呪われた橋
kou
呪われた橋
連休を使って京都旅行に行こうと言い出したのは、友人の佐々木瞳からだった。
初めての京都だが、思ったよりずっと早く着いた。
嵯峨嵐山駅から南に下ると見えてくる。
「見て。あの橋、木で出来てるよ。さすが京都」
篠原隆は驚いて言った。
「そう見えるでしょ。実は昭和9年に完成した鉄骨鉄筋コンクリート桁橋なの。でも橋の歴史としては数百年もあるのよ」
瞳は説明した。
彼女はいつものように、まるで自分の庭を案内するかのように嬉しそうだ。
橋の先には嵐山公園がある。
川と山が一望できる公園だ。
隆は橋を渡って、そこに行ってみたくなった。
「早く行こう」
瞳を促すが、渡月橋の前で瞳は止まってしまった。
「瞳?」
どうしたのかと思いながら声をかけると、瞳は大きく息を吸って吐いて、それから笑顔になった。
何かを決意したような表情だった。
それは瞳と隆にとって、とても大切なことなのだと。
「隆、知ってる。この橋を一緒に渡ったカップルは永遠に結ばれるんだよ」
瞳の言葉を聞いて、隆は自分の顔が熱くなるのを感じた。
瞳も同じ気持ちだと分かったからだ。
そして橋の中央まで来たとき、瞳は立ち止まった。
隆もそれに合わせて止まる。
しばらく沈黙が続いたあと、瞳は口を開いた。
その言葉は――
「あなたが好きです。付き合ってください」
隆の答えはもちろん決まっていた。
「はい。喜んで」
そして。ふたりは永遠になるのだ。
5年後。
隆は、再び渡月橋の前に居た。
瞳はウソをついていた。
渡月橋を一緒に渡ると、永遠に結ばれるではなく、別れるというものだった。
【渡月橋】
由来は、両思いだった天皇と小督の局が、平清盛によって引き裂かれ再会できたのが渡月橋だった。
だが、この密会もすぐにバレてしまい、二人は二度と会うことができなかった。
だから隆は聞いた。
「どうして、本当のことを言ってくれなかったの?」
すると瞳は少し困った顔をしてから言った。
「だって、別れるだよ。二人の仲を引き裂くのよ。どんなに好きあってても。恋ってさ、障害があった方が燃えるじゃない」
そう言って笑う瞳は、とても可愛かった。
「安全。って言ったのに……」
隆は恨めしそうに言う。
「はは。ごめんね。別れるんなら、大丈夫と思ったのよ」
悪びれずに謝る瞳。
「計画、メチャクチャになっちゃった?」
「凄く」
隆は言った。
「不幸せ?」
訊かれて、隆は言うまでもないと思った。
隆の手を、小さな女の子が何度も引っ張っている。
「ぱぱ~」
その子は言った。
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