②白うさぎと黒猫――⑫

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 ここは、おやつの時間が近づいたモノクロ山。

 いい匂いにつられてハクアがやって来た場所には、何やら怪しい罠が置かれていました。


 匂いがするのは、大きな木の上。太い枝からは伸びたロープ。ハクアはすぐに見抜きました。ロープを引っ張れば、お菓子の入った袋が落ちてくる――そんな単純な仕掛けになっているを。

 いつもなら相手にもしない罠。けれど、それを無視できなかったのは、大きな木の後ろから飛び出していたからです。二つの黒い耳と、これまた黒い長く伸びた尻尾が。

 前にこの山へ来た時は具合が悪いようでしたが、こうして出歩いているということはすっかり元気になったのでしょう。

 あの優しい木こりに手を貸してよかった。ほっとしたハクアは、躊躇いなくロープを引っ張ります。あえて避けもせず、顔めがけて落ちてくる袋とぶつかりました。


「いたたた……」


「きゃははははっ! きゃははははっ! ばーかばーかっ! あのときのしかえし、うまくいったっ!」


 ハクアが顔を押さえると、木の後ろから元気よくノアが飛び出しました。楽しそうに笑いながら、ぴょんぴょん飛び跳ねます。


 仕返しとは、ノアがモノクロ山に住んでいた頃の出来事に対してでしょう。ノアは以前、山に仕掛けられたトラバサミに捕まって怪我をしてしまったことがありました。そのトラバサミはノアと遊ぶためにハクアが仕掛けたもので、それ以来、ノアはずっとハクアのことを嫌っていたのです。


 けれど、顔をおさえるのをやめたハクアも、にっこりと笑っていました。


「よかった。のあ、げんきになって」


 仕返しでも何でもいいのです。ノアが構ってくれたら、笑ってくれたら、それだけでハクアは温かいもので心がいっぱいになるのです。

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