第23話 アルタニア城事件7 対立

 使いがラウルに向かったのを確認した後、護衛の騎士達と親睦を深める。

 一同強い使命感を持つ。私が感じるものの正体を知りたい。

「なぜ?」という素朴な問いかけに若い騎士が応じた。クロウよりも年上、二十代半ばに見える。


「私は軍人です。各戦線の指令部、或いは後詰めとして任を勤めましたが、俯瞰して見るまでもなく我々は負ける。じわじわとなぶり殺しにされます」

「理由は明白なのですね」

「殿下、このエストバルの調和は魔族によって作られたものです。全て彼らの支配下にある。既に敗北とお考え下さい」

「どういう意味」


 騎士の気迫に押され返答が短くなる。


「いつでも戮殺りくさつ出来るということです」

「どうしてそうしないの」

「我々は餌なのです。奴らは人を食う。殿下は家畜や野生の鹿を全て平らげますか」

「口を慎め。ナルタヤの王族たるぞ」


 クロウの叱責を騎士は受け取らない。

 私は騎士を責めないしクロウを責める気もない。


「前線に送られる兵士の数は徐々に増えています。ですが帰還率は変わらない」

「対応されている、ということですね」

「見事に調和しています。奴らの領域は全く動いていません」


 騎士は視線を逸らさない。礼儀などお構いなく実情を知らせたいとみえる。


「どうして話す気になったの」

「即位されると確信を持ちました。そこの護衛がいかにも弱気になっている」


 身内と認められたわけか。クロウは平然としているが内心穏やかならぬだろう。

 しかしおかしい。騎士団や冒険者ギルドの顔が見えない。

 指摘すると、


「奴らはこの状況を理解しながら我々を利用した。許されざるべき存在です」

「援護などは……」

「ギルドは我々の要請など聞きません。国庫に余裕がないと知りながら足元を見る。騎士団もまるで当てにならない。辺境と我々を見下すばかり」


 鬱憤をぶつけるよう彼は言葉を吐き出す。


「貴公名は」

「アルタニアの騎士、名はアルベルト」


 クロウの問いにアルベルトはすぐさま応じた。


「お言葉だが騎士アルベルト、貴公は戦奴をどう考える。恨まれるは貴公達も同じではないか」

「散々調べ回ってそれか。貴公こそ帰国してはどうだ。戦場で戦う我らに、国家の都合を押し付けるか」

「自ら後詰めと名乗り、戦士気取りとは」


 まずい、二人だけでなく周囲も色めき立っている。戦士か否か私は知らない。


「では騎士アルベルト、あなたはどうするべきとお考えですか?」

「ナルタヤの支援を。王女殿下の名の下、エストバルを解放するにはそれしかございません」


 聖王国の支援か……。

 万事上手く運べば考えはするが。


「アルベルト殿は勇ましい。まるで勇者のようだ」

「クロウやめなさい」

「構いません。侍従よ、その勇者が我々に付いた。ナルタヤの立場はどうなるかな」


 アルベルトは意味深に述べ深く頭を垂れた。


「無礼をお許し下さい」

「皆そう言うわ」

「命懸けでお守り致します」


 騎士達の意志を代表するよう彼は宣言した。

 クロウはそれを見て、


「貴公は二君に仕える優秀な騎士だ」


 皮肉くることを忘れなかった。


 ――夕暮れ時は去り日も暮れた。

 執務室には真新しいカーテンが用意されらしくなったというべきか。


「どうして喧嘩するの?」


 先ほどのやり取りを思い出しクロウに確かめる。外の彼らが聞き耳を立てていなければいいのだけど。


「事実を並べただけです。まあ勇ましいのは良いこと。あれが親衛隊になるわけですな。俺みたいに融通が利くと思わない方がよろしいようで」


 それは困る。だが一国を預かるなら当然か。クロウの気軽さを失うのは痛い。今更ながら国外に出たのだと痛感する。


「戦況の報告が来ないわ」

「ラウルへの備えはしています。が、物資の都合もあり人の往来は避けられません」

「そうね。あなたは逃げ道があっていいわね」

「でしょう。今ならまだ間に合いますよ。王子と共に帰国しますか」


 睨み付けるとクロウは肩を竦めた。

 全く頼り甲斐のある護衛だ。


 ――夜も更けようというのに報せは来ない。

 ため息一つ、今晩はもう休もうか。

 暖かい毛布にくるまれ眠るのは、アルタニアの旧王族達に比べれば贅沢な話。彼らは今も牢に閉じ込められている。


 懐中時計の針が深夜を指し示す頃、城内が慌ただしくなった。遠く城外からざわめきのようなものが伝わってくる。

 クロウと二人顔を見合わせると扉がノックされた。


 ――長い夜の始まり告げるように。

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