吉彦

吉彦は水玉模様が苦手だった。

集合体恐怖症、と呼ぶのだろうか?

花弁の落ちた後の蓮、蜂の巣、イチゴジャムは好きだがイチゴは苦手だ。


そういうわけだから、この水玉トレンドが苦痛で仕方ない。

早く廃れてほしいと願っているが、全くその気配は無くむしろエスカレートしている。


ある日、役所からの郵便物を見てぎょっとした。

封筒から中にある書類含めて、びっしりと水玉模様なのだ。

中身を確認するためには、水玉模様を正視せねばならない。

役所に事情を伝え、水玉模様以外の用紙で再送してほしいと伝えたが、取り合ってもらえなかった。


地獄のような日々にとどめを刺すがごとく、なんと会社の書類も水玉模様で統一されてしまった。


上司に掛け合い、事情を説明したが、吉彦一人のためにそこまでコストはかけられないので頑張って適応してくれとあしらわれた。


まともに仕事ができない日々が続き、吉彦は気付けば窓際へおいやられ、仕方がないので部屋のすみを掃除するようになった。


水玉模様さえ配慮してくれたら、普通に仕事ができるのに…

惨めだった。悔しさと悲しさが募り、次第に水玉模様で埋め尽くされた、自分を拒絶する社会への憎しみが湧いた。


今や国中の人々が水玉模様を愛し、それは崇拝と呼んでも良い程だ。

最近は水玉メイクというものも流行っており、老若男女問わず、アイライナーのようなペンで顔に水玉模様を描いている。

首相をはじめ国会議員、皇室の者は皆、水玉模様のネクタイやスーツを身に付ける事が義務化された。

水玉を一切身に付けていない吉彦は、行く先々で白い目で見られ、蔑まれた。




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