第37話:イベント潰し
ザイアムの町の地下に流れる地下上下水道。オレとエリアはその上水道の方へ入っていた。 周辺の川から引いた水が流れる石造りの地下通路は広くて意外と新しい。この町の発展が最近だからだろう。作りもシンプルで、飾りがない。
「なるほど、予知夢ねぇ。ふーん」
「まあ、そういう反応だよな。でも、想像以上に夢の通りになってるんだよ」
「別に疑ったわけじゃないのよ。ただ、こういう時代だとほんとにそういうことあるんだな、って思っただけよ」
フォミナの時といい、予知夢の三文字だけで話が通るのは助かるな。神様がいて、なんなら話を聞くことができる世界なら、そんなもんか。
地下水路の中は静かで安全だ。魔法の明かりに照らされた景色はゆったり流れる綺麗な水と、白い石の壁と地面のみ。モンスターどころか、鼠すらいない。
黙って歩くのもなんなので、世間話をしようとしたら、オレのこれまでのことを聞かれた。 こちらとしても、事情を話すのは好都合なので、フォミナの時と同じように都合の良いように話を伝えたというわけだ。
「なんか、あっさり信じて貰えて驚きなんだが」
「だってあなた、三次職になれたんでしょ? 大変よね。三次職になれるってことは、強烈な運命が待ってるってことだもの」
「そういうもんなのか?」
「そういうものよ。二神様がわざわざ特別な力を与えるんだもの、並大抵じゃないことが起きるのかも」
冒険者ギルドに話を通した時点で、彼女はオレが三次職になってることを知っていた。最初は驚いて疑ったそうだが、今の話を聞いて納得したようだった。
強烈な運命か……たしかにそうかもしれない。レベルが足りたから転職しただけなんだけどな。
「今、帝国がこの辺で何かしてるのか?」
事情を話した以上、遠慮することはない。オレは今もっとも知りたい情報を聞いた。
「きな臭い、ってお父様達は言ってるわ。実際、この仕事も帝国への対策だしね」
「町からの避難路か」
「そうよ。もしかして、それも予知夢?」
「まあな」
この地下水路から町を脱出する通路は、エリアの運命を左右する場所だ。帝国に負けて市街戦になった際、ここを通って脱出できるかが彼女の生死に直結する。それ以外にも、多くの避難民が使い、多くの犠牲が出る場所でもある。
「ここだけの話、ミレスの町で帝国の魔族が出たらしいのよ。それもあって、慌てて戦争の準備中。他のことで忙しいから、私に簡単な点検作業が回ってきてるってわけ」
「これだって大事な仕事だろ。備えは重要だ」
「それはわかってるんだけどね。どうせなら、儀式魔法の準備とか手伝いたかったなー」
朗らかに笑いながら、エリアは水路を迷い無く進む。事前の準備をするタイプだからか、しっかり地図が頭に入ってるようだ。
「ここの扉ね。鍵、開けるわ」
水路の横に唐突に現れた鉄扉の前で止まると、エリアはポケットから鍵を取り出して開けた。
「よし、鍵は壊れてないわね。後はここから出口までいったら完了よ」
「仕事としては楽で助かるな」
「治安維持を頑張ってるのよ。だから、変なのが地下に住み着くこともない。ちょっと狭いわね。脱出用なんて、そんなものかしら?」
これまで二人で並んで歩けるくらいの広さがあった水路と違い、脱出路は人一人がやっとで天井も低かった。ゆるやかに登っている道は、町から少し離れた低い丘の森の中に出るはずだ。
「オレが先を歩くよ。一本道みたいだし、その、スカートが」
「……お願いするわ」
エリアのスカートはとても短い。ちょっとした階段でも後ろを歩けば中が見えてしまいそうだ。後ろを歩いて怒られる理不尽は事前に回避させてもらう。
二十分ほどだろうか、狭い階段を登り続けると、頑丈な鉄の扉が天井に現れた。
「はい、鍵。扉開けるの、二人でやりましょう」
「わかった。よっと」
鉄の扉を上に上げなきゃいけないので重い。<超越者>でレベル九九超えのステータスなら一人でもいけそうだけど、ここは素直に協力して扉を開けた。
時間にして二時間くらいだろうか。久しぶりの太陽の光が目を差してくる。少しずつ目が慣れると、木々に囲まれた落ちついた自然の景色が視界に入ってきた。
「静かな場所ね。戦争の話がなければ、ピクニックにでも来たいくらい」
「本当にそうだな」
木々のふれ合う音、柔らかく差し込む陽光。ここが戦乱で地獄みたいな場所になるなんて嘘みたいだった。
「さて、仕事はおしまい。せっかくだから、テレポートでザイアムまで送ってくれると……」
「いや、ここから次の町までの経路を確認した方が良い」
「それ、予知夢関係?」
「そんなところだ」
今ここは落ちついたものだが、戦争が始まって人々が脱出するときは事情が変わる。周囲のモンスターが人間に気づいて寄って来るのだ。
エリアはそこで避難民を守るため奮闘し、最悪死に至る。
事前にその可能性を潰せるなら、潰しておきたい。
幸い、エトランジェのスキル<危険察知>がすでに反応していた。
「あっちの方に、モンスターの気配がするんだ」
「完全に避難路上ね、いきましょう」
緊張した面持ちで宝剣サラマンドラを抜くと、エリアは慎重に歩き出した。
そこから歩いて五分。
オレ達はワイバーンの群れに遭遇していた。
「ス、スカーレット・ワイバーン!? なんでこんなのが町の近くにいるのよ!」
いたのは深紅のワイバーン上位種と、その部下みたいな黒いワイバーン。爪を持たない、ドラゴンと鳥の中間みたいな竜種は、オレ達を見るや雄叫びを上げて臨戦態勢だ
スカーレット・ワイバーンは結構強いモンスターだ。しかも、属性的にエリアと相性が悪い。
ゲームだと彼女への助けが間に合うかが鍵になっていたが、事前に脅威は排除させてもらう。
「エネルギー・ギロチンカッター」
「けぺっ」
オレが放った無数の光り輝く光輪が、次々にワイバーン達を切り裂いた。
「い、一撃……?」
「とりあえずは、よし、かな」
無属性の全体攻撃魔法。レベル九九オーバーの魔力なら、状態異常に頼らずとも、このくらいはできる。<貫通>のおかげで魔法防御を無視できるしな!
「三次職って、無茶苦茶強いのね……」
「これでも色々とやってるんだよ」
驚くエリアに、短く答える。レベルを限界以上にしたり、スキルで魔法防御を無視してなきゃこうはいかない。状態異常の貫通は切り札だから、今後もできるだけ隠す方針だ。
「すぐに戻るのはやめて、避難経路を確認した方がいいんじゃないか?」
「そうね。しっかり確認しましょう。頼りにさせてもらうわ」
結局その後、夕方までモンスターを退治したりして、経路の安全を確保した。
これで少しは、運命を覆す足しになればいいんだけど。
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