第25話 青年貴族ヴェルデ・アヴニール
あった! あったぞ! 容姿を変更できる装備!
急いで空間収納から『偽りの仮面』を出すと、自分の顔にはめた。
スキル使用のアイコンが浮かんだ!
発動させてると、自分の顔が目の前に浮かび上がる。
髪色、顔の造作、目の色、眉毛とか細かく弄れるっぽい。
「アスターシア、この世界で一般的な髪色とかって何色?」
「え? あ、はい。庶民だと明るいブラウンとか、赤毛とか、銀髪とかでしょうか。金色は貴族に多く見られる髪色です。黒は『渡り人』かその血を引くとして、この世界では忌み嫌われてます」
黒はNGってわけか……。どうせだったら、貴族っぽく見られる金髪にしておこう。
見た目もかなり変わるしな。
髪色選択を金髪にすると、目の前に浮かんでいた俺の顔の髪が金色に染まった。
「アオイ様の髪色が変わりました! その仮面の力ですか?」
「ああ、そうみたいだ。ダンジョンで拾ったんだが、これで俺の容姿を変えて、変身の耳飾りをガチャに使えば、デキムスたちは分からなくなるだろ」
「はい、完璧に3人とも容姿が変化してしまって、デキムスたちはこちらを把握できないはずです!」
「だろ? 顔はもう少し弄って――」
少しのっぺりしてた俺の鼻を高くして、彫りを深く、瞳は碧眼とかがいいんだろうな。
あと、仮面の表示をオフにしてやれば。
どこからどう見ても、金髪碧眼の青年貴族っぽくなったと思う。
「仮面が消えました!? これがアオイ様の新しい顔なんですね……。黒髪と黒目の方が素敵でしたけど、この場合仕方ありませんよね」
「身を隠さないといけないからな。これで青年貴族っぽく見えるだろ?」
「はい! 貴族の次男坊っぽく見えます! これなら、探索者になるのもたやすいかと。やはり、探索者が一番稼げますので」
「探索者!? ダンジョン協会とか探索者ギルドは『渡り人』を捕まえろって指示を出してるんだろ? それなのに俺が探索者に?」
「追う側にいた方が追跡情報も掴みやすいですし、相手も『まさか』って思うと思いますよ」
アスターシアがニンマリと笑みを浮かべる。
なるほど、灯台下暗しってわけか……。
意外に策士だな。
殺処分するため探してる『渡り人』が、殺処分する側の自分たちの組織内にいるはずないという相手の思い込みを突いて、身を隠すか。
探索者として成功し、金をいっぱい稼いだら、どこか山奥に引き籠ってもいいしな。
むやみに周囲を気にして逃げ回るよりか、変化した容姿で別人になり、名声を確立して詮索をさせないって選択肢もとれる。
「アスターシアの案、採用する前に確認したい。探索者になるにはどうすればいい?」
「街にある探索者ギルドへ行って、登録すればいいだけです。特別な試験とかはありませんよ。ステータスの開示はさせられますが、犯罪歴がなければ誰でも登録できるはずです」
登録のためステータスの開示があるのか、今の俺のやつを見られたら、速攻でバレるよな。
でも、もしものために取っておいたステータス隠蔽が、役に立つときが来たってわけだ。
スキルを発動させると、ステータス画面が浮かび上がる。
――――――――――――――――――――――――
明日見 碧 人族 男性
HP144/144
MP54/54
STR:33 VIT:31 INT:13 AGI:8 DEX:18 LUK:13
ジョブ:『戦士Ⅱ』《1》 魔術士Ⅰ《2》
アクティブスキル:鑑定 解体 地図 ステータス隠蔽
パッシブスキル:魔力増強Ⅱ 体力増強Ⅳ 生命力増強Ⅰ 剣技向上Ⅰ 空間収納Ⅰ 知力増強Ⅱ 器用さ増強Ⅱ セカンドジョブⅠ 運増強Ⅰ 言語翻訳Ⅰ 筋力増強Ⅰ
戦技スキル:ソードスラッシュⅠ 連撃Ⅰ 連続斬りⅠ キックⅠ
魔法:ファイアⅢ アイスⅡ ヒーリングライトⅡ ウィンドⅡ プロテクションシールドⅡ ストーンブラストⅠ
装備:鋼鉄の
基本攻撃値:93 基本防御値:46(物理シールド200) 基本魔法力:13
SSR確定メーター:3/20 金色コイン残数:0
―――――――――――――――――――――――――
アスターシアのステータス欄に合わせるように余分なスキルの改ざんと隠蔽していく。
――――――――――――――――――――――――
明日見 碧 人族 男性
特性:
戦技スキル:ソードスラッシュⅠ 連撃Ⅰ 連続斬りⅠ キックⅠ
魔法:ファイアⅢ アイスⅡ ヒーリングライトⅡ ウィンドⅡ プロテクションシールドⅡ ストーンブラストⅠ
装備:鋼鉄の短剣 影潜りの外套 幻影の指輪 偽りの仮面
―――――――――――――――――――――――――
外部投影をオンにして、アスターシアにも俺のステータス画面が見えるようにした。
「アスターシア、このステータス見て、気になるところあるか?」
「えっと……。LV表記は必須ですね。魔法が使えるなら、特性に魔法使いがあった方がいいです。戦技もあるので、剣術使いもあった方が疑われないかと。あとスキルの後ろの数字は絶対に消してください。あんな数字を付けてる人いませんから。それと、装備品の仮面も消しておいた方が容姿を偽装しているのがバレないと思います」
アスターシアに指摘されたところを改ざんと隠蔽する。
「あと、名前です! 名前! 思いっきり『渡り人』なので偽名を付けないと」
「そうだったな。偽名か……」
偽装したのは貴族然としてる風貌だし、家名とか付けた方がいいんだろうな。
俺の苗字の明日見は『明日を見る』って取れるし、未来って言葉を当てはめるのもいいかも。
「アスターシア、この世界で『未来』は何て言うんだ?」
「『未来』は『未来』ですよ?」
翻訳が発動してるから、もとの言葉がわからねえか。
こっちの世界のいい名前とかを付けて貰う方がいいかもな。
「あ、でも古い言葉で言うと『アヴニール』だったと思います」
アヴニールか。貴族っぽいいい家名な気がするぞ。おし、家名はアヴニールっと。
「じゃあ、『碧色』も古い言葉にあるか?」
「ちょっと待ってくださいね、思い出します。えっと、『碧色』ですね。確か『ヴェルデ』だった気が」
「おっけ。じゃあ、俺の偽名は『ヴェルデ・アヴニール』。自らの身を立てるため、探索者になろうと一念発起した青年貴族様ってところでどうだ?」
「よろしいかと。では、わたしはお付きの専属メイドとかでよろしいでしょうか? 探索者になるにしても、貴族の子息様が供を連れないで、単独で動くのは違和感を覚えられるでしょうし」
「分かった。それでいこう。ガチャは俺の大事な相棒ということにしてくれ」
「ええ、問題ありません。貴族の探索者の方は探索犬の愛好家の方もいらっしゃるようですし」
「よし、これでどうだ?」
最終確認も兼ねて、アスターシアに改ざんと隠蔽したステータスを見てもらう。
――――――――――――――――――――――――
ヴェルデ・アヴニール 人族 男性 LV15
特性:魔法使い 剣術使い
戦技スキル:ソードスラッシュ 連撃 連続斬り キック
魔法:ファイア アイス ヒーリングライト ウィンド プロテクションシールド ストーンブラスト
装備:鋼鉄の短剣 影潜りの外套 幻影の指輪
賞罰:なし
―――――――――――――――――――――――――
「すでに駆け出し探索者っぽい強さではありませんが、探索者する前にいろんな修行をしていたとか言えば誤魔化せるくらいになったかと」
「跡継ぎの予備の次男坊であったので、剣と魔法の修行に人生を注ぎ込んだって感じかな。おかげで礼儀作法に疎いってしとけば、俺が多少おかしなことをしてもフォローできるはず」
「ですね。わたしもアオイ……もとい、ヴェルデ様の専属メイドとしていろいろとお助けできると思います」
話を静かに聞いていたガチャも変身したいと思ったようで、レバーを回してアピールしてくる。
「ガチャも確認しとくか?」
うんうんとガチャが首を縦に振る。
ガチャの耳に変身の耳飾りを付けると、蛍光ピンクだったガチャマシーンが緑に変化する。
身体から生えてる足は白から、真っ黒になったな。
くっそ、俺からじゃ、ガチャがきちんと変身したか確認できねぇ!
「アスターシア、ガチャはきちんと変身できてるか?」
「え? あ、はい! 全体が黒い体毛で頭頂部が緑に変化しました! さっきとは別の犬になった感じです!」
ガチャも自分の身体を見回しているようで、その場でくるくると走り回っている。
くっ! 俺の心の目では、黒い子犬になったガチャが喜んでいるように見える!
かわいいよ! かわいい! ガチャかわいいぞ!
我慢できなくなった俺は、走り回っていたガチャを抱えると、頬擦りをした。
「くぅ、かわいいぞ。ガチャ」
しばらく頬擦りをして、ガチャを堪能したが、謎のモフモフ感が癖になりそうだった。
もしかしたらガチャマシーンの筐体は俺にだけ見えてる幻影で、本体は周りのみんなが見えてる子犬なのかもしれない。
「フゥ、堪能した。でも、これで偽装するための基本的なキャラ設定が固まったな。とりあえず、あとは『渡り人』明日見碧と逃亡した探索奴隷シアの痕跡を近くの街に残しておいて、デキムスたちの目を欺き、別人となって別の街へ行こう。それから新生活開始だ」
「痕跡を残すのですか?」
「ああ、街に痕跡を残しておけば、その街をしっかり捜索してくれるから時間が稼げるだろ」
「なるほど、その間に容姿を変えてるわたしたちは遠くへ逃げられるってわけですね」
「そういうこと。それで、この『オッサムの森』から一番近い街はどこだ?」
「ヴェンドの街ですね」
「ここからだと、どれくらいかかる?」
「今の位置が分からないので正確なことは言えませんが……。ヴェンドの街は、『オッサムの森』の西側にあって、森から出たらすぐにあります」
シアの言葉を聞きながら、拡げたマップに視線を落とす。
西側、西側っと。マップに方位が出てて助かったな。
夢中で逃げてたが、俺たちは西側に向かっていたようだ。
先は未踏破だから真っ暗になっているが、見えてる範囲内でも森が開けてきてるから、もう少しってところか。
「ヴェンドの街から、遠くの街へ移動する手段はあるか?」
「わたしの記憶が確かなら、ホーカムの街へ向かう駅馬車が1日1本出てるはずです」
「よし、それに乗ろう。行動は定まったし、夜明けまで少し寝よう。明日は忙しいからな」
「はい!」
それから俺たちはそれぞれの寝袋にくるまり、夜明けまで仮眠をとることにした。
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