第2話 謎の生物とスキルガチャ



 目を覚ますと松明の明かりが灯る薄暗い洞窟の中であった。



 自室にいたはずの俺が、なんでこんな場所にと思ったが、それ以上に目の前に置かれたモノが気になって仕方なかった。



「何だこれ!?」



 目の前には、子供時代に100円硬貨を入れて回したガチャガチャマシーンが置かれていた。



 派手な蛍光ピンクにカラーリングされたガチャガチャマシーン。



 そこには『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』などと書かれている。



 洞窟の中に不似合いなガチャガチャマシーンに違和感を覚え遠巻きに見ていると、近くにの地面にキラリと光る物があった。



 近づいて見ると、綺麗な金色の硬貨が10枚ほど転がっていた。



 硬貨? これであのガチャを引けってことか……。



 って! 絶対、あからさまに怪しいよなっ! いきなりこんな洞窟の中で目が覚めて目の前にあるガチャをいかにも引いてくれなんて!



 ガチャを引くのに二の足を踏む俺へ、蛍光ピンクのガチャガチャマシーンがトトトと近寄ってきた。



 蛍光ピンクのガチャガチャマシーンが俺の周りにまとわりついて、コインを投入してくれてとせがんでいるように見える。



 わんこみたいな動きしやがって……。



 ちょっとだけ可愛いかもとか思っちまったじゃねえか。



「ステイ! ステイ! 分かったから動くな! ガチャは引いてやる」



 拾った金色のコインを投入口に入れ、ガチャガチャと音を立ててレバーをぐるりと2回ほど回す。



 懐かしいな……。



 今のガチャってーとソシャゲのガチャなんだろうが。



 ガコンという音とともに、プラスチックっぽいけばけばしい色のカプセルが取り出し口に落ちてくる。



 蛍光ピンクのガチャガチャマシーンが、嬉しそうに俺へまとわりつく。



 コインをもらって喜んでるみたいな気はするぞ。



 ただ、怪しさは大爆発だが……。



 でもガチャを回した以上、カプセルの中身が気になって仕方ない。



 目覚めたら全く見覚えのない場所で、いかにも怪しい動くガチャマシーンから引いたモノという異常な環境下であることは認識している。



 しかし中身が見えないと、見たくなるのが人間ってものだよな……。



 ちょっとだけ確認してみるくらいなら危なくないよな。



 俺は好奇心に負け、怪しいガチャマシーンの取り出し口に手を突っ込んで派手な色のカプセルを取り出した。



「かったいなあ。俺、こんなに力無かったっけか?」



 カプセルを開封するのにも一苦労だったが、なんとか開ける。



 ―――――――――――――――――――――


 ランク:N


 スキル名:ファイアⅠ


 種別:攻撃魔法


 効果:火属性魔法ファイアを発動できるようになる


 取得しますか? Y/N


 ―――――――――――――――――――――――



 カプセルを開けた瞬間、目の前にゲームでよく見るウィンドウ画面が浮かび上がった。



 やべえ、睡眠不足をエナジードリンクで誤魔化しつづけて、ついに脳までやられたかも。



 これ、アレか『ステータス、オープン』って言うと開くアレだろ。アレ。



 俺は作業の休憩時間に読んでたWEB小説に出てきていたゲーム風異世界の話を寝落ちして見ているらしい。



 いや、だけどもガチャなんて出てこなかったしな。



 それよりもっ!! 今寝てたら、絶対に明日やるプレゼンの資料作り終われないってーの!!



 優雅に廃人ゲーマーしてた学生時代とは違って、今は家賃も光熱費も自分で稼ぎ出さなきゃならん身だ。



 うちは超がつくブラック企業なんで、振られた業務をこなせないやつは、『研修』という名の無給の休日出勤(本社呼び出し)を科せられる。



 だたでさえ、リモート勤務でサビ残が積み上がっているうえ、やりきれなかった仕事を休みにもしてひーひー言ってる身分なので、『研修送り』だけは避けたかった。



 起きろ、起きるんだ俺。



 ゲームとか楽しんでる時間はないんだ。



 夢から覚醒しようといろいろと試すが。一向に目が覚める気配はなかった。



 終わったな……。



 今度の休みは久しぶりにゲーム時間がとれると思ったのに。



 気落ちしている俺を慰めるかのように、蛍光ピンクのガチャガチャマシーンがレバーをグルグルと回した。



 おまえ、意外といいやつかもしれないな……。



 そういうやつ嫌いじゃないぜ。



 もう時間的にもアウトだろうし、どうせならこの夢で日頃のうっぷんを晴らしておくのもありだな。



 傍にいるガチャガチャマシーンの頭(?)を撫でると、覚醒を諦め、この夢を楽しむことにした。

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