第17話 俺って異世界転移しちゃいました?

「それにしても、この辺では見ない髪色だが何者だ? 異国の者か?」



 革の水筒をくれた猟師は、こちらの素性を確かめようとする視線を向ける。



「名はアオイ。生まれはこの国ではないところですね。旅の途中でこの森に迷い込んでしまいました」



 俺はこの場にいたことに対する適当な理由を話し、日本人であることは伏せ、名を答えた。



 いい人っぽいけど、相手の態度の判断が付かない以上、うかつなことは言えない。



「異国からの旅人アオイか。わしはデキムスだ」



 デキムスと名乗った男からは、こちらの素性を見極めようとする視線が崩れずに注がれている。



 これって、俺のことを怪しまれてますかね?



 怪しい異国人がいたら、俺でも警戒心は抱く。



 デキムスさんもこちらが敵か味方かを探っているのだろう。



 こっちから友好的な態度を示した方がいいかもしれん。



「ところで、この近くに洞窟型のダンジョンが発生していたと思うのだが、アオイは見なかったか?」



 こちらを探る視線をしたまま、デキムスさんがダンジョンについて聞いてきた。



 デキムスさんが言ってる洞窟型のダンジョンって、きっと俺が目覚めたあの場所のことだよな。



 ダンジョンの主っぽいゴブリンチャンピョンを倒したら、消えちゃいましたとか言うとマズいか。



「俺はこの国には来たばかりで、分からないことが多いんです。そのダンジョンってなんです?」



「異国にはダンジョンがないのか? このウィンダミアに漂う魔素が凝縮して自然発生する異空間とも言うべきダンジョンが?」



 この世界、ダンジョンって当たり前に存在するものなのか!?



 って言うか、この世界ウィンダミアって名前なんだな! 俺が寝落ちする前のPCモニターに表示されてた怪しいゲームのと同じ名前だ!



「えっと、母国にも似た物はあったかもしれないけど、ダンジョンという名称ではなかったような」



 相手に不審がられないよう、ダンジョンについて知らなかったことを誤魔化した。



 デキムスさんの探るような視線の厳しさが増す。



「それはおかしな話だ。異国であったとしてもウィンダミアであれば、統一ダンジョン管理協会や探索者ギルドが同じ名称を使っているはず」



 はっ!? そんなことになってるの知らねーし! もしかして、こっちの素性が疑われてる!?



「アオイはまさか……。『渡り人』か? ダンジョンを知らぬことも、その黒い髪色も『渡り人』なら説明がつくが……。まさかな……あれは稀人のはずだ。いや、でもA級以上のダンジョンは可能性がゼロではないし」



 こちらを探るような視線を崩さないデキムスさんが発した『渡り人』の言葉が気になった。



 洞窟の中で目覚めた時から、ずっと俺の夢の中だと思っていたが――。



 その一方で、痛みや空腹感があったため、異世界転移してるのではとも思う気持ちも少しだけあった。



 でも異世界転移なんてあり得ないと思う気持ちの方が、今まで強かったわけだけども。



 デキムスさんの言う『渡り人』が、『異世界転移者』って意味だったら……。



 腕を組み考え込む様子を見せるデキムスさんが、チラチラとこちらを見てはぶつぶつと独り言を言う。



 思い切って聞いてみるしかないよな。



 このまま誤魔化していくと、さらに怪しまれるだろうし。



「先ほど口にした『渡り人』ってどういう意味ですか?」



『渡り人』について質問したら、こちらの素性を怪しんでいるデキムスさんの顔に険しさが増す。



「『渡り人』も知らんのか? 魔素が強い場所で発生した強力なダンジョンが、異世界の人間をこのウィンダミアに召喚するのだ。その召喚された人間を『渡り人』と呼んでおる」



 異世界人!? って、やっぱりここは俺の夢じゃないってことか!?



 俺の夢ではない方の可能性が、急に強まってきたな。

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