第22話 ストーカー

大学に入ってから、すぐにストーカーにつきまとわれた。


私の前に出てくるのでもなく、陰からずっと、私を監視している。


被害といえば、毎日、私宛にどんなに好きかを書き綴ったものが送られてくる程度。


本当は部屋の中にも入られている気がするけど、これは証拠がない。


そんな程度の被害なので、警察も取り合ってくれない。


 


だから、私は引っ越しすることにした。


どこから情報が洩れるか分からないから、引っ越しのことは誰にも言っていない。


引っ越し作業自体も、業者に無理を言って早朝にパパっとやったくらいだ。


これでストーカーも、私がどこに行ったかはわからないはずだ。


 


とにかく早く見つけようとして、部屋探し自体は雑になっちゃったけど、いざ、引っ越してみると悪くない。


建物もしっかりしてるし、内装も割と好み。


ただ、ちょっと西日が強いのが欠点かな。


 


暑くなってきたので、エアコンを入れようとした。


だが、リモコンが見当たらない。


 


「最悪。今度、大家さんに言って、用意してもらわないと」


 


仕方ないので、エアコンなしで過ごすしかない。


今が秋で本当によかった。


 


数日後。


荷解きも終わり、少々足りないものもあるが部屋はそれなりに見れる状態になった。


これなら親友を呼べるかな。


 


小学校からの大親友。


ストーカーの件も、彼女がいなかったら、きっと精神的にもたなかったと思う。


 


明日は休みだし、パーっと朝まで一緒に騒ごうと思う。


連絡して一時間後、彼女がやってきた。


 


「へー、いいところじゃない」


「でしょ?」


「言ってくれれば、引っ越し、手伝ったのに」


「いやいや、悪いし、恥ずかしいでしょ」


「なーに? 私に見られて恥ずかしい物でも持ってるの?」


「ち、違うって!」


「ふーん。まあいいや。……はい。大量のお菓子。今日は朝まで盛り上がるんでしょ?」


「さっすが! よくわかってるじゃん!」


「あと、これ、エアコンのリモコン。うちと同じのだから、使えると思う」


「ありがとう! 助かるよー! 貰っておくね」


「ちょっとちょっと、貸すだけだから! 帰る時に持って帰るから!」


「ええー! 引っ越し祝いにちょうだいよ!」


「ダメだよ、あたしのエアコンが使えなくなるじゃん!」


「あははははは」


 


そんなバカなことを言いながら、親友と楽しい1日を過ごした。


終わり。


 













■解説

語り部は引っ越す際、誰にも教えていない。


それなのに親友は、なぜ「エアコンのリモコンがない」ことと、「同じエアコン」だと知っていたのか。


親友はここに来る前から、語り部の部屋の中を見たことがあることになる。


その点からもストーカーは親友である可能性が高い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る