第19話 じゃーん、メイドさん爆誕!

 結局、ロゴは妥当オブ妥当なものになった。丸いスペースの縁に、オレンジ色で「GOOD MOURNING!!」と印字。真ん中には、湯気の立つコーヒーカップが描かれている。

 描いたのはデウスだ。本人曰く、パソコンの絵描きソフトでちょちょいのちょいだったとのこと。


「ふふん、どうかね?」


 カウンター席で足を組み、得意げに胸を張るデウス。俺たちは、そんなデウス前方のパソコンに見入っていた。

「いいんじゃね?」

「デウス様……天才」

「すっごくオシャレです! かわいいです!」

「ふはは、褒めても婚姻届けしか出んぞ♡」


 ウインクしてザラメにアピるデウスは置いといて。

 ロゴはこれでいいだろ。

 さて、次は。


「やっぱ話題性がほしいな」


 インストゥア映えという言葉があるように、何か人を引き寄せるものがほしい。

 例えば、店の見栄え変えてみるとか。

 あるいは、料理をかわいくアレンジするとか。


「良い案、ある。前に……雑誌で見た」





 だいたい20分後。

 垂れ下がった幕の向こうには、デウスが待っていた。鼻歌を歌いながら、上機嫌に。


「おおっ!!」


 そして次の瞬間……バックヤードから出ていったザラメを一目見て、釘付けになっていた。いつも以上に目を輝かせ、息は荒い。興奮という言葉では足りないぐらい、テンションマックスな神。

 ハァハァうるせぇ。

 まぁ、予想はできてたがな。


 なぜなら――デウスの想い人、ザラメが今、メイド服を着ているからだ。

 白いヘッドドレス。黒を貴重とした上下。その上には白いエプロンという、ザ・メイドな格好。

 そんなザラメは、普段とは違う服に高揚しているらしい。つま先を軸に、得意げにくるりと一回転。ロングスカートがふわりと舞い、さっきまで隠れていた膝下があらわになる。


 ザラメの隣にいるコスズも、同じくメイドの格好をしていた。ザラメ異なる点といえば、頭にメイド用のキャップを被っていることだ。


「コスズちゃん、行きますよ〜、せーのっ」


 ザラメの掛け声で、二人はロングスカートの裾を持ち上げる。デウスに向かって、お辞儀して。

 そんで言ったのは、メイドといえばのセリフ。


「「おかえりなさいませ、ご主人様」」

「ぐはっ! これぞ天使……ああんっ……!」


 デウスはこの言葉を最期に、鼻血を勢いよく噴出させ倒れた。


「デウス様……ただの屍のようだ」

「ああっ、せっかくお掃除したのにぃ!」


 格好は変わってもいつもの調子な二人。

 コスズはデウスに手を合わせてるし、ザラメはモップでデウスの顔をワシャワシャ拭いてる。

 俺のことは気にせずに……。


「郡さんも、出てきてくださいよ〜!」


 と、思っていた時期が俺にもありました。

 振り向いたザラメが、バックヤードの中にいる俺に、声をかけた。


「なぁお前ら。俺は確かに賛成した、メイドカフェの案に。店員がメイドのコスプレをするっつー、この案に」

「はい」

「なんで俺もメイドなんだよ?!」


 俺もメイドの格好をさせられていた。

 しかも、良いのが無かったからって理由で、ザラメたちが来てるようなクラシックなヤツじゃない。

 短いスカート、露出する胸元。しかも、ヘッドドレスには猫耳までついてやがる。

 その上、バッチリメイクまでさせられた。


「だってだって! 店員皆でやった方が、連帯感があって良いじゃないですか!」

「こういうのは女だけがやれば良いだろ!!」

「郡……今の時代、男女平等……」

「それ絶対意味違うって!!」


 ツッコむ俺の肩に、いつの間にか復活したデウスが手を乗せる。そして、心の底から同情するような声で言う。


「……青年、自信を持ちたまえ。様になってるぞ」

「るせえよ!! 自分は女装しないからって高みの見物しやがって!」

「私は店員ではないからな」

「クソォア!!」


 おらこんな仕事いやだ。

 リクニャビとマイニャビ。登録しよかな。


 生まれて初めて、働くことを考えた。

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