三つ子のシェアハウス⑥




夕方になり蓮夜と一緒に買い出しへ行く時間。 蓮人の告白のような言葉が頭を過り、同じ顔の蓮夜が隣にいると未だにドキドキしてしまう。

あくまで心が驚いただけ、そう納得させて気付かれないよう平静を装う。 その甲斐もあってか蓮夜はいつも通りだ。


「買うのはこれくらいでいいかな?」

「うん、十分だと思う」

「もし食材が足りなかったりしたらいつでも僕を呼んでね。 いくらでも愛菜ちゃんの荷物持ちになってあげるから」

「でも流石に重いから申し訳ないというか・・・」

「女の子なのに何を言っているのさ。 力仕事は男に任せちゃえばいいの」


そう言って重い袋は全て蓮夜が持ってくれる。 申し訳ないが本当に助かっていた。


―――本当に蓮夜くんは三人兄弟の中で一番の癒し。

―――一緒にいるだけで落ち着くんだよなぁ・・・。

―――蓮夜くんは口調も言葉遣いも柔らかくて本当に素敵なんだよね。


先程のこともありどうしても蓮人と比べてしまう。 もちろん蓮人が劣っているというわけではなく単純に好みの問題だ。 家へ着くと買ったものを冷蔵庫へ移し始めた。

その時蓮夜が突然尋ねてきて、ドキっとしてしまったのはまさに蓮夜のことを考えていたからだろう。


「・・・ねぇ、愛菜ちゃん」

「うん?」

「愛菜ちゃんが今朝僕にした話って憶えてる?」

「えっと、何を話したっけ・・・」

「『私の名前を聞いて思い当たることはない?』って聞いたよね?」

「あぁ! 確かにそんな話もしたかなぁ・・・」


―――あれは思い返すと恥ずかしい。

―――この三人兄弟の中に確実にいると思っていた私が恥ずかしい・・・ッ!


三人共心当たりがなさそうだった。 だからあまり触れてほしくない話題。 そう思っていたのだが、蓮夜から意外な言葉が飛び出した。


「そのことなんだけどさ。 実は僕、心当たりがあるんだ」

「・・・え?」

「愛菜ちゃんの名前に」


愛菜は胸が高鳴り蓮夜のことを見つめた。


「ッ・・・! 心当たりってどんな・・・!?」

「小学生の頃、愛菜ちゃんと同じ、苗字も名前も完全に同じの女の子がいた気がする」


その言葉にまたもや胸が高鳴った。


―――じゃあ、やっぱりレンちゃんって・・・!


「でも確信はないんだ」

「確信がなくてもおかしくないと思う! 私は小学校一年生の時の夏に引っ越しちゃったから」

「そうだったんだ。 一緒にいれたのはそんなに短い期間だったんだね」

「うん。 一緒にいたのはほんの三ヶ月。 だから憶えていなくてもおかしくない」


愛菜は蓮夜に近付いた。


「私が体育の授業で転んだ時に手を差し伸べてくれたのは蓮夜くんだったんだね」

「うん。 そうだよ」


思ってもみなかった出来事に笑みが零れる。


「よかったぁ・・・! あの時はごめんね、突然レンちゃんなんて呼んだりして」

「本当にびっくりしたよ。 そんなに僕たち親しかったっけ?」

「苗字が思い出せなくて、かといって下の名前をそのまま言うのは恥ずかしいからついあだ名を付けて呼んじゃった・・・」

「可愛い理由だね」


そこで愛菜は思い出す。


「そうだ! あの時貸してくれたハンカチを返すよ!」

「いいよ。 それは愛菜ちゃんが持っていて」

「でも・・・。 私はハンカチをいつでも返せるように肌身離さず持っていたのに」

「そうだったの? ずっと持っていてくれて嬉しい。 なら尚更愛菜ちゃんに持っていてもらいたいな」

「・・・いいの?」

「もちろん。 僕たちを繋いでくれた大切なものだから」

「ありがとう」


―――レンちゃんは蓮夜くんのことだった。

―――あの時の優しさは蓮夜くんと重なる。

―――やっぱり思っていた通り蓮夜くんだったんだ。

―――・・・蓮夜くんでよかったな。


愛菜は心の底からそう思った。 蓮夜は部屋へ戻り、再会できたという喜びを噛み締めながら買ってきたものを全てを移し終え冷蔵庫の中を見る。 その時にあることに気が付いた。


―――あ、プリンの材料を買うの忘れてた!!



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