第31話 おじいさん家のゴン

これは僕が小学生のときの話。

 

学校の通学路の途中に結構、大きめの屋敷があった。

その家にはおじいちゃんしか住んでなくて、番犬替わりのゴンという犬がいた。


ゴンもかなりの老犬で、いつも寝てばかりで全然動かない。

おじいちゃんが言うには、1週間ずっと寝てたこともあるらしい。


とにかく、ゴンは動かない。


おじいちゃんがゴンを散歩に連れて行っているのを、僕は一度も見たことがないくらいだ。

だから、いつもおじいちゃんは、ゴンのエサの皿に山盛りのドッグフードを入れていた。

いつ起きるかわからないから、そうしているらしい。

 

こんなんで、番犬になるの?とおじいちゃんに尋ねたことがある。

すると、おじいちゃんは、「こう見えて、ゴンは優秀なんだよ。知らない人が家の敷地に入ってきたら、吠えてくれるんだ」と言った。

 

確かに、僕が初めてゴンを見た時に、物凄い勢いで吠えられたことを思い出した。

そのときはビックリして、逃げてしまったほどだ。

ただ、ゴンがおじいちゃんに、「この子は大丈夫」と教えられてからは、吠えることはなくなった。

 

ある年の夏休み明け。

学校帰りに、久々にゴンの寝顔でも見ようと思っておじいちゃんの家へ寄った。

すると、家の中からゴンの物凄い吠える声が聞こえた。

 

僕はおじいちゃんの「知らない人が家の敷地に入ったら吠えてくれる」という言葉を思い出し、すぐに警察に電話した。

 

警察はすぐに来てくれて、おじいちゃんの家へと入って行った。

 

警察の人の話によると、家の中には不審者などがいた形跡はなく、おじいちゃんだけがいたそうだ。

 

終わり。
















■解説

家の中には「おじいさんしかいなかった」と警察が言っている。

となると、なぜ、ゴンが吠えたのか。

それは、ゴンにとって「おじいさんが、おじいさんであると認識できなくなった」ということになる。


夏の日。


おじいさんは何らかの事情で命を落としてしまう。

そして、ゴンは1週間の間、寝ることがある。

おじいさんが亡くなってから、ゴンが目覚める間に「おじいさんと認識できなくなった」というわけだ。

つまり、おじいさんの遺体は腐敗し、見た目も臭いもおじいさんのものでなくなったことで、ゴンが知らない人だと思い、吠えてしまったということになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る