第10話 意図せぬ同居人

よし、準備万端。

俺はチーズに即効性の毒を仕込んだ。


 

俺の家には同居人がいる。


シェアハウスでも、一緒に住もうと言ったわけでもない。

勝手に住んでいるのだ。

しかも、隠れて。


侵入者と言った方がいいのかもしれない。

いつからいるのかはわからない。

最初に違和感がしたのは、食べ物が減っている気がしたところだった。


3つしかないような物には手を出されないが、いわゆる、たくさんあるような物が微妙に減っている気がしたのだ。


例えば、切れてるチーズ。

18枚入りみたいなのが、少しずつ、減っているような感覚。

残り3枚になったときは、一切、手を出さないから、今まで全然気が付かなかった。

 

それに気づいてからは、家を出るときと、帰ってきたときで、微妙に物の配置が変わっているような気もする。

そこで、部屋の中に監視カメラを設置してみたのだが、誰かが写ってるなんてことはなかった。

 

でも、必ずいる。

そう確信している。


本格的に部屋の中や屋根裏まで調べようかと思ったが、段々と腹が立ってきたのだ。

俺が必死に働いている間、こいつは伸び伸びと俺の部屋で過ごし、食べ物を盗んでいる。


そう考えると、どうしても許せなかった。

仕事でストレスが溜まっていたせいか、思考は段々過激になる。


毒を盛ってやろう。


勝手に俺の部屋の中に入って、勝手に物を食って死ぬ。

天井裏にいるネズミに食べさせるつもりだったとか言えば、警察も俺の殺意を証明できないだろう。



ということで、俺はチーズに毒を仕込んだ。

チーズは残り6枚。

この数なら1、2枚食べるだろう。

だから、前の2枚に毒を仕込んだ。


次の日、俺は仕事に行き、そして帰宅して冷蔵庫を開けた。

 

チーズが1枚減っている。


よし、作戦は成功だ。

明日あたりに死体を探して、警察に連絡するか。


俺は残っているチーズの一番後ろを手に取って、口に入れた。


終わり。


 


 







■解説

同居人は監視カメラに写ってなかったところから、いつも上から部屋の様子を見ていたことになる。

つまり、カメラの設置場所を把握しているということになる。


当然、語り部がチーズに毒を仕込んでいるところも見ている。

それは、「即効性の毒」を仕込んでいるのに、「チーズが1枚減っている」ことから、同居人はチーズのどこに毒が入っているかを知っていたことになる。

(即効性の毒を食べているのなら、語り部が部屋に入ったときには、倒れている同居人を見つけているはずである)


また、毒が入っていることを知っているのに、あえて、「チーズを1枚食べている」ことで、語り部の油断を誘っている。

長い間、上から語り部のことを観察していた同居者は、どこからチーズを取るかなどの語り部の癖も知っている可能性がある。

チーズを食べた語り部がこの後、どうなったかのは想像に難くない。

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