第73話 中心部


「それにしても、広すぎる……」



「まだ、広がってるんですかね?」



「地面が揺れてるから、まだまだ広がってそうだ。帰り道も変化してるかもしれん」



「マジかよ! 昨日はそのまま帰ることができたけど、帰り道が変化してたら脱出にもまた時間がかかるってことか」



「帰る時間も考慮しないといけませんね」



 探索を進める俺たちは、見通しのいい広間に腰を下ろし、午後からの探索をどうするか話し合いながら昼食をとっている。



 すでにダンジョンに入って4時間。



 ダンジョンの進化は、こちらの想定以上に速い。



 トマスの意見によると、帰るころには、また新しい通路が生成されている可能性もあるらしい。



「あと、2時間ってところだな。無理に探索しようとして、帰れないじゃ困るだろ」



 食事を先に終えたトマスが、懐中時計を取り出し、時間を確認しながら、帰還までのタイムリミットを伝えてくる。



「2時間か……」



 映し出されたままのダンジョンマップを見て、2時間で調査できそうな範囲を絞る。



「ここの通路の先を最優先にして、突き当りだったら、こっちの小部屋の捜索、時間があればこちらの傾斜のついた坂道の上を調べるくらいって感じにしとくか?」



 俺は映し出されたダンジョンマップを使い、午後の捜索範囲を指差した。



「ヴェルデの案は妥当なところだ。それくらいが限度だろうな」



「魔物の集団が多くいたら、それよりも早めに引き上げますか? 帰り道でも魔物が再発生してるかもしれませんし、余力を残しておいた方がいいと思います」



「たしかに。ギリギリまで戦って帰還するのは危ないかもな。このパーティーはヴェルデの戦闘力頼りなわけだし」



「探索終了の条件にあと3つの魔物集団と遭遇した場合を付け加えてくれ。それくらい余力は残して帰還した方が安全に帰れると思う」



「いい判断だと思う。限界まで戦闘するのは、バカのやることだしな。その条件は守ろう」



 午後の方針が定まったところで、俺たちは休憩を終え、再びダンジョン内の探索を再開する。




 瞬く間に探索の時間はすぎ、いくつかの罠発見と、魔物集団に遭遇し、帰還を始める目安の時間が近付いてきた。



「ヴェルデ様、そろそろ帰還の時間ですが……」



 時間の管理をしてもらっているアスターシアから、魔物を倒した俺に声がかかる。



「そうか、もう時間か……」



「すまん! ちょっと、待ってくれ! あの壁に打ち込まれる目印!」



 びっくりした表情をするトマスが指差す先には、赤い布が巻き付いた杭が打ち込まれていた。



「あれは?」



「たぶん、オレが発動させた落とし穴の罠を示した杭だ! 魔素溜まりに繋がった穴のやつ! 近くにきっとボスの部屋もあるはずだ!」



 周囲の安全を確認したトマスが、杭の方へ走っていく。



 俺たちも慌ててトマスの後を追うと、目印の杭を曲がった先の通路にはぽっかりと穴が空いていた。



 落とし穴の先には、トマスの言ったようにダンジョンボスがいると思われる広い空間への入口も見える。



「やっと中心部に戻ってきた。あのGランクダンジョンが、こんなに広大なダンジョンへ進化してるとはな」



 中心部か……。



 ボスを討伐すれば、魔素溜まりに繋がって超速成長のダンジョンは消滅してくれるが。



 ボスがどれくらいの強さにまで進化してるかだよな……。



 でも、MPを回復してくれるマナポーションもあるし、脱出できる帰還のスクロールもある。



 戦ってみる選択肢はありだよな。



「ボス討伐、狙ってみてもいいか?」



「正気かよ。どれだけ進化してるか分からないんだぞ」



「トマスさんのいう通りです。いくらヴェルデ様が強いとはいえ、必ず勝てるとは――」



 脅威度判定はダンジョンマップが埋まってないので、不明のままだしな。



 魔素濃度と出てくる魔物の強さで見れば、最低Cランク。



 下手すりゃ、Bランク超えてる可能性もある。



 最初のダンジョンのボスだったゴブリンチャンピオンクラスのボスモンスターが、配置されててもおかしくない。



 トマスもアスターシアも自重した方がいいと、表情に出ていた。



 俺は帰還のスクロールと、マナポーションを空間収納から取り出すと、自らの作戦を伝える。



「勝てなさそうだと判断したら、これで脱出するつもりだ。ポーションで消費した魔力も回復できるし、偵察がてら戦ってみるだけさ」



「帰還のスクロール! そんなものまで持ってるのかよ! それを使えば、ボス部屋からも脱出できるし、やってみる価値はあるかもしれん」



 トマスは脱出手段があるのを知ると、意見を翻した。



「……承知しました。帰還のスクロールはあたしが読み上げます。脱出の際は声をかけてください!」



「ああ、任せる」



 俺たちはダンジョンボス部屋に侵入することを決めると、落とし穴に落ちないよう慎重に通路の端を歩き、入口へと向かった。

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