第48話:アレな約束

 石の街。それが帝都の第一印象だった。ミレスやザイアム、学園のあった王都とも違う。石造りの四角く高く、無骨で高い建物が多い。近代化していけば、高層建築が増えるんだろうけど、近代的な印象は思ったほど受けない。


「結構地域で建物が違うもんだな」

「ですねー……」

「二人とも、帝都見物してる時間はないわよ。ほら、こっち。せっかく城の近くに転移したんだから、急ぐわよ」


 クリス、オレ達を急かしつつ前を行く。

 戦争中とはいえ、戦火の及んでいない帝都はそれなりに賑やかだ。大通りには人がそれなりにいる。たまに目に入る市場の価格を見ると、物価が高いのが戦時を感じさせた。


「ここよ」

「ほぉ……」

「はぁ……」


 皇帝の居城にはすぐに到着した。低めの城に、一本だけ塔が突き出たような変わった形の建物だ。立派だが、豪奢ではなく、堅実。そんな印象を受ける。直接見ると、印象が違うもんだ。


「これはクリス様、いかがされました?」

「皇帝陛下にご報告したいことがあるわ。通して。同行の二人は資料係よ」

「承知致しました」


 さすがはクリス、顔パスで入れた。

 しかし、気になることがあった。

 人の気配が少なく、石で冷たい印象の廊下を歩きながら小声で二人に言う。


「実はオレ、<危険察知>というスキルがあって、身の危険を知ることができるんだけど」

「それがどうかしたの?」

「城に入った瞬間から、物凄く反応してる」

「えぇ……。でも、周りの様子は普通のお城ですよ?」


 フォミナのいうとおり、オレにも異常は見えない。でも、戦闘前みたいなチリチリした感覚がずっとある。


「……警備の兵士が少ない気がするわね。どうする? 予定変更?」

「いや、行こう」


 これはクリスの洗脳がとけてることも見抜かれてる可能性が高いな。とはいえ、続行だ。こうなったら強行突破した上でラスボスを撃破してやる。レベルは上げてるんだから、力押しでいけるはず。


 警戒して歩いたオレ達だが、あっさりと謁見の間に到着した。

 クリスが不気味に思う中、扉が開くと、そこに答えがあった。


 扉の向こうに待っていたのは、完全武装した兵士達と、玉座に座る女性が一人。


「ようこそ、クリスとその仲間よ。貴様が余の魔法を解いたことは把握済みだ。そして、怪しい力を持つ二人を伴っていることもな」


 すらっとした長身に黒髪。全身に金銀の刺繍が入った衣装を身につけた女性が冷たいがよく通る声で、俺達にそう語りかけてくる。


 クラム様の宮殿よりも広い謁見の間には兵士達が五〇人はいた。全員が妙に飾りの多い武器防具を身につけている。そしてついでに抜刀している。完全に臨戦態勢である。


「死……」

「レストタイム」


 皇帝がなにか言いかけていたが、オレの方が早かった。

 杖を出さずに使った範囲睡眠魔法はばっちり効果を発揮した。

 全員が寝た。皇帝も含めて。


「よし!」

「いつ見ても圧倒的ですね、マイス君のそれ」

「……滅茶苦茶だな」


 静かになった謁見の間を見渡して驚くクリス。全て<貫通>のおかげだ。一番最初に取って良かった。


「クリス、多分皇帝はすぐ目覚める。そうしたら部屋から出た方がいい」

「なんだと?」


 同時、皇帝が目を開き、こちらを見た。


「……貴様、何者だ? ここに集めたのは選りすぐりの強化兵だというのに」

「答える必要は無い。古代種。お前の野望はここで終わりだ。色々と迷惑だからな」

 

 その言葉に、目を見開き、あからさまに古代種は驚いた。

 なんかオレ、主人公みたいなこと言ったな。まさかこんな機会があるとは。もっと捻った台詞を考えておくべきだったか?


「クリス、戦闘になる。撤退しろ……」

「いや、なんかおかしいわよ」


 皇帝は立ち上がったが、戦わなかった。

 流れるような動作で玉座の手元に出てきたスイッチを押し、轟音と共に背後の壁に扉が開いた。

 あれ、古代機構への入り口だ。


 呆然とオレ達が見守る中、古代種は一目散に逃げ出した。古代機構に向かって。

 判断が早い。

 だが、好都合だ。


「クリス、予定通りだ。終わったら流血の宮殿に行く」

「わかった。帝国人としてどうかと思うけど、武運を祈るわ」


 そういってクリスはテレポートで消えた。下手をすれば、オレ達よりも彼女の方が忙しい。どうか頑張って欲しい。


 後にはオレとフォミナだけが残る。いや、眠っている強化兵とやらが沢山いるけど。


「フォミナ……」

「何度も言いましたが、私は最後までついていきますよ。それに、今回は役に立てます」

「感謝してるよ。いつも。なにか御礼をしないとな」

「じゃ、じゃあ、帰ったらデ、デートとか連れてってください」

「…………」

 

 彼女的には結構勇気のいる発言だと思ったし、オレとしても望むところだ。

 だが、どう答えるか悩ましい。

 これ、死亡フラグみたいだな、と脳裏をよぎったのである。

 死亡フラグ破りが流行ったのって、二千十年代だっけか?


「マイス君? 私と出かけるのは嫌ですか?」


 不安げに聞かれて、オレは慌てて言葉を作った。


「いえ、滅相もない。それどころか、これが終わったら二人で世界中を旅したいと思っています」

「良かった。楽しみです」

「無事に終わったら、相談しよう」

「はい、宜しくお願いしますね」


 どう転んでも死亡フラグみたいな約束をしつつ、オレ達は皇帝を追いかけた。

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