三つ子のシェアハウス③




「おはよー。 蓮人も連れてきたぞー」


蓮夜が朝食をとっていると蓮司に連れられるように蓮人もやってきた。 蓮人は眠たそうに目を擦っている。


「休日の日くらいたくさん寝たいのに・・・」

「そしたら愛菜が作った朝食が冷めるだろうが」

「・・・」


何となく険悪な感じになりそうなのを悟り、愛菜はパンと手を叩く。


「みんな揃ったね。 熱いうちに食べちゃって」


二人が席に着いたのを見て、愛菜も腰を下ろした。 手を合わせ朝食を始める。 今回少し揉めそうではあったが、一ヶ月前はこんなものではなかった。


―――朝が苦手な蓮人くんは無理に早く起こされても文句をあまり言わなくなった。

―――出会った時は一番突っかかってきて対応するのが難しかったな。

―――一番変わったのは蓮人くんなのかもしれない。


愛菜は一緒に朝食を食べながら以前の蓮人のことを少し思い出す。 愛菜が食事係に決まり早速買い出しをしてきた時のことだ。



「本当にそんなにたくさんの量があるのに片付けるのは自分でやるの?」

「うん、どこに何があるかっていうのは把握しておきたいからね。 蓮夜くんありがとう、あとは部屋で休んで」

「分かった。 また何かあったら声をかけてね」


そう言って蓮夜が部屋へ戻るのを見届け袋を持ったのだが、調味料なども買い込んだため一袋でもかなり重かった。


「重ッ! まぁ調味料は毎回買わなくてもいいとして・・・。 でもみんながたくさん食べるなら足りるのかちょっと不安だな・・・」


そう思いながら冷蔵庫へ入れていく。


―――思ったんだけど入居者が増えたらその人の分まで私が作るとかないよね!?

―――三人分って言っていたし・・・。


部屋はまだいくつも余っていて、入居者が増える可能性はある。 ただ愛菜からしてみれば新しい人が来ても全然関係ないのだ。


「まぁ、考えていても仕方ない。 さっさとやっちゃいますか!」


ピカピカになったキッチンに物を仕舞っていき、それが終わると腕捲りをし料理を開始した。 そして一時間程経った頃、キッチンに蓮人が入ってきた。


「あ、蓮人くん! どう? 明日の入学式の準備はもう終わった?」

「何? アンタ、俺の母親のつもり?」

「いや、そういうんじゃないんだけど・・・」


ちょっとしたコミュニケーションのつもりだったが、冷たく言い返された。


―――蓮人くんが三人の中で一番下って聞くと妙に可愛く思えちゃったんだよね。

―――まぁ、同い年だけど。

―――だからツンツンされても可愛く見えてもう平気だったり・・・?


蓮人は冷蔵庫を開けて言った。


「何、この量」

「それ一応一週間分の食材。 今日はとりあえずカレーね」

「これだけ匂いが充満していれば分かる。 どうしてカレー?」

「一番最初に作るもの何にしようって考えて、あまりにも凝ったものだと引かれるかなぁと思って定番のカレーに・・・。 もしかして嫌いだった?」


その問いに少し間を空けて言う。


「・・・普通」

「普通、ね・・・。 もう作り終えそうだから普通でよかったかな」


蓮人はコップにお茶を入れ飲み終えると、ふと愛菜の手元が視界に入ったようだ。


「・・・それ、何作ってんの?」

「うん? プリンだよ。 私の大好物だからよく作るんだ」

「・・・」


視線を感じたため目を向けると蓮人はジッと愛菜の手元を見ていた。


「どうしたの?」

「・・・いや」

「安心して。 みんなの分まで多めに作るから」

「・・・本当?」

「本当だよ? え、もしかして蓮人くんプリン好き?」

「・・・」


その問いかけに分かりやすくそっぽを向いた。 何となくツンデレだと感じ嬉しくなる。


「好きなんだ! 夕食後にはまだ冷えていないからあれだけど、寝る前になら完成していると思うからたくさん食べてね!!」

「・・・まだ何も言っていないのに」


プリンを作る容器は実家から持ってきていた。 それ程愛菜もプリンが好きなためプリン好きの蓮人に好感を持ったのだ。



現在


―――まさかプリンをきっかけに距離がグッと近付くとは思わなかった。

―――しかも初日から。


少し尖っていた蓮人と仲よくなれて素直に嬉しかった。


「ご馳走様ー。 愛菜、美味かったぜ」

「うん。 そう言ってくれてありがとう」

「片付け、俺も手伝う」

「本当? ありがとね」


蓮人にそう言われ食器洗いを手伝ってもらった。 蓮司と蓮夜はリビングでテレビを見ていた。 隣に並び作業を進めていく中、愛菜は聞きたかったことを思い切って尋ねてみる。


「そう言えば蓮人くん。 私の名前を聞いて何か思わなかった?」

「は? 何、突然」

「いや、今は二人きりだし聞いておこうかなって・・・」

「新手のナンパ? もしかして俺のこと好きなの?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど・・・」


―――やっぱりまだこの反応か。

―――蓮人くんらしくてまぁいいけど。


それでも蓮人は愛菜を突き放すことまではしなかった。


―――でもこう返されたっていうことはレンちゃんは蓮人くんじゃないのかな?


もっとも三人の中に探している“レンちゃん”がいるとは限らないのだ。 それでも三人のうち二人が違うとなれば、少し寂しい気分を感じずにはいられない愛菜だった。



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