか。

 だが、俺には本当に姫様たちとどうこうしようという気はないんだがな。


 だって、そんなの怖いじゃないか。

 貴族の令嬢であるミレイや姫様であるクレアと、そういう関係にでもなってみろ。絶対にめんどくさいことになる。

 痴情のもつれというやつだ。

 クレアやミレイと肉体関係を持って、それで関係がこじれでもしたらどうする!

 せっかく破滅フラグ回避に向かっているのに、女性関係で破滅したら社会的に死ぬ。


 まあたしかに、俺はレベル9999だ。女に刺されて死ぬことは、肉体的にはない。

 だけど、社会的に殺される可能性は大いにある。相手はいいとこのお嬢さんだ。そして俺はしがない奴隷商人のあととりでしかない。向こうの方が立場は上だ。

 だから、俺は最初から心に決めていた。

 あのヒロインたちから向けられたいかなる好意にも、応じるつもりはないと……!


「大丈夫だよアーデ。俺はどこにもいかない。決して、他の女にとられたりはしないさ(だって怖いもの)」

「ご主人様……それは私だけのご主人様でいてくださるということでしょうか……?」

「ん? ああ、うん。まあそうだな。俺が今のところ関係を持つのはアーデだけだ」

「ご主人様……♡ うれしいです。奴隷である身の私を、そこまで……」


 だって、アーデなら裏切らないもの。それだけアーデの忠誠心は知っているし、俺もアーデを信用している。

 それに幸いアーデは男としても俺を好いてくれているようだ。だから、俺もそれに応えようと思う。

 アーデに媚びておけば、社会的に死ぬ心配はない。だってアーデは奴隷だもの。

 俺も一応男の子だから、性欲はある。もちろん、クレアやミレイとだって、できるならそういうことがしたい。

 

 だが、俺は知っているのだ。こういうゲームの主人公で、調子にのって何又もして最後に刺された奴を。

 そんなのは最低だ。破滅フラグ回避の観点からいっても、俺はアーデ一筋でいくべきだろう。

 アーデはこんなに俺を愛してくれているのだ。リスクをとって他の女を手に入れなくても、俺は今のままで十分だ。


「ご主人様……わがままをいいですか? 奴隷の身でこんなこと、言うのは間違っているのはわかってます。ですがどうしても……ご主人様。今宵はご主人様が恋しゅうございます」

「わがままくらい言ってくれていいんだぞアーデ。アーデはいつも頑張ってくれているからな。俺も、今夜はアーデが欲しい……」

「エルド様……」


 俺はそのまま、アーデをベッドに押し倒した。

 とりあえず破滅フラグ回避のめどがたったから、今宵は盛大に祝おうじゃないか。

 俺はアーデにありったけの愛を注いだ。

 これでアーデはいざというとき、また助けてくれるだろう。

 誰よりも信用できる、俺の忠実な奴隷だ。



 ◆



 俺はミレイとクレアには、絶対に手を出さないと誓った。

 あのハーレムものの殺される主人公に誓って、そんなことはしない。

 ハーレムは破滅フラグへの一本道だ。


 なのだが――。

 翌日、ミレイから俺は呼び出しを受ける。

 まさか……校舎裏にきてくれって、それ告白……?

 そう思って、俺は校舎裏へ。


 すると、ミレイは驚きの言葉を口にした――。


「わ、私を……エルドの奴隷にしてくらさい……!」


「は…………?」

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