女の子が恋に落ちる瞬間を目撃したんだ……。

「おはよう!! 正美ちゃん、そして康恵ちゃん!!」


 息を弾ませながら駆け寄ってきた可憐な美少女は美馬桃花みまももかちゃんだ。

 小ぶりな顔の両側でまとめたツインテールの先端が身体の動きにあわせて軽やか揺れた。


「あっ、桃花ちゃん、おはよう!!」


 僕、大迫正美おおさこまさみは目撃してしまった、女の子が恋に落ちる瞬間を……。


 桃花ちゃんの笑顔が最高に可愛かったんだ、

 その弾けるような笑顔を作り出した相手は!?


 間違いなく三枝康恵ちゃんだ……。


 あの女子更衣室で桃花ちゃんが僕たちにすべてを見せてくれたときに早く気が付くべきだった。彼女を救い出すと宣言した康恵ちゃんを見つめる彼女の熱い視線に。


「今日は一段とカワイイね、桃花ちゃん!!」


 その一途な想いに気が付いていないのは、康江ちゃんに扮した三枝康一さえぐさこういち、その人だけだ。


「会ったときから気になっていたんだけど桃花ちゃんの髪ってツヤツヤして毛先の先端までキレイだけど、いったいどこの美容室を使ってるの?」


「えっ!? そんなことを言われたの康恵ちゃんが初めてだよ、美容室だなんて特別なことはしてないの、自分で毎日ブラッシングしてるだけ……」


 ……康一の罪な癖が出てしまった。


 前の高校でも隠れファンクラブが結成されるくらい同級生の女の子受けが良かったんだ。


 その理由わけは極度のおっぱい星人のくせに、それ以外では女性に対して細やかな心配りが出来る性分だからだ、それもまったく下心なしで接するジェントルマンなんだ。

 意外に思うかもしれないがいつも隣で見てきた僕には理由が分かる。


 康一は幼い頃母親を亡くしている。愛情を一身に受けたいときに母はいない。

 世界的なおっぱい冒険家の父親はそんな康一に厳しく接したんだ。


 ライオンが我が子を千尋せんじんの谷に落とすように……。


 康一の父親は良く言っていたそうだ。

 男子たるもの紳士たれ、女性に対してだけではなく、人としての品格を備え、困った人がいたら見返りを求めず行動せよ。

 幼い頃からその教えをたたき込まれた康一は、まさに小さな紳士だった。


 だけど……。 妙に心がざわつくのは何故だろう。

 僕が桃花ちゃんに嫉妬してるの!?


 いや半分は違う、悲しい結末になることが怖いんだ、僕が康一に抱いている感情と同じで。それに桃花ちゃんが恋しているのは男の康一ではなく、女の子の……。


「正美ちゃんも早く行こう、正門を閉められたら困っちゃうよ」


 桃花ちゃんに手を引かれて我に返る。同時に彼女を羨ましく思った。

 恋する女の子は美しい、きっと今朝も早起きをしたはずだ。

 大好きな人に逢える!! ブラッシングだけなんて嘘だ、かわいい嘘。

 髪の毛だけでなく乙女の気合いでかなりの準備をしたんだろう。

 僕の康一を想う気持ちは誰にも負けない、でも今だけはこの学園生活を

 楽しもう。恋愛も大事だけど、桃花ちゃんとの友情も大切にしたい。


「待ってよ、桃花ちゃん、康江ちゃんったら!!」


 僕は急いで二人の後を追い、短い制服のスカートの裾を気にしながら

 規律検査の建物に向かった、中に入るとすぐに異変に気が付いた。


「……今日の規律検査は中止します、各自、生徒は速やかに教室に移動してください」


 いつもの平穏な学園生活が崩れていた、さわつく女子生徒達に業を煮やしたのか、

 拡声器を手にしたシスターの口調も厳しさを増す。


「普段は私達に貞淑あれと口うるさい癖にシスターが一番取り乱してるね」


 桃花ちゃんが小声で僕の耳元に囁きかける、確かに滑稽に見えるぞ。

 でも毎日の規律検査が何で中止なんだ、りっつ子さんも言っていたが、

 この聖胸女子の厳しい校則の中でひときわ狂った思想が乳房信仰だ。

 乳首の色にこだわるのもそうだ、ピンク色が善で黒が悪と完全に決めつけている。

 女子生徒を乳首の色でランク点けで厳しく管理しているそうだ。


 もちろん乳首の色が処女性の証明でないのは科学的にも明らかだが、

 絶対にノーブラなのも神聖な乳首が制服にれて黒ずんてしまうと盲信しているんだ。


「ねえ、まさみん、何だか身構えていたのが馬鹿みたい……」


「康恵ちゃん、僕は何だか嫌な予感がする、安心するのはまだ早いよ」


 おっぱい検査を免れて拍子抜けだが果たしてこのままで済むのだろうか?


「二人とも、教室に急ごう、一限目のシスターは厳しくて有名なんだから遅刻したら反省房はんせいぼう行きだよ……」


 反省房!? 桃花ちゃんが前にも恐れてた単語だ、一体どんな所なんだ。


「桃花ちゃん、もし反省房行きになったらどうなっちゃうの!?」



 次回に続く。


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