月花の天使は悪魔の妃

枦山てまり

第0話 大災厄

 赤い満月の晩。暴走した大量の悪魔憑きが王国を占拠した。

 

 真っ黒な羽根を背に広げ、頭に角を生やした赤い瞳の魔物。人間に似た姿形をしたそれは、もはや人間では無い。


 暴走状態の彼らに自我というものは存在しないのだろう。それどころか、感情を有しているかすら怪しい。ただけたたましい鳴き声を上げながら、人間に襲い掛かるその生き物は、人間だった頃の比ではないほどに強い力を持つ。


 握ったものは瞬く間に粉々になり、訓練された兵士の剣をもへし折る威力。人間では全く太刀打ちできない怪物。


 そんな怪物が王国中に溢れかえり、誰もがこの世の終わりを覚悟したあの日。とある一族だけは恐れをなしていなかった。


 おぞましい赤色の満月に支配された夜。彼らは青白い月の光を纏いながら、まるで一つの舞を踊っているかのように軽々と悪魔を浄化していく。憑き物がとれたことで人間の姿を取り戻した者たちは、その場に倒れこみ、しばしの眠りについた。


 悪魔を恐れず、長い夜に舞う彼らの姿は、まるで月夜に咲く花のように美しいものであった。その雄姿はたたえられ、彼らは後に『月花げっかの天使』と呼ばれるようになる。


 これが、エストレア王国史に残る大災厄―『悪夢の夜』の記録である。

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