第96話 脳

男は生まれつき、物凄い幸運の持ち主だった。

 

欲しいと思った物はすべて手に入ったし、こうなって欲しいと思ったことは実際に思った通りになる。

 

誰にでも好かれ、男の悪口を言うような人間は誰もいなかった。

世間では有名人というほどでもなかったが、町ではたまに声を掛けられるほどの人気者。

 

それでも男は慎ましく生きたいと思っているため、派手なことは起こらないが、決してお金に困るようなことも、トラブルも起きない。

 

その男はまさに神に愛された男だった。

 

生まれた時からこうだった男は、それが普通だと思っていた。

しかし、他の人と話したことで、そうではないと知った。

 

男は考えた。

なぜ、自分だけがこんなにも幸運なのだろうかと。

 

そこで男はある仮説を立てた。

それを確かめるため、男は手を空に掲げた。

すると、男の手に落雷がある。

 

しかし、男は生きていた。

 

男はやっぱりかとつぶやき、そして、自ら命を絶った。

 

それを見た研究者は、「またか」とため息をついた。

 

終わり。













■解説

男は脳だけの状態で生きていて、研究の対象とされていた。

全てが思い通りになるのは、男が作り出した世界だったから。

研究者がまたかと呟いたのは、実験はいつも同じように被験者の脳が自殺を図るため。

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