第28話:運命の町へ
色々と仕事が済んだので、すぐにでもミレスの町を出たい気分だったが、フォミナへの説明と相談が必要なので、オレ達はまだ『白い翼』亭に留まっていた。
場所はオレの部屋、滞在時間が短いので殆ど物の増えていない室内で話し合いが始まった。
「まず、帝国の戦争だけど、裏に魔族がいる。旧大聖堂で会ったのは多分、相当強い奴」
「……いきなり凄い情報が出たんですが。それも予知夢ですか?」
「……そうだ。オレが体験した知識だとそうなってる。それで、可能なら連中とは話し合いで停戦に持ち込みたい」
「無理なのでは? すでに他国と戦争してる上に、こちらで破壊工作までしてるんですよ」
「やっぱりそう思う?」
普通に考えれば無理だ。でも、オレは事の原因である魔王を知っている。奴は帝国皇帝の野心を利用して侵略戦争を開始、その上で魔族のための国を作ろうとしている。帝国内で手柄を得て、巨大な領地を得るというのがその第一段階だ。
魔王は魔族の立場を深く憂いている。それ故の行動なんだが、別の道を示すことが出来れば上手い落とし所が見つけられるはずだ。
でももう戦争モードに入ってるんだよな。あんまり自信がないな。
「敵の親玉に会ってどうにかするのが、オレが生き残る一番の近道なんだ。それに、上手くすれば戦争も終わるかもしれないし」
「承知しました。旧大聖堂のアレを見て、なにもしないわけにはいきません。でも、どうやって会うんですか?」
フォミナの疑問はもっともだ、一応オレなりに、そこに至る筋道を考えてみた。転生して以来、書き溜めたゲームの攻略メモは何度も書き直され、結構良い精度になっているのだ。
「まず、リコニア辺境伯領に向かおう。開戦するのはあそこだし、オレ達が強くなる手段がある」
「流血の宮殿では、三階まで行けませんでしたもんね。通帳の残高が増えるの、ちょっと楽しみだったのに」
残念です、と呟くフォミナ。ちょっと欲が出て来て良い感じだ。
「向かうのはザイアムの町だ。近くに強くなるのに適したダンジョンがある。そこで三次職になって、それから冒険者としての依頼をこなす」
「いまさら三次職になることの現実性についてはどうこう言いませんが、依頼をこなすのは冒険者としての知名度を上げるためですね?」
さすがはフォミナ、こちらの意図を良くくみ取ってくれる。
「今回のでわかったんだけど、ちょっと活躍したくらいじゃ、偉い人は情報をくれない。それなりの知名度と信頼が欲しい」
「信頼はすぐには難しいと思いますけど……。冒険者の場合は何年もかけて積み上げるものですし」
基本、フリーの職業である冒険者は信用が低い。フォミナの言うとおり、年単位で色んな依頼をこなして信用できる冒険者になるしかない。
だが、今回に限って言えば、裏技が使える。
「多分、冒険者として活躍すれば、何とかなる。リコニア辺境伯には娘がいて、オレ達の同級生だ」
「……そっか。エリアさん、実家に帰ってるんですね」
エリア・リコニア。赤髪に車の空気取り入れ口のような二〇〇〇年代独特の髪型を持つ、メインヒロインの一人だ。リコニア辺境伯の一人娘であり、帝国との開戦時には重要な役割を持つ。そして、下手をすると死ぬ。
「彼女の性格的に、同級生が活躍してると聞けば、色々協力してくれると思うんだ」
「詳しいですね、マイス君。仲良かったんですか?」
「……いや、全然。外から見た印象」
ゲーム内でマイスとエリアの会話はほぼゼロだ。その点でいうと、面識があったかも怪しい。
「フォミナ的にはどう思う?」
「……私も殆ど話したことないんですよね。ただ、印象としてはマイス君と同じです。同級生が活躍してると聞けば、声をかけにくるタイプですよ、彼女」
明るく快活、パッケージの真ん中に描かれるタイプのヒロイン。それがエリアだ。オレ達相手でも、それほど悪い対応はしてこないはず。
「ほんとは学生時代に仲が良かったなら話が早いんだけどな。多分、凄い情報が色々入ってくるぞ」
「コネ作りに必死になってる子を遠くに見てましたが、こういう時に役立つんですねぇ」
しみじみと、学園卒業の恩恵が少ないのを噛みしめる。冒険者ポーチだけじゃないだろうか、今のところ活躍してるのは。
「方針としては、そんなところかな。明日にでもリコニア辺境伯領に旅立ちたい」
色々挨拶とか準備もあるだろう。そう思って時間を設けたが、意外な返事が返ってきた。
「マイス君、今日にしましょう」
「早すぎないか?」
「多分、明日まであると姉さんが私達のところに突撃してきて面倒なことになります」
「よし、すぐに準備して適当に挨拶して旅立とう」
こうして、オレ達は慌ただしくミレスの町を後にした。
しかし、エリアか。オレちょっと苦手なんだよな。あの子。
エリア・リコニア。彼女は今となっては珍しい、暴力ヒロインなのだ。いや、良い子なんだけどね。
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