第40話:方針と捜索
屋敷の別邸に入ったとはいえ、オレの仕事はそう大きく変わるわけじゃない。基本は領主からの輸送の依頼を受けてのテレポートとなる。
そこで問題になるのがフォミナとエリアだ。さすがに慣れてきたので、輸送はオレ一人でもできる。テレポートは一瞬なので、時間もそうかからない。二人には何か別のことをして貰ったほうがいいのではないだろうか。
そう思って、とりあえず打ち合わせすることにした。
「たしかに、三人揃って輸送する意味ってないわよね。マイス一人で魔法使ってくれればいいんだし」
「最初は確認のためにエリアにも同行して貰ってたけど、もう色んなところに顔を覚えて貰えたしな。多分、一人でこなせると思うんだ」
「そうすると、私達は別の仕事を?」
「別の仕事ねぇ……」
腕組みして考え込むエリア。そう言われても、というところだろう。彼女にとっては輸送が与えられた仕事なわけだし。しかし、このままだとフォミナが浮いてしまい、あまりにも勿体ない。
ちょうどいいことに、昨日フォミナと話し合ってる途中、新しい情報が入っていた。
「それなんだけど、いくつか案がある」
「話して頂戴。例のあなたの予知夢が絡んでるんでしょ?」
理解が早くて助かる。フォミナの方を見ると、かすかに頷いた。
「一つは、エリアとフォミナにメタポー狩りをして欲しいんだ。手っ取り早く強くなっておいて欲しい」
「は? メタポー? そんなの簡単に見つからないし狩れないんじゃないの?」
「それが何とかなるんです。倒す方も、マイス君の話だと、どうにかなるとか」
今のフォミナの職業であるアークは、非常に強力だ。支援魔法のアークウェポンを使うと、ダメージが大幅上昇する上に特殊な属性になってメタポーの防御を貫通する。
オレがいるなら、使う必要はなかったけど、二人には有用な戦法だ。
先制攻撃の確率を上げるアイテムと併用することで、それなりに効率よくメタポー狩りを行えるはず。
「やり方はフォミナに伝えてあるんで、ちょっと試して欲しい。ことが起きた時、強い仲間がいる方がいいんだ」
「わかった。やってみましょ」
驚くほど素直にエリアが同意した。フォミナも目を見開いている。
その様子を見て、赤髪をかき上げながら、エリアが言う。
「だって、あなた達二人とも三次職になってるんでしょ? だったら信じてみようって気にもなるわよ。自分が強ければ、色々捗るのもたしかだしね」
「そういって貰えると助かるよ」
本音をいうと、エリアはレベルアップで三次職にするよりもイベントを経由したい。そうでないと、持っている宝剣が神剣へとパワーアップしないのだ。
とはいえ戦力は欲しい。たしか、先に三次職になってもイベント自体は実行可能だから、ここは戦力強化を優先とした。
「それともう一つ、ザイアムの町に帝国の魔族が入り込んでいるらしい」
「……それ、本当?」
「恐らく、申し訳ないけど確証はないんだ」
こちらはゲームの攻略情報ではなく、クラム様からもたらされた情報だ。昨日、フォミナと話ながら例の日記に色々書いていたら、突如向こうから連絡が来た。
内容は短く『ザイアムに魔族の気配がある。気を付けろ』のみ。どうやってか知らないが、それだけは検知できたらしい。さすがはチートキャラだ。
「ミレスの町のこともあるから、お父様もそれくらい承知して調べてると思うけれど。もう少し手がかりはないの? 動きようがないわ」
「町の防衛に関わる場所に怪しい奴がいないかとか、調べるしかないんじゃないか? オレも時間があれば気になるところを調べてみる」
「……わかった。難しいけど候補を絞ってみるわ。心当たりを当たってみる」
「よろしくお願いします。私もこの前のお仕事で有力者に顔が売れましたから、少しはお役に立てるかと」
「じゃ、私と一緒に情報収集もしましょうか」
良かった。フォミナの苦労が無駄にならなそうだ。協力的なエリアだけど、町での立場はまだそれほど強くない。二人揃えばなにか掴めるかもしれない。
しかし、侵入してる魔族か、心当たりがないな。また、ゲームにない展開だ。攻略知識も万能じゃ無いとわかっているけど、ちょっと不安だな。
「思ったけど、マイスってお人好しよね」
打ち合わせ後、今日の予定についての話が始まり、書類を確認していたら、エリアが急にそんなことを言いだした。
怪訝な顔をしたオレに、エリアは話を続ける。
「だって貴方、これからこの国が大変なことになるのをわかってるのに、どうにかしようとしてるじゃない。普通に考えれば、適当に強くなって稼いだら、一人でどこか遠くに逃げるのが一番安全だと思うわよ」
「たしかにな……」
その手段を考えなかったといえば嘘になる。実際、最初は一人で色々やって駄目そうなら逃げるつもりだった時期もあった。
「考えちゃったんだよ。逃げた先でのんびり暮らしててさ。そこに王国が戦争で大変なことになって、知ってる人も沢山死にましたなんて話を聞いたときのことを……想像するとちょっときつくてさ」
それは、自分には耐えられそうになかった。攻略知識があって、悲劇を回避できるだけの実力と手段がある場合、あえて見捨てたという事実は思ったよりも自分には重いだろう。
多分、そう思うようになったのは、メイクベのダンジョンで、フォミナを助ける選択をした時だ。
「それで命がけで動くんだから、あんたはやっぱりお人好しよ」
「いや、いよいよヤバくなったらテレポートで逃げるが」
「逃げるのかい!」
もちろん逃げる。できるだけそうならないようにはしたいけど。
「でもマイス君、逃げないように色々やるんですよね。そのために、ここにいるんですから」
横からフォミナが、全てわかってますみたいな顔をして言ってきた。たまにちょっと恐いわ、この子。三次職になってから、雰囲気変わった?
「一応、そのつもりだけど」
そう応えると、エリアが満足した様子で大きく頷いた。
「じゃあ、頑張るとしましょうか。マイスの予知夢と私に振られた仕事、どっちを見てもすぐに戦争は始まらない。少しだけど、時間がありそうなのがラッキーね」
エリアのいうとおり、この時間の間になにができるかが大きそうだ。
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